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このページは、ジャンニ・ロダーリの本の感想のページです。

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「チポリーノの冒険」岩波少年文庫(2006年10月再読)★★★★★

チポリーノは貧しいたまねぎ一族の少年。ある日、国の総督であるレモン大公が、視察のためにチポリーノたちの住む木造バラックの辺りを通りかかることになり、チポリーノと父親のチポローネは、沿道の群集たちよって前列に押し出されてしまいます。そしてひどく押されたチポローネは、レモン大公の足をひどく踏みつけてしまったのです。チポローネはあっという間にちびレモン兵たちに逮捕されて牢屋に入れられ、終身刑を言い渡されることに。牢屋にいる父親に面会に行ったチポリーノは、世間に出て勉強しろという父親の言葉に、チポッラおじさんに母と弟たちのことを頼むと、1人旅に出ることに。(「IL ROMANZO DI CIPOLLINO」杉浦明平訳)

チポリーノはたまねぎですし、ブドウ親方、レモン大公、トマト騎士、エンドウ豆弁護士、イチ子やサクラン坊やなど、野菜や果物が中心となった物語。児童書ですが実は政治色が強く、この作品も「冒険」という名目で、レモン大公の独裁政治に革命を起こし、共和制の世の中に変わるまでの様子を描いています。愉快そうな「冒険」と、ロシア語の訳書からとったというB・スチェエーヴァの可愛い挿絵からは、一見想像もつかないような厳しい現実。ロダーリの初期の作品には、このように政治色が強い作品が多かったのだそうです。しかし子供の頃も、薄々それを感じてはいながら楽しく読んでいましたし、大人になった今読み返しても、やはり楽しかったです。挿絵も相変わらず可愛いですね。
それにしても、チポリーノの歌があったのは覚えていましたが、「森は生きている」のマルシャークが作っていたとは… 驚きました。


「うそつき国のジェルソミーノ」筑摩書房(2006年10月読了)★★★★

小さい頃から声が大きかったジェルソミーノは、小学校に行くようになってからは、声で黒板や窓ガラスを壊してしまうほど。それ以来、声には気を付け続けてきたジェルソミーノですが、ある時、声で梨の実を落として村中で大騒動になってしまい、とうとう村を出ることを決意します。そして国境を越えてジェルソミーノがやって来たのは、パン屋のことを「文房具屋」、文房具屋のことを「パン屋」と呼び、本物のお金を見せると警察を呼ばれてしまいそうになり、猫は犬の名前を持ちわんわんと鳴く「うそつき国」でした。ジェルソミーノは猫のゾッピーノと仲良くなります。(「GELSOMINO NEL PAESE BUGIARDI」安藤美紀夫訳)

書かれた年代としては、「チポリーノの冒険」「青矢号のぼうけん」に続く作品なのだそうですが、こちらには政治色はそれほど感じられないですね。もちろん風刺はたっぷりあるのですが、まるで楽しいほら話のようです。まるでケストナーの作品を読んでいるような印象でした。
物を壊してしまうほどの声というのは、それほど目新しく感じないのですが、ジェルソミーノや猫のゾッピーノの冒険は文句なしに楽しいですし、画家・バナニートの描いた絵がそのまま本物になってしまうというのも楽しいです。ジャコモーネの末路もなかなかいいですね。しかしワクワクするような展開の中で、立ちんぼベンベヌートのエピソードだけは切ないのです。日本語に訳されている本なので綴りまでは分からないのですが、イタリア語で「ベンベヌート」といえば、「ようこそ」という歓迎の言葉。人の命を延ばすごとに自分の命を失ってしまうという彼にこの名前を持ってきてる意味を考えずにはいられません。


「空にうかんだ大きなケーキ」汐文社(2009年10月読了)★★★

4月のある朝の6時頃。トゥルッロで町中へと向かう始発バスを待っていた人々は、ふと空を見上げて驚きます。そこには暗い色をした巨大なまる物体が雲のようにじっとしていたのです。1人の「火星人だ!」という叫び声がきっかけとなって辺り一帯は大騒ぎになり、町では非常事態宣言が発令されます。その頃、ニュータウンの第五区のマンションのメレッティさんの家でも、宿題をするために早く起きたパオロが空に浮かぶ物体を見つけ、慌てて妹のリタを起こしていました。しかしその時、2人のいるベランダに何かが落ちてきたのです。それはとても美味しいチョコレートの固まりでした。(「LA TORTA IN CIELO」よしとみあや訳)

