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このページは、神話・伝承の本の感想のページです。

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「古代オリエント集-筑摩世界文学体系1」筑摩書房(2009年2月読了)★★★★

シュメール…「人間の創造」「農牧のはじまり」「洪水伝説」「エンキとニンフルサグ」「イナンナの冥界下り」「ギルガメシュとアッガ」「ドゥムジとエンキムドゥ」「ウルの滅亡哀歌」「イナンナ女神の歌」「ババ女神讃歌」「シュルギ王讃歌」「グデアの神殿讃歌」「ダム挽歌」「悪霊に対する呪文」「ナンナル神に対する「手をあげる」祈祷文」「シュメールの格言と諺」
【アッカド】…「エヌマ・エリシュ(天地創造物語)」「ギルガメシュ叙事詩」「アトラ・ハシース物語」「イシュタルの冥界下り」「虫歯の物語」「バビロンの新年祭」「ネルガルとエレシュキガル」「ズーの神話」「エタナ物語」「サルゴン伝説」「バビロニアの神議論」「イシュタル讃歌」「エラの神話」「バビロニアの智慧文学」
【ウガリット】…「バアールとアナト」「アクハト」「ケレト」「ニッカルと月の結婚」
【ヒッタイト】…「クマルビ神話」「竜神イルルヤンカシュの神話」「テリピヌ伝説」
【アラム】…「賢者アヒカルの言葉」
【ペルシア】…「古代ペルシア語碑文」
【エジプト】…「シヌヘの物語」「ウェストカー・パピルスの物語」「難破した水夫の物語」「生活に疲れた者の魂との対話」「雄弁な農夫の物語」「イプエルの訓戒」「ネフェルティの予言」「ホルスとセトの争い」「メンフィスの神学」「二人兄弟の物語」「ウェンアメン旅行記」「宰相ブタハヘテブの教訓」「メリカラー王への教訓」「アメンエムハト一世の教訓」「ドゥアケティの教訓」「アニの教訓」「アメンエムオペトの教訓」「オンク・シェションクイの教訓」「ピラミッド・テキスト」「アメン・ラー讃歌」「ラー・ホルアクティ讃歌」「アテン讃歌」「ナイル讃歌」「オシリス讃歌」「単一神への讃歌」「センウセルト三世讃歌」「トトメス三世讃歌」「セド祭の碑文」「ミンの大祭の碑文」「後期エジプト選文集」

シュメールの「人間の創造」…天地(宇宙)と女神たちが作られ、天地のプランが定められ、チグリス・ユーフラテス川の堤防が作られた時、アン(アヌ・天の神)、エンリル(大気の神・主神)、ウトゥ(太陽神)、エンキ(地と水、知恵の神)という男性神たちに次は何を創るつもりなのかと尋ねられた運命を定めるアヌンナキの神々は、2人のラムガ神を殺してその血で人間を創造すると答えます。そしてアンウレガルラとアンネガルラという最初の男と女が創り出されることに。
アッカドの「天地創造物語」…天地が存在する前、アプスー(生命を維持する原初の深淵の淡水)とムンム(生命賦与の力)、ティアマト(生命に対立的に働く海の塩水)が存在し、それらの水が混ざり合って男女の原理を含むラハム(?)とラハム、天地の原理を含むアンシャルとキシャルが誕生する。その後アプスーが、そしてティアマトが殺され、ティアマトの屍体が分断されて天・空・地下の原初の深淵が作られ、それぞれがアヌ、エンリル、エアに割り当てられる。最高神はマンリル。
ウガリットの「バアールとアナト」…バアールとモート(死の神)の戦いの結果が豊穣多産あるいは不毛を決する。
ヒッタイト「クマルビ神話」…最初の天上の王はアラル、次はアヌ、そしてクマルビ(シュメール・バビロニア神話の影響が大きく、神々も共通)


