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このページは、ルイス・セプルベダの本の感想のページです。

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「カモメに飛ぶことを教えた猫」白水uブックス(2008年11月読了)★★★★★
スペイン北部のビスケー湾を目指して、北海にそそぐエルベ川河口の上空を南下していた<赤砂灯台>のカモメたち一団は、見張り係がみつけたニシンの群れを目指して急降下。6時間も飛びっぱなしで、そろそろ一休みをして体力を回復したい頃合だったのです。しかし銀色のつばさのカモメ・ケンガーが4匹目のニシンをとりに海に潜った時、周囲の大気をつんざくような見張り係の警告の声が。ケンガーが海面に頭を出した時、既に仲間たちの姿はありませんでした。警告は、海に広がった原油を知らせるものだったのです。原油にまみれたカモメは、魚の餌食になるか餓死するさだめ。羽に原油がべっとりついてしまったケンガーは、なんとか飛び立つことに成功するものの、やがて力尽き、ハンブルクの一軒の家のバルコニーに墜落。そこにはゾルバという黒い猫がいました。自分の命が長くはないことを悟ったケンガーは、自分の産む卵をゾルバに託すことに。そして卵を食べないこと、ひなが生まれるまで卵の面倒をみること、そしてひなに飛び方を教えることをゾルバに約束させます。 (「Y DEL GATO QUE LE ENSENO A VOLAR」河野万里子訳)

ゾルバ、大佐、秘書、博士、<向かい風>といった猫たちと、フォルトゥナータと名づけられたカモメとの友情物語。「港では、一匹の猫の問題は、すべての猫の問題だ」「港では、一匹の猫が名誉にかけて誓った約束は、港じゅうのすべての猫の約束じゃ」という言葉のもとに、死んでいったカモメのケンガーとの約束は厳重に守られることになります。しかし何でも載ってる博士の百科事典にも、カモメの育て方は載っていないのです。猫たちのカモメのひな育ては、全くの手探り状態で始まります。綺麗な石程度にしか思えない卵をゾルバは温め続け、やがて生まれたひなにはハエを取ってやり、人間たちに見つからないように場所を移し、ひなを狙わないように野良猫と下水管のネズミに話をつけます。そしてフォルトゥナータをという名前をつけられたカモメのひなは、猫たちの愛情に包まれて育つことに。自分も猫になりたい、自分も猫なのだと思うほどまでに。
この猫たちがとても魅力的。とても男気があってかっこいいのです。私は動物物語は基本的にあまり好きではないのですが、これはいいですね。ゾルバたちにちょっかいを出す2匹の野良猫や、ハリーのバザールにいるマチアスという名前のチンパンジー、下水道のネズミたち、といった面々ですら憎めません。とてもシンプルな物語なのですが、とても力強く愛情たっぷり。ヨーロッパでは「8歳から88歳までの若者のための小説」という副題で刊行されたと聞いて納得です。一見童話のような作品なのですが、これは単なる子供向けの作品ではありませんね。子供も大人もそれぞれに楽しめる作品です。

P.123 「きみのおかげで、ぼくたちは、自分とは違ってる者を認め、尊重し、愛することを知ったんだ。自分と似た者を認めたり愛したりすることは簡単だけれど、違っている者の場合は、とてもむずかしい。でもきみといっしょに過ごすうちに、ぼくたちには、それが、できるようになった。」

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