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このページは、アストリッド・リンドグレーンの本の感想のページです。

「さすらいの孤児ラスムス」岩波少年文庫(2009年11月読了)★★★

ラスムスは9歳の少年。グンナルや他の少年たちとともにヴェステルハーガの孤児の家に暮らしていました。孤児たちの世話をしているのは、厳格なヒョーク寮母先生。そしてたまに里親希望者が孤児院にやって来ても、欲しがるのはちぢれ毛の女の子ばかりで、針毛の自分が貰われることはないのだと悟り、しかもヒョーク先生相手に大失敗してしまったラスムスは、孤児院から逃げ出すことを決意します。(「RASMUS PA LUFFEN」大塚勇三訳)

孤児の家で育ったラスムスが風来坊のオスカルと出会い、様々な経験をしつつ、自分の居場所を得るという物語。農家に立ち寄ってちょっとした仕事をしては食べ物をもらったり、歌を歌ってお金をもらい、そのお金で食べ物を買って食べ、好きな道を行くオスカルの生き方は、今の時代にはあり得ないような伸び伸びした楽しさを分けてくれるよう。しかしそんな物語の中でも、浮浪者はそれだけで警察に疑われることになるなど、厳しさも潜んではいるのですが。
しかしヴェステルハーガのヒョーク先生も、本当は冷たいばかりの先生ではないのですね。おそらく日々の心配ごとがありすぎて、子供に優しく接することを忘れがちなだけではないかと…。ラスムスの心の中に残るヒョーク先生の温かい思い出がその証拠。


「ミオよわたしのミオ」岩波少年文庫(2009年11月読了)★★★★

ストックホルムのウップランド通りに住む9歳の男の子、ボッセことブー・ヴィルヘルム・ウルソンは、孤児院からシクステンおじさんとエドラおばさんのところに貰われてきた子。しかしおじさんもおばさんも男の子は好きではなく、ボッセは2人から邪魔者扱いされていました。友達は同じ通りに住むベンカだけ、ボッセに優しくしてくれるのは果物屋のルンディンおばさんだけ。そして去年の11月、エドラおばさんに言われてお使いに出たボッセは、ルンディンおばさんにリンゴを1つもらい、ルンディンおばさんに頼まれて葉書を1枚ポストに入れます。するとその時、ルンディンおばさんの書いた字が火文字のように光ったのです。そして葉書の文面には金のリンゴを持つ少年がはるかな国に向かって旅をすると書かれており、ボッセがルンディンおばさんにもらったリンゴは、いつしか金色に輝いていました。(「MIO, MIN MIO」大塚勇三訳)

9才の少年・ミオの物語。9歳の男の子が主人公というのは、他の作品とそれほど変わらないのですが、この作品が他の作品とまるで違うのは、これが異世界ファンタジーだということ。ストックホルムのウップランド通りに住んでいた頃は、シクステンおじさんとエドラおばさんに全く可愛がられていなかったボッセと呼ばれる少年は、「はるかな国」で本当のお父さんに出会い、そのお父さんが王様だったので必然的に王子さまとなり、「ミオ」という本当の名前で呼ばれるようになります。
それだけなら、とても美しく幸せな物語です。「はるかな国」はとても美しい国で、銀のポプラは胸が震えるような音楽を奏でていますし、薔薇や百合が咲き乱れ、白い美しい鳥たちが謳いながら飛びかっています。ミオはそこで出会うユムユムという少年ともすぐ仲良くなりますし、この国にいる全ての人がミオを温かく迎え入れます。金のたてがみを持つ白馬・ミラミスとも大の仲良しになります。残酷な騎士・カトーとの戦いはありますが、これは悪を滅ぼすという王子としての使命であり、達成できれば皆幸せになるというものです。ミオは騎士カトーが怖くて仕方ないのですが、それでも自分のやるべきことをやるために立ちあがります。
しかしこの全編を流れる深い孤独感は何なのでしょうね。この物語は、本当に幸せな物語なのでしょうか。読んでいると、まるでアンデルセンの「マッチ売りの少女」を初めて読んだ時のような気分になってしまいます。マッチを擦った時に見える一瞬の幸せな光景。このミオの物語も、ボッセにとっての一瞬の幸せな夢にしか過ぎなかったのではないでしょうか。エドラおばさんに言われてパンを買いに出たボッセが、公園のベンチで描き上げた夢想物語かもしれません。もしかすると、そこで何かが起きて、そのまま死んでしまったのではないかとさえ思ってしまいます。事故があった様子はありませんし、特に暗示的な言葉は見つからないのですが…。「はるかな国」で仲良くなるユムユムは、ウップランド通りでの親友・ベンカのようですし、本当のお父さんもまるでベンカのお父さんのような人。それはボッセ自身の世界がとても狭く限られていて、それ以外のタイプの人をあまり知らなかったからなのではないかとも思えるのです。お父さんである王様は包み込むようにミオを愛してくれるのですが、それはボッセの「本当の自分は違う」という願望を叶えただけなのではないかと…。
もしボッセの夢想物語ではなかったにせよ、とても寓話的な物語。美しいのですが、底知れない物悲しさが漂います。


