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このページは、マーシャ・メヘラーンの本の感想のページです。

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「柘榴のスープ」白水社(2007年9月読了)★★★★★

その日、クリュー湾に近いアイルランドの小さな村・バリナクロウにオープンしたのは、<バビロン・カフェ>。これはイラン革命の直前にイランを脱出した27歳のマルジャーン・アミーンプールとその2人の妹、24歳のバハールと15歳のレイラーが経営するペルシャ料理の店。マルジャーンはロンドンのイタリア料理店で働いていた時に料理長だったグロリアと知り合い、その叔母であるエステル・デルモニコから、かつて夫とペーストリー店を経営していたという古い店舗を借りたのです。3人は店を借りてからの5日間、ノウルーズというペルシャの新年であり、バハールの誕生日でもある春分の日にオープンするために、全力で仕事をこなしていました。(「POMEGRANATE SOUP」渡辺佐智江訳)

流血のテヘランから命からがら逃げ出した3姉妹が、ようやくアイルランドの田舎町に落ち着いたという設定。長女らしい包容力があり、責任感の強いマルジャーン、恐ろしい出来事によって生来の臆病さが神経症的傾向まで高まってしまったバハール、ローズウォーターとシナモンの香りを漂わせる、美しく希望に満ちたレイラー。突然現れたよそ者の3姉妹に小さな町の面々は戸惑いますが、3姉妹は少しずつバビロン・カフェに新しい人間を招きいれていきます。
何といっても登場するペルシャ料理が美味しそう。冒頭でトマス・マグワイアとコノー・ジェニングズが「天国の匂い」とまで言っているスパイシーで官能的な香りが全編通して漂ってくるようで、とても食欲をそそります。しかもここに登場する数々のペルシャ料理は、レシピまで載っているのです。各章の冒頭には、その章の物語にまつわるペルシャ料理が1つずつ紹介されていて、どれもこれも今にも本からスパイスの濃厚な香りが立ち上ってきそう。官能的で情熱的なペルシャ料理、ぜひ味わってみたくなります。そんなペルシャ料理を作るのに中心となって腕を振るうのは、長女のマルジャーン。彼女の作る料理は、元気を取り戻したり、満ちたりた気分になったり、それまで不可能だと思っていたことを成し遂げようという気にさせたりする力を持っているようで、それはまるでジョアン・ハリスの「ショコラ」のような雰囲気です。美味しいものが人を幸せにするというのは、やはり万国共通なのですね。「ショコラ」では、ある意味信仰心がポイントとなっていましたが、白人同士だった「ショコラ」と比べて、こちらでは3姉妹がいかにもアラブ系の外見をしているため、対立がより顕著かもしれません。もちろん同じ町でも、懐が深く広く受け止められる人間もいれば、未知のものや異質なものに馴染めずに排除しようとする人もいます。そして最後には受け入れられるのも定石通り。しかし徐々に受け入れられゆく3姉妹の姿とは対照的に、バリナクロウまでやってくる間の3姉妹の苦労や過去の傷が明らかになっていきます。意外と重いものも含んだ物語でした。
作者のマーシャ・メヘラーンはイラン革命直前、2歳の時に家族でイランを逃れ、アルゼンチンで育ち、その時に両親が中東風カフェを経営していたのだとか。ペルシャとアイルランドの不思議な融合は、マーシャ・メヘラーンのご主人がアイルランド人であることからのようですね。

ドルメ(肉と米のブドウ葉包み)、赤ヒラ豆のスープ、バクラバ(デザート)、ドゥーグ(ヨーグルト・ドリンク)、アーブグーシュト(ラム肉とジャガイモのシチュー)、ゾウの耳(デザート)、ラヴァーシュ(パン)、トルシー(ピクルス)、チェロウ(炊いたご飯)、フェセンジューン(柘榴と鶏肉と胡桃のシチュー)、偏頭痛薬、ザクロのスープ、食後のラベンダー&ミントティー

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