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このページは、アレクサンドル・セルゲーエヴィチ・プーシキンの本の感想のページです。

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「勇士ルスランとリュドミーラ姫」岩波少年文庫(2008年6月再読)★★★★★

【サルタン王のものがたり】2人の姉の悪だくみのために、樽に入れられて海に流された妃と王子。2人は何もない島に流れ着くのですが、魔法使いから助けた白鳥に助けられ、王子はグビドン公としてその島の領主となることに
【漁師と魚】…ある日おじいさんの投げた網にかかった魚は、願い事を叶えてくれる金の魚でした。
【死んだ王女と七人の勇士】…若い王女の美しさに嫉妬した継母のお妃は、小間使いにいいつけて王女を森の奥に捨て、狼の餌食にしろと言いつけます。
【勇士ルスランとリュドミーラ姫】…太陽の君と呼ばれたヴラジーミル王の末娘・リュドミーラ姫と勇士ルスランの婚礼が華やかに執り行われたその夜、リュドミーラ姫が魔法使いのチェルノモールじいさんに攫われてしまいます。怒った王はルスランにリュドミーラを取り戻すように命令し、傷心のルスランと共に、リュドミーラに恋していた3人の騎士たち、キエフの騎士・ログダイ、臆病者のファルラーフ、ハザール人の王子・ラトミールもまたリュドミーラ姫の行方を求めて旅立つことに。(「RUSSLAN AND LUDMILLA」金子幸彦訳)

ロシアの詩人・プーシキンが、子供の頃に乳母に聞いて育ったというロシアの昔話を、詩として書き上げた作品。
「サルタン王のものがたり」では、時々こっそりお父さんの顔を見に行くグビドン公と、彼が聞いてきた不思議な話を白鳥が実現してくれるところが好きです。3つの願いのうち最初の2つは、他の地方の物語にはまず見ないタイプのもの。特にりすとハシバミのイメージは独特です。「漁師と魚」はよくある物語なのですが、昔話にありがちな「3回」ではないのがポイントですね。他の類似の物語よりも最後のおちが好きです。「死んだ王女と七人の勇士」は、ロシア版白雪姫。本家の白雪姫と違うのは、姫が入り込んだ家に住んでいたのは7人の小人ではなく勇士ということ、そして姫を助けるのが許婚の王子さまだということ。 「勇士ルスランとリュドミーラ姫」で好きなのは、「フィンのおきな」が死んだ勇士ルスランに死の水と命の水をそそぐ場面。「死の水をふりかけると、みるみる傷はかがやきはじめ、しかばねはうつくしいふしぎな色につつまれました。」というところ。いきなり命の水をかけるのではなくて、まず死の水をかけるというのが、子供心にすごく印象的でした。そして「サルタン王のものがたり」にも出てきた魔法使いの「チェルノモールじいさん」が、あちらと同一人物のはずなのに全然雰囲気が違うのも面白いです。きっとこっちの方が本来の姿なのでしょうね。
他の地方の童話に似ていても、4つの物語はそれぞれにロシアらしさを持っていて、それが他の地方の民話には全然見ない部分。そういうところがとても好きなところ。「勇士ルスランとリュドミーラ姫」は元々は叙事詩だそうなので、きちんとした叙事詩の形に訳されたものがあればぜひ読んでみたいところです。


「プーシキン全集1-抒情詩・物語詩」河出書房新社(2008年7月読了)★★★★★

分厚い1冊の中に抒情詩と物語詩が収められており、ページの割合としては丁度半分ずつ。抒情詩は「I リツェイからペテルブルグまで(1813-20)」「II 南方時代(1820-24)」「III ミハイロフスコエ時代(1824-25)」「IV 決闘まで(1826-36)」の4章に分かれており、物語詩の方には「ルスラーンとリュドミーラ」「コーカサスの捕虜」「天使ガブリエルの歌」が収められています。(草鹿外吉・川端香男里訳)

子供の頃から愛読していた「ルスラーンとリュドミーラ」がきちんとした詩の形式で読めるというのは、やはり嬉しいですね。岩波少年文庫版では省略されて「…」となっていた部分も、こちらではもちろんきちんと訳されています。元々詩として書かれたものを散文で読むというのは、やはり味わいに欠けるもの。詩の形で読んでこその美しさというのはやはりあるとしみじみ思いますね。ただ、訳そのものは、岩波少年文庫版の金子幸彦訳の方が好き。そちらの方がとても物語的なのです。こちらで「哀れな公女は退屈して」は、岩波少年文庫版では「幸なき姫は、さびしさを胸にいだいて」ですし、「すると不思議な眠りが不幸な女をその翼で包んだ」は、「そして、ふしぎなねむりが幸うすいリュドミーラをつつみました」。おそらくこちらの方が原文に忠実なのでしょうけれど、岩波少年文庫版の方が語り部が語る物語としての雰囲気があるように感じられるような気がします。なので本当に散文で読まされるよりは、ずっと上質だったのではないかと…。ちなみに子供の頃から一番好きだった場面は、岩波少年文庫版では「フィンのおきなが、勇士のそばに、立ち止まり、死の水をふりかけると、みるみる傷はかがやきはじめ、しかばねはうつくしいふしぎな色につつまれました。」ですが、全集では「そして老人は騎士の上に立ち 死の水を注ぎかけるのだった。すると傷はまたたく間に輝き始め 屍は驚くべき花のような美しさになった」でした。
他の作品で驚かされたのは、「天使ガブリエルの歌」。後に聖母となる16歳のマリアの美しさに、神様と天使ガブリエルと悪魔が同時に目をつけてしまうというトンでもない詩なのです。でもトンでもなさすぎて逆に笑ってしまいます。神様をこのように描いてしまって大丈夫だったのかしら… と思えば、解説に「その反宗教的な内容からしても当時は出版を許されるはずもなく」とありました。「手から手へと筆写されて拡められて行ったがプーシキンは後難を恐れて自筆原稿を廃棄した」のだそうです。そして今でもこの本の訳者さんが知る限りでは何語にも翻訳されていないのだとか。邦訳も、この本が出た時点ではこの全集だけだったようですし、それ以降全く出てなくても驚かないですね。

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