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このページは、オトフリート・プロイスラーの本の感想のページです。

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「クラバート」偕成社(2003年11月読了)★★

2人の孤児仲間と一緒に、東方の三博士の格好をして門付けをして村から村へと歩きまわっていた14歳の少年・クラバートは、ある夜不思議な夢を見ます。それは11羽のからすが1本の止り木にとまり、しわがれた声がクラバートに向かって、シュヴァルツコルムの水車場へ来るようにと呼びかけているという夢。クラバートはその次の夜も同じ夢を見て、2人の仲間が眠っているうちに、密かにシュヴァルツコルムへと向かいます。そして地元の人間にも避けられている荒地の水車場の見習いとなることに。そこでは12人の職人たちが水車場の仕事をしていました。そして金曜日の夜になると、職人達はからすの姿となって、親方から魔法を習うのです。(「KRABAT」中村浩三訳)

ドイツとポーランドにまたがるラウジッツ地方に伝わる「クラバート伝説」を元に、プロイスラーが書き上げたという長編ファンタジー。ドイツ児童文学賞などを受賞した、プロイスラーの最高傑作とのこと。
復活祭での奇妙なしきたり、新月の夜になると水車場にやって来る大親分の存在、そして大晦日に起きる出来事。読者はクラバートの目を通して、水車場での決まりごとを1つ1つずつ知ることになります。しかしこれは単なるファンタジーではありませんでした。魔法使いの弟子になって魔法を習うという、本来ならワクワクしてしまう設定にも関わらず、どこか陰鬱で緊迫したムードが漂います。夜の闇と黒い森のイメージの濃い作品。「大どろぼうホッツェンプロッツ」のシリーズとはまた全然違うのですね。「この水車場でだれが死ぬかを決定するのはわしだ」という言葉通り、ここの水車場での至上の存在は親方であり、親方は職人たちを思うように動かします。水車場の閉塞感はまるで、人々を洗脳する宗教団体のようでもあり、もしくは国家のようでもあります。何も考えずにひたすら素直に従っていれば身の危険はないのですが、一度自分の意思を持ったが最後、異分子として抹殺される危険が。19歳の時に第二次世界大戦に兵隊として参戦したプロイスラー自身の経験が色濃く出ているのでしょうか。
なかなか深い物語ですが、しかしクラバートと彼が恋する少女に関しては、もう少し書き込んで欲しかったです。結局クラバートは少女に一目惚れだったのでしょうか。それはそれでいいとしても、少女がクラバートを知り、想うようになる過程に、もう少し説得力が欲しかったところ。たとえ少女が運命を信じていたとしても、やはり自分の命を賭けるのですから。元々の伝説では、母親がクラバートを救うことになるのだそうですが、あまり話したこともない、夢の中の相手に対して、少女が母親のような無償の愛が持てるとは、あまり思えないです。
宮崎駿氏が映画「千と千尋の神隠し」の下地とした作品なのだそうです。そう言われてみれば、色々な共通点がありますね。クラバートは、千尋よりもハクに色濃く反映されているように思えます。

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