Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ヨナス・リーの本の感想のページです。

line
「漁師とドラウグ」国書刊行会(2007年6月読了)★★★★

【漁師とドラウグ】…妻のカレンと6人の子のいる貧しい漁師・エリアスは、ある日怪物のように大きな海豹に出くわし、重い銛を首のすぐ下に打ち込みます。しかし海豹は血走った目でエリアスを禍々しく睨んだかと思うと、海に飛び込んで姿を消してしまったのです。
【スヨーホルメンのヨー】…ノルウェーに貧弱な舟しかなかった頃、人々はラップ人の妖術師から追い風を買って海に出ていました。そんなある日、ヘルゲランのヒュッテから沖に出た漁船は、魚が全然かからないまま北上して嵐に遭い、ヨーただ1人が岸に打ち上げられます。
【綱引き】…何人もの男たちで力を合わせても、全く海に押し出すことのできない漁船。14歳の若者が重い石を力一杯投げ込むと、そこにはドラウグが座っていました。
【岩の抽斗】…ある日、雑貨屋の若い店員が魚を仕入れに舟で出かけた時、途中で舫い綱を通そうとした輪に指が嵌り込んでしまいます。そして指を引っ張ると、岸壁から大きな抽斗が勢い良く出てきたのです。その中には絹のスカーフや衣装などが一杯に入っていました。
【アンドヴァルの島】…アンドヴァルの漁港に住む1人の娘の髪は黒々とした濡羽色、妖しいまなざしで男たちを見たので、若い船乗りたちは皆、その娘の虜になってしまいます。
【イサクと牧師】…漁師のイサクはある時、漁師の履く長靴を釣り上げます。どうも死んだ兄のものに思えたイサクは、長靴を牧師の所に持っていってクリスチャンのしきたり通りに埋葬してもらおうと思うのですが、牧師に断られ、こっそりと教会の墓地に埋めることに。
【風のトロル】…バルドゥンという船長は我儘で、欲しい物は必ず手に入れなければ、何でも一番でなければ気が済まない男。そんなバルドゥンの味方に風のトロルの娘がつき、バルドゥンやバルドゥンに従う者は皆富み栄え、バルドゥンに逆らう者は悲惨な最期を迎えるようになります。
【妖魚】…湖で、眼のあるべき所に小さな切れ目が2つあるだけの奇妙な鱒を釣り上げたノナは、早速食べてしまいます。その夜、ノナがみたのは、またしても舟に乗っている夢でした。
【ラップ人の血】…アイレトといつも一緒にいるのは、ラップ人の少女・シラ。周囲の大人たちはラップ人を敵視し、両親もアイレトがラップ人の家に行くのを禁じていたのですが、行くと不思議な物語を聞かせて貰えるラップ人の家がアイレトは好きで、よくこっそりと訪れていたのです。
【青い山脈の西で】…鼓手として年に1度の軍隊の演習に参加するためにモエンに向かっていた農夫の息子は、途中の木陰で横になって一休みをすることに。目が覚めた瞬間、うすくす笑う声が聞こえ、見知らぬ娘が太鼓の枹を取って逃げていました。
【「あたしだよ」】…巨人族の男たちがいつまでも村の娘達のことを喋るのを聞いていた巨人族の娘は、自分も山を降りたところにある村で働こうと考えます。そして雑貨商の厨房で働き始めることに。(「WEIRED TALES FROM NORTHERN SEA」中野善夫訳)

ヨナス・リーは、ヘンリク・イプセン、ビョルンスチェルネ・ビョルンソン、アレクサンデル・ヒェランと共に、ノルウェー自然主義の4大作家の1人なのだそうです。初期は海と漁師の現実の生活を描いた著作が多く、後には民間伝承を元にした作品を多く書いており、これはその後者に含まれる作品。あとがきに「北欧の国ノルウェーの海と森と山を舞台にトロルや海底の死人の王や風を売る妖術師らが活躍する幻想と怪奇に満ちた物語集」とあるように、まさにその通りの作品集です。しかし民間伝承を元にしているとは言っても、ヨナス・リー自身の筆がかなり入っているようですね。同じくノルウェーの民間伝承であるアースビョルンセン編「太陽の東 月の西」の、まさに民話といった素朴な雰囲気に比べると、こちらは物語としてかなり洗練されていると思います。
ここに登場するドラウグというのは、北欧ならではの化け物。姿は定まっていないようで、この本の中でも登場するたびにその姿が変わります。「漁師とドラウグ」では海豹そっくりの顔をして、口が耳まで裂けていますし、「スヨーホルメンのヨー」では、最初は「平べったい革の帽子を被っていて顔はよく見えない」状態、2度目に表れた時は帽子を深く被っているため「頭が短い玉蜀黍の房のよう」で、しかし目は次第にギラギラしてきています。「綱引き」では、「船乗りの服を着ているのに頭の代わりに海草の塊を載せている」とあります。しかし姿は様々でも、海でドラウグに出会った者は近いうちに溺れて死ぬ運命だというのが共通点。こういった不気味な化け物は、北の海にこそ相応しい気がしますね。
幻想的だったり怪奇的だったりと、どの物語も北欧の雰囲気がたっぷりで面白かったですが、この中で特に気に入ったのは、「ラップ人の血」。ラップ人が差別されていたというのは全く知りませんでしたが、精霊信仰のラップ人とキリスト教徒が相容れるわけもないので、当然かもしれませんね。しかしキリスト教とそんな異教が緩やかに混ざり合っている感覚がとても面白かったですし、海の中の情景がとても美しくて素敵でした。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.