Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、アントニオ・タブッキの本の感想のページです。

line
「インド夜想曲」白水uブックス(2005年4月読了)★★★★★お気に入り

失踪した友人・シャヴィエル・ジャナタ・ピントを探して、インドにやってきた「僕」は、まずは<檻の町>へ。そこは想像していたのよりも、はるかにひどい街でした。予約していたカジュラーホ・ホテルに向かった「僕」は、ヴィマラ・サールという娘に会うことに。彼女はシャヴィエルを心配して、「僕」に手紙を書いてよこしたのです。ヴィマラによると、シャヴィエルは最後の方は病気でとても怒りっぽくなっていたとのこと。そして彼女はシャヴィエルが「ゴアの連中」と手紙のやり取りをしていたと語ります。(「NOTTURNO INDIANO」須賀敦子訳)

物語は3部構成で、それぞれボンベイ・マドラス・ゴアという都市が舞台。そしてその3部はそれぞれ4つの物語に分かれています。全部で12の夜の物語。
ふっと気付くと自分までインドにいるような気分になってしまう作品です。主人公の「僕」は、事前にこの街の写真を見たことがあり、「貧困」を理解したつもりになっていたのですが、写真では感じられない現実の悪臭には閉口。そして写真は被写体を四角の枠に閉じ込めてしまうため、枠のない現実とはまた異質なものだと言っています。確かに本も情景を文字の中に閉じ込めてしまい、臭いはもちろんのこと、色も音も感じられないはず。しかしこの作品からは、ここに描かれた街の臭いや手触り、そして空気が伝わってくるような気がします。
そしてそんな「僕」が探しているシャヴィエルとはどのような人物なのか… 彼に関する手がかりはあまりに少なく、「僕」はその少ない手がかりを元に様々な人間を訪ね歩き、糸のように細い手がかりを辿っていくことになります。まずは場末の売春宿へ。そこでシャヴィエルが病気だったことを聞くと病院へ。そして全く手がかりが得られないまま、医者がふと会話の中に出した豪華なホテル・タージマハールへ。旅には新たな人間との出会いがつきものですが、これは本当にそんな旅そのものですね。しかしこうして歩き回り尋ね回っているうちに、まるで合わせ鏡の中に彷徨い込んでしまった感覚。姿は確かに見えるものの、あまり個性が描かれていない「僕」の姿は曖昧しか映っていません。目を凝らして見れば見るほど、輪郭がぼやけていくような印象。そして、そのうち徐々に見えてきた姿は、当初思っていた姿とはまた全然違っていて…。まるで気付かないうちにくるりと180度回転していたかのようですね。とても幻想的です。インドを辿る旅でありながら、彼の旅は自分の内面への旅でもあったようです。新書にして152ページと短い作品ではあるのですが、何とも深い味わいを持った作品でした。この味わいはくせになりそうです。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.