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このページは、パトリック・ジュースキントの本の感想のページです。

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「香水(パヒューム)-ある人殺しの物語」文春文庫(2007年5月読了)★★★★★
18世紀のフランスにいた天才肌のおぞましい男、それはジャン=バティスト・グルヌイユ。当時のパリは現代では想像のつかないほどの不潔さで、強烈な悪臭に満ちており、人間も家も街も全てに悪臭が漂っていました。そんなパリでも並外れて濃厚な悪臭の立ち込める一画に1738年に生まれたジャン=バティスト・グルヌイユは、生まれて間もなく母親を亡くし、サンマルタンのサン・メリー修道院、続いてフォーブル・サン・タントワーヌのマダム・ガイヤールの施設で育ち、10歳の時に皮なめし職人のグリマル親方の下に弟子入り。やがて香水調合師のジュゼッペ・バルディーニに弟子入りします。ジャン=バティスト・グルヌイユは、ただ1人体臭がなく、しかも恐ろしいほどの鋭い嗅覚を持つ男だったのです。(「DAS PARFUM」池内紀訳)

ジャン=バティスト・グルヌイユは、言葉よりも先に匂いを覚え、6歳の時には嗅覚を通して周囲の世界を完全に了解していたという少年。自分が嗅いだ匂いで物を覚え、区別し、何十万もの匂いを記憶の中に収めているのです。逆に匂いと関係のない抽象的な概念を表すような言葉は苦手。そんなグルヌイユが主人公なので、物語の中にはありとあらゆる匂いが登場します。それは花や香料といった良い香りから、糞便の臭いや腐敗臭まで様々。「匂い」よりもむしろ「臭い」の方が多いでしょうね。想像力のある読者ほど読むのが辛いかもしれません。それほどのおぞましさ。しかし作品そのものから感じられるのは、薫り高い芳香。
皆が心惹かれる美女の美しさの素はその魅惑的な香りであり、グルヌイユの存在感のなさがその無臭のせい。グルヌイユは匂いによって人々を支配します。この部分が面白いですね。良くも悪くも匂いの薄い日本にいるせいか、あまり考えたことのなかった概念でした。しかし香りが密接に記憶に結びついているというのは、日々実感すること。懐かしい香りによって、過去のある場面が鮮やかに蘇ってくることもあります。そんな時は、その場面と共に忘れていた想いも蘇ってくるもの。五感のうちでも視覚や聴覚、味覚、触覚は自分で避けられる部分が大きいですが、嗅覚だけは否応なく入り込んでくるもの。分かるような気がします。
非常にシュールでグロテスクはありますが、同時に非常に薫り高く感じられる作品。18世紀のフランスが生々しく感じられ、香水に関する知識を得られるという意味でもとても面白かったです。
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