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このページは、ミヒャエル・ゾーヴァ(アクセル・ハッケ)の本の感想のページです。

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「ちいさなちいさな王様」講談社(2004年8月読了)★★★★★お気に入り

ある日ふらりと「僕」の部屋にやって来たのは、「僕」の人差し指ぐらいの大きさしかない小さな王様。名前は十二月王二世。ひどく太っているので、白いテンの皮で縁取りされた、分厚い深紅のビロードのマントが、おなかのところではちきれそうになっています。王様は「僕」の部屋に来ると、自分の半分ほどの大きさのある、大好物のグミベアーを両腕で抱えてがぶりとかじりながら、「おまえのところのことについて、ちょっと話してくれるかね」と言うのです。(「DER KLEINE KONIG DEZEMBER」那須田淳・木本栄訳)

アクセル・ハッケが物語を書き、ミヒャエル・ゾーヴァが挿絵を描いた絵本。
ミヒャエル・ゾーヴァの挿絵が見たくて借りた本なのですが、ハッケの書いた物語の思いのほか哲学的な内容に驚きました。たとえば、王様の国では、普通の人間の国とは逆で、ある日ベッドの中で目覚めるところから人生が始まります。生まれた時に既に全ての知識を持ち、何でもできる状態から、日々の生活を送るうちに身体が徐々に小さくなり、色々なことを忘れていきます。そして最後にはけし粒のように小さくなり、誰の目にも見えなくなってしまうのです。それでも人生の最後にわくわくできるものが待っている人生を持つ王様は、「僕」たち人間に対して、「まったくお気の毒だね」と言います。
我儘で短気で、グミベアーばかり食べている王様は、既にかなり小さいですし、既に色々なことを忘れています。その言動はまるで駄々っ子の子供。癇癪を起こして、角砂糖を「僕」のコーヒーに次々と投げ込んだりするのです!しかし本当の子供と違うのは、意外なほど含蓄に富んでいる言動。王様にとって「忘れる」ということは、生きていく上において不要な知識を失うだけなのでしょうね。想像力と可能性は広がり、人生の深みは増す… これは知識を得ることばかりに汲々とし、想像力をどんどん失っていることに気づいていない人間に対する大きな皮肉なのでしょうね。読んでいると、自分自身も想像力のカケラもない大人になっているのではないかと、ふと振り返りたくなってしまいます。
もちろん、ミヒャエル・ゾーヴァのどこかノスタルジックな雰囲気のある挿絵はとても素敵。王様と女王様が一緒に空から星を1つ取ってきて…というエピソードも可愛いですね。


「思いがけない贈り物」講談社(2004年9月読了)★★★★★

クリスマスイブの夜、仕事を終えたサンタの手元に残ったのは、1つの人形。誰の分の人形なのか、いくら考えても思い出せないサンタは、パソコンで調べ始めます。クリスマスに人形をもらわなかった女の子は6人、男の子は234万8167人。サンタは早速人形を持って、まずその6人の女の子の家に行くことに。(「DAS UNERWARTETE GESCHENK」平野卿子訳)

エヴァ・ヘラーが物語を書き、ミヒャエル・ゾーヴァが挿絵を描いた絵本。
赤いマントと帽子という伝統的なサンタの服装ながらも、パソコンで贈り物を渡す子供たちのデータベースを管理し、そりの代わりにタクシーで贈り物を届けに行くサンタ。煙突から家に入るのではなく、子供たちが寝ている間にこっそり贈り物を置くのでもなく、時には子供たちと会話してしまうサンタは、とても現代的。それでも友達のミセス・ハッピーやミスター・ラブには、真面目すぎて融通がきかないと思われているのですね。そして子供たちもまた、昔ながらの、贈り物を素直に待ち望む子供たちとはすっかり様変わりしているようです。飽食の時代を象徴しているような物語。素直な気持ちで贈り物を楽しみに待ち、もらった物を感謝し、大切にするという、ごく当たり前のことができる子供の少ないこと…。それでも最後にその人形を一番待ち望んでいた子供に無事届けられて良かったです。もらう人間と贈り物とが互いに呼び合うようなプレゼント、素敵ですね。


「ゾーヴァの箱舟」BL出版(2004年9月読了)★★★★

アクセル・ハッケやエヴァ・ヘラーとの共著で、挿絵を担当しているゾーヴァの 動物寓話画集 。既刊の本に掲載されている挿絵も、ここで改めて見ることができます。しかし文章がない、絵だけの状態で見ると、それまで思っていたのとは少し印象が違っていたので驚きました。それまでは、柔らかく渋い色使いの落ち着いた絵という印象だったのですが、意外とシュールだったりブラックだったりという味わいも含んでいるようですね。少しぞくりとするものを感じながらも、この独特な雰囲気には、やはり惹き付けられました。しかし、絵だけでももちろん楽しめるのですが、絵を見ていると、その背後にある物語を知りたくなってしまいます。(「SOWA'S ARK-AN ENCHANTED BESTIARY」)


