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このページは、サン=テグジュペリの本の感想のページです。

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「人間の土地」新潮文庫(2006年4月読了)★★★★★お気に入り
1926年。当時トゥールーズ=ダカール間の連絡に当たっていたラテコエール社に、定期航空の若い操縦士として入社したサン=テグジュペリ。使用機の慣熟飛行やトゥールーズ=ペルビニャン間の短距離往復をこなし、気象学の講義を受けていたサン=テグジュペリにも、とうとう初飛行の日がやって来ます。(「TERRE DE HOMMES」堀口大學訳)

今のように、離陸と着陸さえきちんとできればあとは計器任せの飛行ができるような時代ではなく、燃料もそれほど積めませんし、いつ発動機が止まってしまうか分からないような飛行機の黎明期。今の時代でも飛行機事故は大惨事となり得るのに、サン=テグジュペリの時代の時代には、今とは比べ物にならないほどの危険をはらんでいます。そんな常に命を失う危険と背中合わせの任務の中での出来事を描いていくエッセイ的文章なのですが、「エッセイ」という言葉が醸し出すどこか軽い雰囲気は、この作品にはまるで似合わないですね。どの部分を取ってもずっしりとした重さが伝わってくるようです。
「定期航空」の中で、新米操縦士のサン=テグジュペリたちの質問に言葉少なく答える先輩操縦士たちの姿も印象的ですが、この本の中で一番印象に残るのはギヨメのエピソード。ギヨメは、同じ航空路でサン=テグジュペリに先んじた僚友。その後、南米大陸アンデス山脈横断や、南大西洋横断の郵便飛行に2つの記録を樹立するギヨメが、初飛行を翌朝に控えたサン=テグジュペリに地理学の講習をする場面も印象に残りますし、何といっても吹雪のアンデスの山中から見事に帰還した装備も食糧もないまま5日と4晩歩きとおして、奇跡的に生還したギヨメの言葉が強烈です。「ぼくは断言する、ぼくがしたことは、どんな動物もなしえなかったはずだ。」
しかしエピソードそのものも十分魅力的ではあるのですが、この本の一番の魅力は、サン=テグジュペリ自身が何度も危険な任務をこなし、時には不時着や「砂漠のまん中で」の中に書かれているような遭難を経験し、死の一歩手前までいくことによって得たもの。これらの体験を経て、サン=テグジュペリの中に育まれた感性は、まさに大地が教えてくれたこと。おそらくこういった体験がなかったなら、サン=テグジュペリをサン=テグジュペリたらしめているこの感性は芽生えなかったのでしょうね。決して流暢に流れる物語ではありませんし、ドキドキワクワクするような作品ではないのですが、本当に信じられないぐらい美しい作品。読み返すほどにしみじみと伝わってくるものがありそうです。

収録:「定期航空」「僚友」「飛行機」「飛行機と地球」「オアシス」「砂漠で」「砂漠のまん中で」「人間」
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