Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ノヴァーリスの本の感想のページです。

line
「青い花」岩波文庫(2006年10月読了)★★★★★
13世紀初め頃の中世ドイツが舞台。旅人の語る物語、そしてその中に登場する青い花に心を奪われた20歳の青年・ハインリヒは、その夜夢をみます。それは泉のほとりに生えた1本の淡い青色の花の夢。ハインリヒがその花に目を奪われていると、花は姿を変え始め、中にほっそりとした顔がほのかにゆらぎます。夢の青い花のことを考えてふさぎがちになった息子の気分を変えるために、母親は一家で住んでいたアイゼナハから郷里アウクスブルクに住む父のもとに、ハインリヒを連れて旅立つことに。そしてハインリヒは偉大な詩人クリングゾールとその娘・マティルデに出会います。(「HEINRICH VON OFTERDINGEN」青山隆夫訳)

初期ロマン派の詩人・ノヴァーリスの作品。この物語の主人公であるハインリヒ・フォン・オフターディンゲンは、実在のほどは明らかではないにせよ、1206年のヴァルトブルク城で行われた歌合戦で、当時の著名な恋愛詩人たちを相手に競ったアイゼナハ出身の詩人であり、ノヴァーリスはその伝説を元に1人の詩人を描くこの作品を書いたのだそうです。
ハインリヒが旅をする物語ではあるのですが、その旅はそのままハインリヒの人生。「青い花」を求めて遍歴するハインリヒの物語は、詩人としての目覚めから、クリングゾールやマティルデに出会って一層成長する様を描いているのでしょう。内的葛藤があるわけでもなく、常に受身で、しかしその中で自分の学ぶべきものを謙虚に学んでいくハインリヒの姿は、まるでシュティフターの「晩夏」の主人公のよう。物語の中で印象に残るのは、商人たちによって語られる「アリオン伝説」と「アトランティス物語」、クリングゾールの「メールヒェン」、そして水にまつわる2つの暗示的な夢。「アリオン伝説」と「アトランティス物語」、「クリングゾール・メールヒェン」は、それぞれ太古の黄金時代とその滅亡、そして黄金時代の再来を象徴しているものなのだそう。この3つの物語は、それ以外の部分が単なる繋ぎとしか考えられないほど印象的で美しく、ここに2つの暗示的な夢が絡むことによって、物語の幻想的な色合いが現実に結び付けられているようにも思えます。
第2部に入ると、ハインリヒは巡礼となって、死者たちが暮らしているらしい石造りの家へと導かれ、かつて父を導いたジルヴェスター医師に出会うことになるのですが、ノヴァーリスは29歳の若さで亡くなり、この「青い花」も未完のまま終わります。青い花とはノヴァーリスにとって、恋焦がれつつも、永遠に憧れの存在であり続ける亡くなった恋人・ゾフィーの面影なのですね。

P.178「今までときおり感じていたことですが、自分がいつになくこまやかな心になっている時というのは、じつは生気にとぼしくて、むしろそうでない時のほうがのびのび歩きまわれて、あらゆる仕事を楽しくこなせるのです」
P.184「そもそも戦いは、詩的な作用であるように思われます」(中略)「人々は詩を称揚するために武器を取っているわけで、敵味方とも目に見えないひとつの旗に率いられているのですね」
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.