「キリンと暮らす クジラと眠る」講談社(2004年9月読了)★★★★

幼い頃、一番の仲良しだったクマのぬいぐるみのことを思い出し、今あのクマちゃんに会ったらどんな挨拶をすればいいだろう… と悩む著者。しかし図書館で借りた「人とクマ/そのフェアな共存のための入門書」にあったのは、「落ち着いてじっとしていれば、クマのほうが、あなたから逃げていくでしょう」という言葉。親密になるためのとっかかりを探していたのに、出会わない方が幸せのような書き方に、著者はショックを受けます。(「HACKESTIERLEBEN」那須田淳・木本栄共訳)

帯に書かれているのは、「ひとと動物たちとのパートナー学」という言葉。この本では、キリンやペンギンのような、動物園にもいる人気の動物たちから、ミミズやゴキブリ、ヒキガエルのようなあまり人気があるとは思えない生き物にまでスポットが当てられて、考察されていきます。嘘か本当か分からないようなことがまことしやかに書かれており、その斜めがかった皮肉まじりの視線がなんとも暖かくて楽しいのです。そして、サブタイトルが面白いですね。例えばゴキブリは、「命がけの片思い」。「ゴキブリほど人間に近づこうと絶望的な努力を試みてきた生き物がほかにいただろうか?」「この生き物が人間にかたむける愛、しかもあそこまですげなく、憎しみをこめて拒絶される片想いが、はたしてほかにあるだろうか」…ゴキブリのことをこんな風に書いている文章を読むのは初めてです。
26の生き物が紹介されていますが、この中で私が一番好きなのは、「スーパーモデルたちの孤独」フラミンゴの話。はげたおじさんを見ると、そっと顔をそむけるフラミンゴ。「ヴォーグ」や「エル」といったファッション誌を喜ぶフラミンゴの姿が、意外なほどイメージにぴったりと合っていて楽しいです。


「クマの名前は日曜日」岩波書店(2004年9月読了)★★★★

ある朝、目を覚ますとベッドで横に寝ていたクマのぬいぐるみ。その日が日曜日だったことから、「ぼく」はクマに「日曜日」という名前をつけます。その時から「ぼく」と「日曜日」は親友となり、いつでも何をする時も一緒。しかし「ぼく」は「日曜日」が好きだけれど、「日曜日」は、「ぼく」のことを好きなのだろうか。「ぼく」に抱きついてこないし、キスもしない、何にもしゃべらないでずっと座っているだけ。「ぼく」は考え始めます。(「EIN BAER NAMENS SONNTAG」丘沢静也訳)

アクセル・ハッケとミヒャエル・ゾーヴァのコンビが送り出した絵本。
色々と考え始めた「ぼく」がその晩見た夢は、「ぼく」と「日曜日」の立場が入れ替わる夢。相手が何を考えているのかを知るためには、相手の立場になって考えてみることが大切ではありますが、だからといって、これほど自然に主人公を相手の立場に立たせてしまうとは!この柔軟さがいいですね。「ぼく」の夢の中は、ちょっぴりシュールながらも、とても可愛いらしい世界。クマたちが子供の人形を買い求める姿も微笑ましいですし、子供のクマが、「プチ人間グミ」を食べているのも、少々ブラックながらも可笑しいです。そして夢から覚めて… 「日曜日」の気持ちが分かった「ぼく」も、「ぼく」に分かってもらった「日曜日」も、どちらもとても幸せそうです。


「エスターハージー王子の冒険」評論社(2004年9月読了)★★★★

オーストリアでは有名なウサギの貴族、エスターハージー家。しかしある日靴屋を訪れたエスターハージー伯爵は、孫たちの身体が以前に比べて明らかに小さくなっていることに気付かされることに。都会暮らしに慣れ、サラダ菜やニンジンの代わりにチョコレートやキャンディやケーキばかり食べるという生活が何世代も続いた結果、生まれてくる子ウサギたちの体格がどんどん悪くなってしまったらしいのです。伯爵は、自分よりも大きなお嫁さんを探させるため、男の孫たち全員を外国に送り出すことに決めます。くずかごに落ちて出てこられなかったというエピソードを持つエスターハージー王子もまた、ドイツのベルリンを目指して出発します。(「ESTERHAZY」那須田淳・木本栄訳)

イレーネ・ディーシェとハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーが物語を、ミヒャエル・ゾーヴァが挿絵をつけた絵本。
オーストリアにいる時は、立派な貴族の家の一員。しかし一旦ドイツに行ってしまうと、ただの1匹のウサギにすぎないエスターハージー王子。読んでいると、擬人化がどうもすっきりしないようで気になったのですが、それでもウサギたちがとても可愛い物語です。自分からペットショップに捕まってしまったり、デパートでアルバイトをしてみたりと、貴族らしからぬ行動を繰り広げるエスターハージー王子の姿が微笑ましいですね。特にエーファのパパの豹柄のパンツをはいているところが可愛い!
甘ったるいお菓子ではなく野菜を食べなければならないというのも、ベルリンの壁が登場して、「壊すなら、壁なんて最初から作らなきゃいいのにさ」という言葉が出てくるところも、いかにもドイツらしいですね。訳者あとがきに書かれていたのですが、ベルリンの壁があった時代、壁の付近は野生の小動物のパラダイスだったのだそうです。人間にとってはあれほどの悲劇を生んだ壁も、小動物にとってはパラダイス。物事の裏表というのは、意外なところにもあるものなのですね。


