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このページは、山颯の本の感想のページです。

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「女帝-わが名は則天武后」草思社(2007年7月読了)★★★★★
7世紀、唐の時代。隋帝国の名門に生まれた母を持ちながらも、父の死によって異母兄たちに財産を取り上げられ、父の故郷の村での惨めな生活を余儀なくされた武照。しかし10歳の時に出会った大将軍李勣によってその非凡さを認められ、勅命によって太宗皇帝の後宮に召されることになります。後宮では一度も皇帝に召されることなく、皇帝の死後は一旦尼寺へと向かうものの、後宮で親しくなっていた新皇帝によって照は再び後宮へと召されることに。(「IMPERATRICE」吉田良子訳)

中国4千年の歴史でただ1人の女帝となった則天武后。漢代の呂后、清代の西太后とともに「中国の三大悪女」として有名な彼女の姿は後世の歴史家によって作られたものだとして、実は名君であった彼女の真実の姿を描きだそうとする作品です。確かに歴史に描かれているのは勝者にとっての真実。たとえ夫や息子が頼りないばかりに、不本意ながらも政治に関わることを余儀なくされたという事情があったとしても、女性が自分より上の地位にいることを妬む男性は多いもの。則天武后に関する歴史的な記述のほとんどは、そういった男性によって書かれたものなのでしょうね。
美しい文体で描かれる則天武后の姿は、凛としていて聡明な女性。とてもリアルな存在感があります。読んでいると、その姿が目の前に浮かぶよう。とてもではないけれど、今までの則天武后の姿とは重なりません。後宮の中では彼女もまた皇帝の寵を争う立場にいるはずなのに、ただ一人第三者的な立場に立ち、周囲を客観的に観察し続ける武照だからこそ、結果的に後の皇帝となる稚奴の心を射止めることになるのですが、皇位など考えてもいなかったのに、じきに皇帝になることが分かった途端、自ら求めなくとも女性の方から積極的に寄ってくるようになる稚奴の立場も、実はあまり幸せなものではないのかもしれませんね。そして性格は良くとも気弱な皇帝を支えて、その細腕に広大な中国を一手に引き受けることになった武照の前にあったのは、ただひたすら孤高に歩む道でした。夫を失った後も、頼りない息子に政治を任せきることができず、彼女は簾の陰から政治的な手腕を発揮し続けます。実権を握り続けること単純に妬む人間の存在に気づきながらも、その重圧と孤独感に押しつぶされそうになりながらも、国を投げ出してしまうことのできない武照。彼女は強い意志の力で孤独な道を邁進し続けます。「誣告」を奨励したり、国号を「唐」から「周」へと変えたことは、後世の人間にとっては反発材料。しかし科挙によって広く人事を登用したり、安定した治世を築いたことは、誰も語ろうとしないのですね。
読んでいると、彼女の孤独が胸に迫ってきます。特に彼女が晩年に若い男に溺れた辺りは、彼女の孤独が一番ひしひしと伝わってきた場面でした。女帝であることは、中国帝国のトップに立つことは、彼女から並みの人間としての幸せを奪うことだったのですね。年老いた武照の姿が本当に切ないです。
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