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このページは、ジャスティーン・ラーバレスティアの本の感想のページです。

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「あたしと魔女の扉」ハヤカワ文庫FT(2009年2月読了)★★★★

生まれてこの方、母親のサラフィナと共に逃亡生活を送ってきたリーズン・カンシーノ。一番長くいた場所でも5ヶ月。大抵は移動につぐ移動。大都市は避けてアボリジニの集落を中心に滞在。友達など1人もいないリーズンですが、学校など行かなくても必要なことは全てサラフィナが教えてくれたのです。そんな2人の生活が気に入っていたリーズンですが、15歳の時、サラフィナが自殺未遂で精神病院に収容されることによって、その生活が終わりを告げることになります。リーズンはシドニーに住むサラフィナの母親・エズメラルダに引き取られることに。しかしリーズンは生まれてこの方、エズメラルダの邪悪な魔女ぶりについて警告され続けてきたのです。(「MAGIC OR MADNESS」大谷真弓訳)

オーストラリアを舞台にしたファンタジーの3部作の1作目。扉をあけるとそこは… といえばナルニアですが、この作品での扉の向こうはニューヨーク。
かなり偏執な母親と密着して育ち、教え込まれたことをそのまま信じ込んで大きくなったけれど、実は… というのはよくあるパターン。この作品の主人公のリーズンも母親であるサラフィナとの長い密着した生活の中で様々なことを教わり、その影響を大きく受けています。そしてサラフィナが語った実の母親・エズメラルダは、邪悪な黒魔術を操る魔女。しかし例えばエズメラルダの家は、確かにセラフィナの言った通りの間取りなのですが、もっと広くて明るく清潔なイメージ。電気や水道もきちんとしています。地下倉庫にあるのは動物の死体ではなくワイン。あてがわれた部屋にあるのは、かねてから読んでみたいと思っていた本。祖母自身も常識的な人間に見えるし、早速仲良くなった隣家のトムはエズメラルダを全面的に信用しているよう。最初は祖母を見ようとしないどころか、口をきこうともしないし食べ物も自分で調達したものしか食べようとしないリーズンですが、そのリーズン(理性)という名前通り、母・セラフィナの言ったことを全面的に信じたいと思いながらも、どこかおかしいと感じ始めることになります。
この作品で面白いのは、まずオーストラリアとニューヨークという2つの都市で物語が進むこと。北半球と南半球なので気候も正反対ですし、同じように英語が母国語ながらもお互いにお互いの話し方を可笑しく思っています。そして一番面白いのは魔法の概念。魔法の出てくる物語は数多ありますが、こういった扱いをされていることはあまりないように思います。書き尽くされているようでいて、まだまだアイディアが残っていたのだと感じさせてくれるのも楽しいですね。便利ながらも不便極まりない魔法がまるで呪いのよう。これからどうなるのか、どのようにして彼らが危機を乗り越えることになるのか、それがとても楽しみです。


「あたしをとらえた光」ハヤカワ文庫FT(2009年2月読了)★★★★

リーズンはJ・Tとトムと共にエズメラルダの家に戻り、エズメラルダの魔法の勉強を受けることになります。しかしそんな時、エズメラルダの裏口のドアが動き、質感が変化して、エズメラルダのコートは飲み込まれてしまうのです。そして奇妙な物体が侵入。それはJ・Tに張り付き、トムに噛み付き、そしてリーズンの腕の中にもぐりこみます。その時はその物体を撃退することに成功するものの、再び襲われた時、リーズンは有無を言わさず扉の向こうに連れ去られてしまうことに。(「MAGIC LESSONS」大谷真弓訳)

原題「Magic Lessons」の通り、早速行われる魔法の授業。こういう場面はやはり楽しいですね。結局、謎の物体やジェイソン・ブレイクの攻撃のせいで、授業はなかなか進まないのですが、こういった場面が後々の伏線にもなっているのでしょうね。そして今回フィボナッチ数列はあまり登場しませんでしたが、これもおそらく大きな役割があるはず。
今回印象に残ったのは、エズメラルダの「とてもハンサムだったわ」「本当にハンサムだったんだから! それにおもしろい人だったのよ。」という発言。これが可愛らしいです。この一族の女性は、揃って面食いで情熱的なのですね。エズメラルダがサラフィナが言う通りの悪い人間とは最初から思っていませんでしたが、だからといって非の打ち所のない完全無欠の人間というわけでもなさそうですし、この巻でかなり人間的な部分を見せてくれるのも楽しいところ。基本的にリーズンとトム、そしてJ・T視点で語られているので、エズメラルダに関しては、彼らの目を通して見える部分しか分からないのです。エズメラルダの心の奥底の思いが明かされる日は来るのでしょうか。そして時にはまるで魔法を持たない人間が存在する… という辺りはシャンナ・スウェンドソンのシリーズのようでもありますね。
このシリーズ、本の裏のあらすじや解説でネタバレが多いので要注意です。全てを読了後に読んだ方が無難かと。


「あたしのなかの魔法」ハヤカワ文庫FT(2009年2月読了)★★★★

目をつむるたびに、瞬きするたびに魔法が見えるようになってしまったリーズン。トムの光はくっきりとして強く、エズメラルダの光は目が眩むようなもの。しかしJ・Tの光は天の川よりもぼんやりと霞む程度なのです。何とかしなければと焦るリーズン。そんな時に、エズメラルダの家をソーシャル・ワーカーが訪れます。リーズンがエズメラルダの家に馴染んでいるのか、きちんと面倒をみてもらっているのか、幸せに暮らしているのかをチェックしに来たのです。(「MAGIC CHILD」大谷真弓訳)

3部作の最終巻。
カンシーノの魔法を受け取ったリーズンは、いまや無敵状態。ここまできてしまうと、某少年物のアニメを思い出してしまいます。私としては、もっとJ・Tやトムと力を合わせて敵に立ち向かうという展開を期待していたのですが… その方がサラフィナとの孤独な逃亡と対照的になって良かったと思うのですが。その辺りは私の好みとは少し違ってきてしまっていて残念。ただ、サラフィナの言っていたことはやはり正しかった、という結論はいいと思います。そしてサラフィナとの逃亡生活には大きな意義があったというのも。それでも、結局のところ皆それぞれに自分のことしか考えていなかったという部分にはがっかり。もちろんJ・Tやトム、ダニーといったまだ大人になりきれていない年代はある程度は仕方ないと思いますが、やはり人の親となっている人々にはそれなりのものを求めてしまいます。特にエズメラルダ辺りは超然とした存在であった欲しかったのですが… 貪欲な目を想像するだけでぞっとしてしまいますね。だからこそリーズンの出した結論が正しかったと言えるのでしょうけれど。
リーズンが結局選ばなかった世界の描写について、もっと読みたかったです。そしてフィボナッチ数列は、終わってみればそれほど大して重要な役回りというわけではなかったのですね。ここまできて、ようやく意味が分かりましたが(それらしいことはもっと前の巻に書いてありましたが)、それでも少し残念でした。

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