「冷蔵庫との対話-アクセル・ハッケ傑作集」三修社(2004年10月読了)★★★★

「南ドイツ新聞マガジン」に連載しているアクセル・ハッケのコラムを本にまとめたもの。ハッケの家族は、妻のパオラと息子のルイス、そして冷蔵庫のボッシュ。この、常に「今にも捨てられるのではないか」と怯えている、ちょっぴり古い型のボッシュ。ハッケはボッシュの中からビールを取り出すたびに、ボッシュの悲観的な愚痴を聞かされる羽目に。 (諏訪功訳)

「ちいさなちいさな王様」や「キリンと暮らす クジラと眠る」で、一筋縄ではいかないところを見せてくれたハッケですが、この本も同様でした。なかなかシュールでウィットが効いてて面白いです。
この本の中から見えてくるハッケは優柔不断で悲観主義者で、しかも冒険心のかけらもない小心者。新しい物、特に機械関係は大の苦手で、奥さんのパオラにいつもやり込められています。そんなハッケが書く、「健康大百科」を読むと全ての症例に自分が当てはまるような気がしてくる「健康大百科」、スーパーのレジで、自分の列だけが進まない気がしてしまうという「間違った列」、映画を観にいった時の駐車場探しの話「楽観主義者と悲観主義者」などは、「分かる分かる」と思いながらも、その自虐的な姿に思わず笑ってしまいます。自分自身をネタに笑いを取ろうとするのは、まるで大阪人のようですね。携帯電話の留守番電話を聞くのに四苦八苦する「留守電チェック法」なども同じ。私自身は、どちらかといえばパオラに近い楽観主義者なので、ハッケのような人と一緒にいたら、パオラのようにやり込めたくなってしまうでしょうね。しかしそんなハッケとパオラも、実はとても良いコンビ。ルイスも合わせて、とても素敵な家族です。そして悲観主義者同士のハッケとボッシュも、何とも言えない良いコンビなのです。
いつもコンビを組んでいるミヒャエル・ゾーヴァのイラストが今回は表紙しかないのは残念でしたが、でもこの話にゾーヴァだったらどんな絵をつけるのかな、と想像するのも楽しいです。


「ミヒャエル・ゾーヴァの世界」講談社(2005年10月読了)★★★★

広告やポスター、そしてポストカードの仕事から、本の挿画を手掛けるようになり、オペラ「魔笛」の美術監修、映画「アメリ」への参加で活動の場をさらに広げたミヒャエル・ゾーヴァが、自作や自分自身について語った文章。未発表のものを含めて45点の作品が収められた画集です。(那須田淳・木本栄訳)

ゾーヴァの絵には動物が多く描かれているのが1つの特徴だと思うのですが、それは「風景に付け足しで描いてみたら思いがけずドラマが生まれて面白かった」のがきっかけなのだそうです。人間を描くと、どうしても背後にある物語が気になってしまう。しかし人間を描くところをあえて動物に置き換えてみると、人間を描く場合よりもシリアスになりすぎなかった、とのこと。描かれているのが動物でも十分に物語を感じさせる絵だと思うのですが、ゾーヴァがそのように考えていたというのがとても興味深かったです。私自身は、もっと擬人化されているのだろうと思っていたのですが、ゾーヴァの中にはそういう意識はあまりないようですね。ゾーヴァが絵を描く時のイメージは、テレビや雑誌からヒントを得たり、日常のひらめきから得るとのこと。そして映画「アメリ」は私も観ましたが、絵だけでなく、アメリの部屋のランプや、少女時代のシーンに登場する「病気のワニ」もゾーヴァが作ったものだったとは知りませんでした。しかし改めて見ると、いかにもゾーヴァらしい作品です。
巻末には、「ちいさなちいさな王様」を始めとして色々な作品で組んでいるアクセル・ハッケの「ゾーヴァのついて」も。ハッケによると、ゾーヴァは「上塗り家」。「税金の申告書」を理由になかなか仕事を引き受けようとせず、引き受けた後も、絵を描いては気に入らずに10回ほど上塗りしてしまったり、家の用事を理由に言い訳したり、ゾーヴァと一緒に仕事をするというのは、なかなか大変なことのようです。言い訳の中に、木を植えなければならない、鉢植えの花を買ってこなければならないなど、園芸関係が重なっていたのが、なんとなくドイツ人らしくて可笑しかったです。
通常の本よりもフォントがかなり大きく、行間もあいているため、文章が読みにくかったのですが、ミヒャエル・ゾーヴァ自身に興味がある人には読み応えがあるのではないかと思います。

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