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このページは、ジークフリート・レンツの本の感想のページです。

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「アルネの遺品」新潮クレスト・ブックス(2005年9月読了)★★★

15歳だったアルネが亡くなって1ヶ月。両親に、そろそろ遺品を箱に詰めてくれないかと言われたハンスは部屋に上がり、ゆっくりとアルネの物を整理し始め、アルネのことを色々と思い出してゆきます。アルネは一家心中で1人だけ生き残った少年。父が若い頃の友人の息子であるアルネを引き取り、それ以来、ハンスはアルネと部屋を共有していたのです。(「ARNES NACHLASS」松永美穂訳)

アルネはなぜ死んだのか、アルネの唯一の友人だったハンスがアルネの遺品を整理しながら、思い出を回想していきます。ハンスは両親に頼まれたということもあり、アルネの良き友達となるのですが、弟のラースはアルネのことを良く思いませんし、妹のヴィープケも同様。ハンス以外にも、アルネにはハンスの両親という良き相談者がいますし、ハンスの父以外とは話そうとしないエストニア生まれのカルックの心も開きますし、学校の教師の信頼も勝ち得ています。しかしやはり同年代の少年たちでなくては満たせない孤独というのは、やはり大きいものなのですね。
純粋で控えめで、将来の夢に向かって真面目に努力するアルネはまるで天使のようですが、純粋すぎる心は耐性がないのですね。ハンスがいくら心配し守ろうとしていても、結局は硝子細工のように粉々に砕かれてしまいます。自分を大切に思ってくれる人を裏切っているのを知りながらも、彼らに迎合せずにはいられなかったアルネの姿がとても切ないです。
物語冒頭から透明な哀しみに包まれているような作品。静かに染み入ってくるようでした。


「遺失物管理所」新潮クレスト・ブックス(2005年8月読了)★★★★★お気に入り

24歳のヘンリー・ネフは、列車の車掌の仕事から大きな駅の遺失物管理所へと異動になります。一緒に働くのは上司のハネス・ハルムス、先輩社員のアルベルト・ブスマン、そしてパウラ・ブローム。ハルムスは出世の可能性の閉ざされた遺失物管理所に来てしまったヘンリーに、もう一度列車の乗務員として働こうという気はないのかと尋ねますが、ヘンリーに出世するつもりはまるでなく、ただ気持ちよく仕事ができれば十分だと答えます。(「FUNDBURO」松永美穂訳)

駅という場所は、これから旅立つ人や帰ってきた人、単に通り過ぎていくだけの人々が集まる、それだけでもドラマを感じさせる場所。そこに落ちていた物といえば、当然様々なドラマがあるでしょう。この物語は、遺失物管理所に集まってきたそんな様々な落し物が紡ぎだす人間模様の物語かと思い読み始めたのですが… それは単なる背景に過ぎなかったのですね。
物語は、遺失物管理所に異動してきた24歳のヘンリー・ネフを中心に語られていきます。 24歳になってもまだまだ少年のように無邪気で、明るく人懐こいヘンリー。無邪気と言えば言葉はいいのですが、どちらかといえば大人としての責任感が欠落し、やる気のない人間。大きな陶磁器の店「ネフ&プルムベック」の創設者が祖父であったり、伯父は連邦鉄道の本部長であったりと、お金に困っていない恵まれた環境に生まれ育ったことが良く分かるお坊ちゃんぶりです。同じ職場のパウラを気に入れば、人妻にも関わらず無理矢理誘いだしたり、悪ふざけをしたり。周囲の人々にもそんな軽い行動を頻繁に揶揄されています。しかしそんな彼だからこそ、遺失物管理所の気持ちの良さを感じ、想像力が刺激されるのを楽しむことができるのでしょうね。落し物の受取人は、その遺失物が自分の物だと証明しなければならないのですが、ヘンリーは落とした物の特徴を言わせるだけでは飽き足らず、芸人にはナイフを投げさせ、女優には台詞を語りかけ、子供には笛を吹かせます。そんなところもとても楽しいのです。
もちろん明るいだけの物語ではありません。ヘンリーがその仕事を通じて親しくなるのは、サマラ出身のバシュキール人数学者・フェードル・ラグーティン。このラグーティンはヘンリーと同じ24歳でありながら教授という確固たる地位を持っています。工科大学からの招きを受け、期待を胸にやってきたドイツへ。しかしここで彼は言われない人種差別を受け、暴走族の若者に暴力を振るわれます。職場ではリストラの対象となってしまう人間もいます。彼らを見て、素直に胸を痛めるヘンリー。能天気に見えていても、実は人間としての基本となる部分を失っていないのです。
彼を見ていると、同じ物事でも受け止め方によって様々な面が見えてくるということを再認識させられます。もちろん遺失物管理所の仕事もそうですし、人間関係もそう。曇りのない純粋な眼差しこそが、人々が無くしてしまい、遺失物管理所に探しに来るものなのではないかとそんな気さえします。
どこか郷愁を感じさせるような物語。明るさがありながらも、どこか物哀しい読後感が残りました。

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