「はるかな国の兄弟」岩波少年文庫(2009年11月再読)★★★★★

クッキーことカール・レヨンは兄さんのヨナタンとお母さんと3人暮らし。お父さんはクッキーが2歳の時に家を出て海に行ってそれっきり。お母さんは裁縫をして生計を立てていました。輝く金髪に濃い青の美しい目を持つヨナタンは、まるでお話の王子さまのようで、クッキーの自慢のお兄さん。しかしクッキー自身は、足も曲がっていて不格好で、ずっと病気で咳をして家で寝込んでいる少年。そんなある日、クッキーはお客のおばさんの話から、自分がもうすぐ死ぬことを知ってしまいます。死ぬことが恐ろしいと、家に帰ってきたヨナタンに向かって泣くクッキー。しかしそんなクッキーにヨナタンは、ナンギヤラの話をして聞かせます。クッキーが死んでも土の下に寝ているのはクッキーの抜け殻だけで、クッキー自身はナンギヤラという場所に行くのだというのです。(「BRODERNA LEJOHNJARTA」大塚勇三訳)

「ミオよ わたしのミオ」と同じく「はるかな国」という言葉が題名についていますが、物語としては全くの別物。しかしミオの物語と同じくファンタジーです。寓話的だったミオの物語と美しさという点では同じですが、もっと壮大なファンタジー作品。
ナンギヤラは、生前のヨナタンによると「野営のたき火とお話の時代」。しかし2人が到着したナンギヤラは、中世の騎士の時代のよう。確かにクッキーはヨナタンが言うように元気で強い男の子になりましたが、どうやら時代が少し進んでいるようですね。朝から晩まで冒険が続くというのは本当なのですが、そこはヨナタンが話していたようなユートピアではなく、そこにも悪があり、裏切りがあり、血なまぐさい戦いがあり、美しいサクラ谷と野バラ谷の自然を背景に、厳しい物語が繰り広げられます。子供の頃はそんなナンギヤラの状態にも驚かされたものです。そして一番腑に落ちなかったのはナンギリマの存在でしょうか。クッキーやヨナタンはもちろん、テンギルもまたナンギリマに行くはずです。ナンギヤラから悪が一掃されたとしても、今度はナンギリマに悪が持ち込まれてしまうのでしょうか。たとえテンギル自身はナンギリマに行けなかったとしても、そこには何かまた別の試練が待ち受けているのでしょうか。クッキーやヨナタンが思い描くような美しい世界は、実はどこまで行っても見つけられないのではないかとさえ思ってしまいます…。
クッキーとヨナタンの兄弟愛もとても美しく、2人がお互いを思い合う気持ちは冒頭から涙を誘いますし、大人になってから改めて読むと、たった1人残されることになる2人の母親の気持ちを想像して、とても辛くなってしまいます。しかし人を惹きつけずにいないヨナタンはともかくとして、クッキーは体が弱かった現世での生活でも、体が丈夫になったナンギヤラの生活でも、ヨナタンから精神的に独立できないでいるのです。ナンギリマでもそうなのでしょうか。それともこのようにして試練をくぐりぬけていくうちに、クッキーも徐々に成長し、ヨナタンから巣立つ日も訪れるのでしょうか。はたまた、やはりこれはクッキーのみている夢物語なのでしょうか。色々と気になってしまう物語です。


「山賊のむすめローニャ」岩波少年文庫(2009年11月読了)★★★

ローニャは、マッティス山の上に雷が轟いている晩に生まれた娘。お父さんは山賊のかしらのマッティスで、お母さんはロヴィス。生まれて間もなく、これまで聞いたことのないような、山賊も青くなってひっくり返るほどの雷が落ちて、マッティス山の頂上の古いマッティス城は、真っ二つに裂けてしまいます。しかしそんな風に大げさに始まったにも関わらず、ローニャは城の中で大切に大切に育てられることに。そしてローニャが生まれた頃、敵対する山賊一味・ボルカ一家にもビルクという男の子が生まれていたのです。(「RONJA ROVARDOTTER」大塚勇三訳)

敵対する山賊 の跡取り息子と跡取り娘が、お互いを「きょうだい」と呼ぶ仲になってしまうという、まるでロミオとジュリエットの山賊版のような話。しかし山賊だけあって、2人ともまだまだ少年少女ながらも逞しいです。自分の進みたい道をしっかり見据えて行動しています。大人たちも、そんな子供たちの行動を悲しみつつも、無理矢理軌道修正させたりしようとはせず、大きく温かい愛情で見守っています。
という物語自体は、残念ながらあまり好きではないのですが…。この物語の背景となっている北欧の山々や深い森の情景がとても素敵です。森の中に住むのは、野生の馬や、熊や狐、魚といった普通の動物たち、そして「鳥女」や「灰色小人」や「トロル」といった幻想的な存在たち。厳しい自然の中の厳しい生活は、ほんの少しのことがすぐ命取りになってしまうほどなのですが、それがまた静謐で美しい雰囲気を醸し出しています。まるで神話に連なる太古の森といった風情です。

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