「イタリアからのおくりもの―5つのちいさなファンタジア」という叢書の中の1冊。他の4冊は「木の上の家」ビアンカ・ピッツォルノ、 「ベネチア人にしっぽがはえた日」アンドレア・モレジーニ、「ドロドロ戦争」ベアロリーチェ・マジーニ、「アマチェム星のセーメ」ロベルト・ピウミーニ。
これは1966年、ロダーリがローマのトゥルッロというニュータウンにある小学校で、4年生の生徒たちと作ったお話なのだそう。道理で、いつも以上に子供たちが大活躍しているわけですね。そして物語の中心となるのは、美味しそうなケーキ。チョコレートやマジパン、パイ生地、干しブドウ、砂糖づけシトロン、生クリーム、アーモンド菓子、砂糖づけのさくらんぼ、マロングラッセ、クルミやハシバミの実、アイスクリーム… ザバイオーネ、ロゾリオ酒やマルサラ酒といった日本ではあまり馴染みのない名前も、いかにも美味しそうに感じられてしまうのはなぜなのでしょう。イタリアの子供たちは、さぞわくわくしながら読むのでしょうね。
楽しい物語ながらも、純粋なロダーリの作品に比べると少し落ちるかもしれません。それでもロダーリらしさはたっぷり詰まっていますし、ケーキにことよせた世界平和へのメッセージもこめられています。子供たちの柔軟な発想とシンプルな知恵に、頭の固い大人たちがすっかり負けているという図には、時には物事を小難しく考えるのをやめて、あるがままを受け入れてそのまま楽しもうと語りかけられているような気がします。


「猫と共に去りぬ」光文社古典新訳文庫(2006年9月読了)★★★★

【猫とともに去りぬ】…駅長を退職して、息子家族と同居しているアントニオ氏。しかし最近は誰も彼の話に耳を傾けようとしないのです。アントニオ氏は猫と暮らすことを決意します。
【社長と会計係 あるいは 自動車とバイオリンと路面電車】…マンブレッティ社長がいつものように、バックミラーに村で一番美しい車を尋ねると、返ってきた答は「ジョヴァンニ会計係の車」でした。
【チヴィタヴェッキアの郵便配達人】…郵便配達人の中で一番身体の小さな「コオロギ」もしくは「小走り」は、大の力持ち。郵便局長に重量挙げをやってみる気はないかと打診されます。
【ヴェネツィアを救え あるいは 魚になるのがいちばんだ】…1990年までにヴェネツィアが完全に水没するという見解が発表され、トーダロ氏は魚になることを提案します。
【恋するバイカー】…マンブレッティ社長の1人息子・エリーゾが結婚したいと思ったのは、日本製のバイク。父に大反対され、エリーゾはバイクのミーチャと家を出ます。
【ピアノ・ビルと消えたかかし】…忠実な相棒のピアノと共にルマーケ平原をさすらう孤高のカウボーイ、ピアノ・ビル。そのピアノ・ビルのピアノの音色を追ってトルファ村の保安官が追いかけます。
【ガリバルディ橋の釣り人】…なぜか魚に少しも好かれず、いつも全く成果のないアルベルト氏。ある日、次々と大物を釣り上げている男に、魚が釣れるまじないを教えてもらうのですが…。
【箱入りの世界】…ピクニック帰りのゼルビーニ一家がローマに向けて車を走らせている時、森に置いてきたビール瓶や空き瓶が追いかけてくるのに気づきます。
【ヴィーナスグリーンの瞳のミス・スペースユニバース】…ドライクリーニング屋を切り盛りしているデルフィーナは、ある日フェリエッティ夫人のドレスを着て、宇宙船にもぐりこみます。
【お喋り人形】…7歳のエンリカは、誕生日にお喋りをする電子式の人形をもらうことに。エンリカの叔父のレモは、こっそり電子回路をいくつかいじります。
【ヴェネツィアの謎 あるいは ハトがオレンジジュースを嫌いなわけ】…将来有望な若い広告クリエーター、ミスター・マルティニスは、ハトの餌を持ってヴェネツィアへ。しか計画は上手くいかず…。
【マンブレッティ社長ご自慢の庭】…マンブレッティ社長は、専属の庭師・フォルトゥニーノに美しい庭園を造らせます。そして翌日洋ナシが生るように洋ナシの木を棍棒で殴りつけます。
【カルちゃん、カルロ、カルちゃん あるいは 赤ん坊の悪い癖を矯正するには…】…アルフィオ氏の生まれたばかりの息子・カルロが突然周囲の人間にテレパシーで話しかけ、皆驚きます。
【ピサの斜塔をめぐるおかしな出来事】…ピサの斜塔上空に突然現れた金と銀に光る巨大な宇宙船。なんと宇宙人たちは、懸賞で当たったピサの斜塔を取りに来たというのです。
【ベファーナ論】…エピファニア祭(公現祭)で子供たちに贈り物を届けてくれる魔女のベファーナは、ほうき、ずた袋、おんぼろ靴の3つに分けることができます。
【三人の女神が紡ぐのは誰の糸?】…アドメトス王の死が迫っていることを知ったアポロンは、アドメトスを助けようと運命の3人の女神に頼み込みます。(「NOVELLE FATTE A MACCHINA」関口英子訳)

