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このページは、アリス・マンローの本の感想のページです。

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「イラクサ」新潮クレスト・ブックス(2009年3月読了)★★★★

【恋占い】…駅に行って駅員に家具の発送について尋ねたジョアンナ。次のの金曜日に寝室1つ分の家具をサスカチェワンに送りたいのです。切符を買うと、今度は高級婦人服店へ。
【浮橋】…ジニーとニールは、21年も共に暮らしてきた夫婦。しかし最近のニールは青少年犯罪者たちの世話に忙しく、ジニーの病院の診察のことを尋ねようともしないのです。
【家に伝わる家具】…南にある都会に住み新聞に記事を書いているアルフリーダは父のいとこ。一家は2〜3年おきに1度都会を訪ね、アルフリーダはいつも夏になるとやって来ました。
【なぐさめ】…家に夫のルイスを置いて、友達のマーガレットとテニスをして帰宅したニナ。しかしニナが留守の間に、ルイスは自殺していたのです。
【イラクサ】…1979年の夏、友人のサニーの家に行っていた私が見たのは、台所でケチャップサンドイッチを作っている男性の姿。それは「わたし」が子供の頃に出会ったマイクでした。
【ポスト・アンド・ビーム】…大学教授のブレンダンに誘われて家を訪れたライオネル。そしてブレンダンの妻・ローナを訪ねて、姉妹同然に育ったいとこのポリーがやって来ることに。
【記憶に残っていること】…ピエールの親友のジョナスが29歳で亡くなり、夫婦で葬式に行く準備をしていたピエールとメリエル。ピエールはジョナスの死を自殺と考えていました。
【クィーニー】…18歳の時にヴォギラ先生と結婚した義理の姉のクィーニーを訪ねてきたクリシー。クリシーが6歳の時、父は9歳だったクィーニーの母親・ベットと再婚したのです。
【クマが山を越えてきた】…大学時代に結婚したフィオーナとグラントももう既に70歳。1年以上前から、グラントは小さな黄色いメモが家中に貼ってあるのに気づき始めていました。(「HATESHIP, FRIENDSHIP, COURTSHIP, LOVESHIP, MARRIAGE」小竹由美子訳)

カナダの田舎町を舞台にした9編の短編集。同じカナダで、同じスコットランド系、ほぼ同じ世代の作家・アリステア・マクラウドとはまたまるで違うほのぼのとしたカナダの姿が見えてきます。しかし作品の雰囲気としてはかなり違うと思うのですが、骨太なところ、人間の営みとしての生と死が描かれているところは共通していると言えるかも。
前半は一読しただけでは意味が取れず、少し読みにくさを感じる文章が多かったのですが、読んでみればどれも読後に余韻が残る物語ばかり。やはり70年生きてきた人間の重みなのでしょうか。まず登場人物の造形が良かったです。ふと通りがかっていく人物に思わぬリアリティがあって、はっとさせられることもしばしば。そして、ふとした出来事がその後の展開をまるで変えてしまうというのもいいですね。本当にありそうだと思えることばかり。人々は気づかない間に悪気のない悪戯に翻弄されていたり、本来なら現状を壊すような出来事によって、逆にその現状が保つことができたり。その変化は表に出るものであったり水面下でのものであったりと様々ですし、その出来事が最終的に良い結果を残すのか悪い結末を迎えるのかは、それなりの時間が経たないと見えてこないのですが、そこには単純に「幸せ」「不幸せ」と判断されることを拒むような深みがあります。
印象に残った作品は、最初の「恋占い」と表題作「イラクサ」、そして最後の「クマが山を越えてきた」。特にこの「クマが山を越えてきた」がいいですね。何度も読めばそれだけ味わいも増していきそうな短編集です。

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