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このページは、レーモン・クノーの本の感想のページです。

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「地下鉄のザジ」中公文庫(2006年2月読了)★★★

母・ジャンヌ・ラロシェールに連れられて初めてパリにやって来た少女ザジは、母が情夫とデートしている2日間、伯父のガブリエルの家に預けられることに。ザジはパリに来たら、地下鉄に乗ることを一番楽しみにしていました。しかし地下鉄はタイミング悪くストライキ中。翌朝ガブリエルの家を抜け出したザジは、地下鉄に乗れない欲求不満から、早速ひと悶着起こします。(「ZAZIE DANS LE MEETRO」生田耕作訳)

「けつ喰らえ」が口癖の少女・ザジを中心にした小粋なコメディー。「(身振り)」「沈黙」など、戯曲のト書きのような表現も楽しいですし、言葉遊びもシュール。お行儀が悪く小生意気ながらも魅力的なザジはもちろんのこと、他の登場人物たちも、夜警をしていると言いながら、実はホモ・キャバレーで女装して踊るのが仕事のガブリエル、その美人妻でどんな内容でもお淑やかに話すマルスリーヌ、本当は何者なのかさっぱり分からないトルースカイヨン、男と見れば色目を使うムアック未亡人など、一筋縄ではいかない人物ばかり。全てのものがめまぐるしく移り変わっていくこの作品の中で、実は最初から最後まで変わらずにいるのは、ザジだけなのかもしれませんね。ドタバタな展開に翻弄されながらも、1950年代のパリの街の雰囲気が堪能できました。まだまだ戦後の、慌しく粗雑で、しかし生活力に満ちた空気。蚤の市を始めとして、東洋の観光客を引き連れて行くことになるサント・シャペル寺院やエッフェル塔、サクレクール寺院などをザジと一緒にぐるぐると観光して回った気分です。
ただ、翻訳文が少々読みにくかったのが残念。鸚鵡の<緑>の台詞も不自然に感じられました。フランス語で読めば、おそらくもっとリズム感があるのでしょうね。


「文体練習」朝日出版社(2006年2月読了)★★★★★お気に入り

混雑するS系統のバスに乗っていた26歳ぐらいの若い男。編んだ紐を巻いたソフト帽をかぶり、首の長いその男は、隣に立っている乗客に喧嘩をふっかけます。しかしそれも座席が空いて座れるようになるまで。席が空いた途端、彼は喧嘩を切り上げて席に座るのです。そして2時間後、その同じ青年は連れの男に、コートにもう1つボタンを付けた方が良いとのアドバイスを受けており…。(「EXERCICES DE STYLE」朝比奈弘訳)

何の変哲もない文章が、「メモ」「複式記述」「控え目に」「隠喩を用いて」「遡行」「びっくり」「夢」「予言」「語順改変」「虹の七色」など、99通りの書き方と3つの付録で表現されている本。言葉の持つ様々な可能性を引き出した作品です。文章というものが、ただの文字の順列組み合わせでありながら、その並び方組み合わせ方によっていかようにでも表現をすることができ、感情を引き起こすことができるかという底力を思い知らせてくれます。同じ光景を描写しながらも、そこに見えてくるのは99通りの情景。シンプルながらもこれほど粋な本は初めて見ましたし、読みながら何度も笑ってしまいました。
訳者の解説によれば、「ギリシャ語法」は枕草子風の「古典的」になり、「イタリアなまり」は「いんちき関西弁」に、「ラテン語もどき」は「ちんぷん漢文」にしたとのこと。俳句まであるのには驚きました。この日本語訳はレイモン・クノーの作品であると共に、訳者である朝比奈弘氏の作品でもあるのですね。見事な意訳です。この中では私は「荘重体」「歌の調べ」「ちんぷん漢文」が特に気に入りました。様々な文体で書かれているため、フランス語を学ぶ外国人の教科書として使われることもあるのだそう。これはぜひフランス語の原文を読んでみたくなってしまいます。
装幀もとても美しい、非常に凝った本です。ここまで凝っておきながら、巻頭の白黒写真の男性が、あまり青年らしく見えず、しかも首もそれほど長くないのだけが残念なのですが…。

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