一見童話風の物語ばかり16編が収められているのですが、このピリリと効いた辛口のスパイスは、子供向けというよりもむしろ大人向けかもしれませんね。昔話を一捻りしたり、奇想天外のアイディアを楽しませてくれる作品ばかり。私が気に入ったのは、アルジェンティーナ広場の鉄柵を乗り越えると猫になってしまう表題作「猫とともに去りぬ」や、シンデレラを一捻りした「ヴィーナスグリーンの瞳のミス・スペースユニバース」。しかしその他にも、ヴェネツィアが水没してしまうと聞いてもヴェネツィアから逃げようとするのではなく、いっそのこと魚になって環境に適応してしまおうとする「ヴェネツィアを救え あるいは 魚になるのがいちばんだ」、マカロニウェスタンかと思いきや、カウボーイが持ち歩くのは拳銃ではなくピアノだった… と意表を突いてくれる「ピアノ・ビルと消えたかかし」など、アイディアが面白い作品が色々とありました。先日読んだばかりのエウリピデスの悲劇「アルケスティス」も、一捻りされて「三人の女神が紡ぐのは誰の糸?」へ。本当に、その時女神たちは誰の糸を紡いでいたのでしょう? ある意味ハッピーエンドかと思い込んでいたギリシャ悲劇にもう一歩踏み込んでいるところが面白かったです。


「パパの電話を待ちながら」講談社(2009年9月読了)★★★★★お気に入り

ヴァレーゼに住むビアンキさんは薬のセールスマン。7日間のうち6日間はイタリアじゅうを西から東へ、南から北へ、そして中部へと旅してまわっています。そんなビアンキさんに幼い娘が頼んだのは、毎晩1つずつお話をしてほしいということ。女の子はお話を聞かないことには眠れないのです。そしてビアンキさんは約束通り、毎晩9時になるとどこにいようが家に電話をかけて、娘に1つお話を聞かせることに。(「FAVOLE AL TELEFONO」内田洋子訳)

ロダーリによるショートショート全56編。電話で娘に語る小さな物語という設定通り、どれも小さなお話なのですが、これが本当に楽しいのです。空からコンフェッティは降ってきますし、回転木馬は宇宙に飛んでいきますし、鼻は逃げていきますし…! ロダーリの頭の中では次から次へとアイディアが湧き出しているようですね。これほどまでに沢山のお話を並べても2つとして同じような物語がなく、どれも奇想天外。読者の気を逸らさないどころか、全く飽きさせないというのは、さすがロダーリですね。しかもオチがなくても、一見無茶苦茶な終わり方でも、ロダーリの手にかかると楽しく読めてしまうのが不思議なほどです。全くのナンセンスな物語もあれば、「チポリーノの冒険」を書いたロダーリらしく、世界の平和を願うような物語もあります。私が特に好きだったのは、散歩をしながら体をどんどん落してしまう「うっかり坊やの散歩」や、一見何の変哲もない回転木馬の話「チェゼナティコの回転木馬」、数字の9が計算をしている子供に文句を言う「9を下ろして」、春分の日に起きた出来事「トロリーバス75番」など。しかしどれも捨てがたいほど楽しいお話ばかりです。
翻訳の都合で14編が割愛されているというのがとても残念。いつか完訳版も読んでみたいものですが…。しかしここに収められている物語も、翻訳は大変だったのでしょうね。面白かったです。

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