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このページは、ネムツォヴァ(ニェムツォヴァー)の本の感想のページです。

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「おばあさん」 岩波少年文庫(2008年11月読了)★★★★★

シレジアとの境にある山村に住んでいるおばあさん。息子が1人と娘が2人いるのですが、3人とも既に独立しており、おばあさんはばあやのベトカと2人で小さな家に何不自由なく暮らしていました。おばあさんにとって村人たちはみな兄弟姉妹であり、村人たちにとっておばあさんは、お母さんであり相談相手なのです。ところがある日、ウィーンにいる上の娘から手紙が舞い込みます。その手紙には、娘の夫が仕える公爵夫人がおばあさんの住む山村の近くに大きな領地を持っており、一家でそこに移ることになっているため、おばあさんも一緒に住んで欲しい書かれていました。おばあさんは迷った挙句、結局そこに移ることを決意します。(「BABICKA」栗栖継訳)

チェコの近代小説の基礎を作ったと言われるボジェナ・ネムツォヴァが、チェコがオーストリアの属国だった100年前に書いた作品。チェコでは最も愛読されている作品であり、チェコ人でこの本を知らない人はいないとまで言われる作品なのだそうです。ネムツォヴァはこの作品に出てくるバラルカ。細かい部分は色々と変えられおり、おばあさん像も実際よりもさらに理想化されているとはいえ、この作品の主人公はネムツォヴァの本当のおばあさん。
物語は全編おばあさんの物語となっています。嫁いだ娘の家に住むようになり、忙しい娘に代わって家の中をやりくりするおばあさん。孫たちには沢山の物語を語り聞かせ、孫たちはその物語の中から人間として生きていく上で大切なことを自然に学んでいきます。この作品に書かれていることは特別なことではなく、物語そのものにもそれほど起伏はなく、ごくごく平凡な日々の情景の描写の方が断然多いのです。しかしその淡々と描かれる日々がとても味わい深いものですし、ここに描かれているチェコの農村風景もとても素敵。
それでも一番印象に残ったのは、戦争中に夫のイルジーを失ったおばあさんが3人の子供たちを連れて苦労して故郷に帰ったのは、子供たちがチェコ語を失わないようにするため、という部分でした。プロシア王に留まることを勧められ、子供たちに立派な教育を約束されながらも、おばあさんは故郷に帰ることを選ぶのです。それは、子供たちがチェコ語を失わないようにするため。国境を越えれば他国というヨーロッパにおいて祖国や母国語というのは、日本人の想像もつかないほど、いつ失ってもおかしくないという危険に晒されているものなのでしょうね。一度戦乱の渦に巻き込まれれば、国境の線など簡単に書き換えられ、国の名前が変わったりするのですから。
この作品は、カフカやカレル・チャペックにも影響を与えているのだそうです。しかし私としてはむし、この淡々とした語り口に、同時代の作家・シュティフターを思い出しました。オーストリアの作家と思い込んでいたシュティフターですが、調べてみると生まれはチェコ。彼らが生きていた頃のチェコは、オーストリアの属国だったのですね。

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