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このページは、トンマーゾ・ランドルフィの本の感想のページです。

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「月ノ石」河出書房新社(2009年4月読了)★★★★

休暇になり、久しぶりに田舎の村Pの叔父の家を訪れた大学生のジョヴァンカルロ。叔父の家には叔母やその兄、従兄弟や従姉妹、従姉妹の小さな息子がおり、ジョヴァンカルロは一家のもてなしの場である台所で歓待されます。ひとしきり話をした頃、ふいに視線を感じるジョヴァンカルロ。何者かが闇の奥から野生の黒い目でジョヴァンカルロをじっと見つめていたのです。やがて家に入って来たのはグルーと呼ばれる若い女性。ジョヴァンカルロはその女性の美しさに目が離せなくなります。しかし気づくと、その女性のスカートからのぞいていたのは、女性の優雅な足ではなく、先の割れた山羊のひづめで…。(「LA PIETRA LUNARE」中山エツコ訳)

イタリアの奇才だというトンマーゾ・ランドルフィによる幻想的な物語。表紙のヴァロの「星粥」の絵に惹かれて手に取った作品。
前半のジョヴァンカルロとグルーの恋物語となる昼間の太陽の世界。そして満月の夜、ジョヴァンカルロがグルーに連れられて行くことになる、カプリオーラ山脈とファッジェート山の斜面に閉じ込められた山間の村・ソルヴェッロは夜の月の世界。最初にジョヴァンカルロがグルーを見初めた場面はその境界線上だったのでしょうか。太陽と月、昼と夜、現実と夢幻の境界線が曖昧で、現実の世界にいたはずなのに、気がついたら異世界に引きずり込まれていたような感覚。
ソルヴェッロの地でジョヴァンカルロが出会うのは、過去の山賊たち。「剥ぎ取りベルナルド」や「赤毛のシンフォロ」、「買い物カゴ野郎アントニオ」… 曾祖父を誘拐して途方もない身代金を要求した「引き裂きヴィチェンツォ」にも出会うことになりますし、その事件の時に死んだ使用人・ナポレオンもいるのです。この地での山賊の宴の場面は妖しく美しく、そしてどこか狂気じみていて、異教的な情景のように思えます。この出来事は結局のところ一夜の夢だったのでしょうか。それとも現実だったのでしょうか。そしてグルーとは何者だったのでしょうか。山羊の足から連想するのは悪魔か、そうでなければギリシャ神話に出てくるフォーンのような生き物。グルーはかつてこの地で権力を持っていた一族の末裔であり、その一族にはかなり血なまぐさいエピソードが残っているようなので黒魔術… とも思ったのですが、グルーは十字を切ってますし、基本的にキリスト教色の強い物語ではないので、これはやはり異教的な神話の世界のように感じられますね。そう考えると、人間と動物が入り乱れているところも、死者と生者が入り乱れているところも、3人の「母たち」も異教的。それはキリスト教に対抗した存在の異教ではなく、むしろキリスト教が入ってくる前の純粋な異教の世界のように思えます。しかしどちらかといえば、物語というよりも一連の絵画の連なりを眺めているような感覚の物語だったかもしれません。幻想的な美しさは堪能したものの、何を意味しているのか完全に掴み取ることはできなかったのですが、一連の絵画であるならば、それもまた許されるでしょうか。

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