「ギルガメシュ叙事詩」ちくま学芸文庫(2006年8月読了)★★★★

ウルクの都城の王であるギルガメシュは、ウルク王だった父と女神ニンスンの息子で、3分の2が神、3分の1が人間という存在。力強い英雄ではあるものの、都の乙女たちを奪い去るという悪業を行う暴君として都の住民たちに恐れられていました。ギルガメシュをどうにかしろと神々に命じられた大地の女神・アルルは、粘土からエンキドゥという名の猛者を作り上げます。始めは野獣のようだったエンキドゥは、ギルガメシュに遣わされた娼婦によって、力はやや弱まるものの知恵を得て、人間らしくなります。シャマシュはエンキドゥをギルガメシュの元へと行き、2人は早速力比べの格闘をすることに。しかし格闘は引き分けに終わり、ギルガメシュとエンキドゥの間に友情が芽生え、2人は一緒に遠方にある杉の森の恐ろしい森番フンババを倒す冒険の旅に出ることに。(矢島文夫訳)

現代から数千年前の古代メソポタミアに成立した、最古の本格的な文学作品と言われる叙事詩。原テキストは、粘土板に記された楔形文字。しかし全部で約3600行あったと推定されるテキストの約半分は既に失われています。読んでいても予想以上に欠損箇所が多くて驚きました。物語の概略が先に紹介されていて良かったです。それほどの断片をここまでの形に作り上げるのは相当大変な作業だったでしょうね。研究者の方々の苦労には本当に頭が下がります。この1冊の中で「ギルガメシュ叙事詩」の本文は100ページ強で、後はギルガメッシュ叙事詩そのものやその成立・発見などに関する解説です。
世界最古の文学作品でも、永遠の生について語られているというのがとても強く印象に残ります。ギルガメシュがウトナピシュティムに会いに行く途中で出会った、婦人の言葉もとても印象的。「ギルガメシュよ、あなたはどこまでさまよい行くのです/あなたの求める生命は見つかることがないでしょう/神々が人間を創られたとき/人間には死を割りふられたのです/生命は自分たちの手のうちに留めておいて/ギルガメシュよ、あなたはあなたの腹を満たしなさい/昼も夜もあなたは楽しむがよい/日ごとに饗宴を開きなさい/あなたの衣服をきれいになさい/あなたの頭を洗い、水を浴びなさい/あなたの手につかまる子供たちをかわいがり/あなたのむねに抱かれた妻を喜ばせなさい/それが〔人間の〕なすべきことだからです」
そして物語の後半に登場する古都シュルッパクの聖王ウトナピシュティムは、ただ1人大洪水から生き残った人物という設定で、ここでは昔あった大洪水のことが語られるのですが、これは後に旧約聖書のノアの箱舟の元になった話なのだそう。他にも大洪水のことを言及している古代の作品があるそうなので、実際にこの地方に大洪水が起きたと考えるのが妥当だそうですが、それにしても記述に共通点が多いのが面白いです。
付録として「イシュタルの冥界下り」も収められており、その解説でも言及されているのですが、こちらは古事記の伊邪那岐命の黄泉の国へ行く物語と重なる部分があって、とても興味深いです。


「シベリア民話集」斉藤君子編訳 岩波文庫(2008年6月読了)★★★★

様々な少数民族が伝統的な生活様式を守って暮らしてきたシベリア。シベリアにおける口承文芸の本格的な収集と研究は、シベリアに流刑になった革命家たちによって、19世紀後半から行われ始めたのだそうです。この本には17民族・41話が収録されています。(斉藤君子編訳)

日本で民話や童話といえば「桃太郎」や「したきりすずめ」といった日本古来の物語か、そうでなければグリムやペローといったヨーロッパ系のものが基本。そういった物語に子供の頃から慣れているので、今回初めて読んだシベリアの民話の素朴さには驚かされました。民族に伝わる物語がこれほど古い時代の味わいを保ったままでいられるとは…。こういった話が19世紀後半や、場合によっては20世紀半ばまで残っていたというのが本当に驚きです。そしてこれらの物語を読むと、ヨーロッパ系の民話はやはり相当洗練されているのだと実感させられます。元々の物語から残酷だったり性的だったりする部分が省かれているのはもちろんですが、それ以前に物語としての体裁が相当きちんと整えられていたのですね。シベリアの民話はそれらに比べると遥かに原始的。特にシベリアでも東の端の方に住む民族に伝わる物語は凄いです。多少の矛盾どころか、途中で話の内容がまるで変わってしまっても、筋道が通らなくなってしまっても気にしないようです。かなりの荒唐無稽ぶりで、読んでて逆に楽しくなってしまうほど。とても独創性があるし、昔ながらの彼らの生活がありありと感じられます。今までネイティブ・アメリカンの民話も独特だと思っていましたが、こちらはそれ以上ですね。
それでもシベリアの東端の海岸部から内陸部の物語に移るにつれて、徐々にヨーロッパ系の物語に近くなっていきます。こちらの方が話としてはまとまっていますし、読みやすいです。たとえば羽衣伝説のような他の地方の民話と似ている物語もあったりします。東海岸沿いのプリミティブな力強さのある話も捨てがたいのですが、私が楽しめたのは、どちらかというとこちらの物語かもしれません。特に気に入ったのは、羽衣伝説に他のモチーフが色々と混ざったような「白鳥女房」や、月にまつわる神話的な物語「蛙と美しい女」辺り。洗練とプリミティブの丁度中間辺りに位置するような「三人の息子」もいいですね。


「勇敢なアズムーン-アムール地方のむかし話」D・ナギーシキン リブロポート(2009年4月読了)★★★

ロシアでは4番目、世界では10番目の大河・アムール川流域に住むニブヒ(ギリヤーク)、ウデゲ、ナナイ(ゴリド)、ウリチなどの少数種族に伝わる民話をもとに創作されたという物語集。

アムール川というのは、この本では全長4350km、広いところの川幅は10キロあると書かれているのですが、Wikipediaを見ると全長4444km、世界8位の長さなのだそうす。モンゴル高原からロシアと中国との国境を通り、オホーツク海に面したアムール湾に注ぐ大河。中国では黒竜江または黒河と呼ばれているのだそう。
ここに収められた物語は全部で11編。どれもとても素朴な物語で、訳者あとがきを読むまで創作だとは気がつかなかったほど。もちろん元々民話から作られた物語とはいえ、それほど民話らしさを生かした物語となっています。「勇敢なアズムーン」のように、不漁に苦しむ人々を見かねたアズムーンが海の老人・タイルナースに会いに行くというまるで神話に連なるのような物語もあれば、「クマとシマリスはどうして仲が悪くなったか」「ふたりの弱いものとひとりの強いもの」のような動物民話もあり、シンデレラ的な「小さなエルガー」もあれば、他の民族から攻め込まれる「大きな災難」「みなしごのマムブ」のような物語もあり、バラエティに富んでいますね。
私が特に気に入ったのは、「チョリリとチョリチナイ」と「七つの恐怖」。「チョリリとチョリチナイ」は、親が決めた許婚チョリリとチョリチナイの物語。2人とも親をペストで亡くし、もう一人前の猟師になっていたチョリリが幼いチョリチナイを家に引き取り、結婚できる日を待っているのです。しかし日に日に美しくなっていくチョリチナイに目を付けた長老・アルルィフが、チョリチナイにまじないをかけてクマにしてしまい... チョリリが作ったナイフや槍があくまでもチョリリを刺そうとしないところも面白いですし、アルルィフのまじないを解くためにアルルィフについている悪魔を殺そうとチョリチナイが冒険する場面が素敵。チョリチナイは山の主のところに行くために九つの川を通り、九つの湖を通り、九つの山脈を越えたところにある、滑らかな岩石を上って主の天幕に向かうのです。悪魔の描き方も面白いですね。そして「七つの恐怖」は、臆病な心から兄をトラに攫われてしまった弟が、7つの恐怖を超えて救いに行く物語。罠にかかっている動物にすら、兄をなくしたことを罵られて見捨てられるのですが、ワシの羽根の助けを得て兄を探しに行けるようになった弟。次々に怖い目に遭うのですが、そのたびに「どうやら、これはまだ恐怖ではないようだ。恐怖は先にあるのだ」と次々に困難に打ち勝っていく場面が頼もしいです。

収録作品:「勇敢なアズムーン」「クマとシマリスはどうして仲が悪くなったか」「大きな災難」「チョリリとチョリチナイ」「七つの恐怖」「ニカンの花よめ」「意地の悪いラド」「小さなエリガー」「ふたりの弱いものとひとりの強いもの」「男の子チョクチョー」「みなしごのマムブ」


「ネギをうえた人-朝鮮民話選」岩波少年文庫(2005年6月読了)★★★

古い昔から朝鮮に伝わっているという民話34編。「羽衣伝説」など世界の民話に共通する話も多く含まれているものの、中国民話選である「けものたちの内緒話」に比べると朝鮮ならではの物語が多いように思います。それに「山や川」「地震のわけ」「シカとウサギとヒキガエル」など、天地創造の神話に通じるような物語があるのも特徴。蚤や南京虫、虱といった昆虫が出てくるかと思えば、虎の登場率も高いです。ヒキガエルも意外と多いかも。どのような動物が登場するかという部分にも、お国柄が出るものですね。

収録作品:「山や川」「地震のわけ」「キジとハトとカササギ」「シカとウサギとヒキガエル」「ナンキンムシのさかもり」「三人のバカよめ」「おくやみ」「おむこさんの買いもの」「わるいトラ」「トラとウサギ」「ネギをうえた人」「ブンブン東」「金のつなのつるべ」「火の玉のムク」「シカと木こり」「竜宮の青い玉」「大蛇とヒキガエル」「キジのかね」「青い葉っぱ」「恩をかえしたトラ」「カボチャの種」「ワシにさらわれたおひめさま」「物語のふくろ」「すがたを盗まれた話」「あいずの旗」「かくれ頭巾」「おとうさんのかたみ」「ヒキガエルのむこ」「金剛山のトラ」「果報せむし」「銀のさじ」「めくらネズミ」「シカの足のおかあさん」「王さまの旅」


「けものたちのないしょ話-中国民話選」岩波少年文庫(2005年6月読了)★★★

様々な民族に伝わる物語が27編収められています。「中国の民話選」となっていますが、中国の漢族を始めとした周辺の様々な民族と考えた方がいいでしょうね。朝鮮やタイ、蒙古、チベット族などの物語もあります。
それにしても、民話というのは本当に世界共通ですね。細かいモチーフや物語の流れは違っていても、大きな流れや部分的な展開が良く似ている物語が沢山ありました。イソップ物語やグリム童話、ペロー童話、アラビアン・ナイト、そして日本の「因幡の白兎」、羽衣伝説、「聞き耳頭巾」、「こぶとりじいさん」、「ねずみの嫁入り」などなど。世界のどこかで生まれた物語が、語る民族によって姿を変えながら世界中に広まっていくのでしょうね。想像するだけでも楽しくなってしまいます。尚、君島久子さんによる解説には、各物語についての詳細な説明があるので、一層楽しめるのではないでしょうか。
この中で私が特に好きなのは、「九人きょうだい」「ふしぎな短剣」「歌をうたうネコ」の3編。「九人きょうだい」に登場する王様は、なぜ1回ごとにきょうだいを家に戻してしまうのでしょうね。そんなことをしなければ、きょうだいを困らせるのはもっと簡単だったでしょうに…。妙なところで律儀で可笑しいです。 (君島久子編訳)

収録作品:「岩じいさん」(ミャオ族)、「ウサギと裁判官」(チベット族)、「ちぎれたしっぽ」(漢族)、「牛飼と織姫」(漢族)、「けものたちの内緒話」(プミ族)、「ソンジャラモ」(チベット族)、「九人のきょうだい」(イ族)、「妖怪にとられたこぶ」(シボ族)、「ふしぎな短剣」(ウイグル族)、「チベット王の使い」(チベット族)、「歌をうたうねこ」(タイ族)、「石の門よひらけ」(漢族)、「ぼうしになったキツネ」(ウイグル族)、「兄と妹」(ジンポー族)、「天女の里がえり」(ミャオ族)、「今夜妖怪がくる」(トゥー族)、「娘とやまんば」(ヤオ族)、「狩人ハイリーブ」(蒙古族)、「妖怪の家」(ヌー族)、「ネズミ美人」(カザフ族)、「人形の恋」(ミャオ族)、「カエルの家出」(ジンポー族)、「サンジシャー物語」(タイ族)、「靴のゆくえ」(朝鮮族)、「小さな黄色い竜」(ペー族)、「ウスマンじいさんの秘密」(ウズベク族)、「巨人グミヤー」(プーラン族)

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