Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ミラン・クンデラの本の感想のページです。

line
「生は彼方に」ハヤカワepi文庫(2006年5月読了)★★
プラハの裕福な家に生まれた母親と、貧乏な若い技師の間に生まれた詩人・ヤミロール。母親は妊娠した後で、夫が自分に愛情を持っていないことを悟るのですが、生まれてくる赤ん坊のために結婚。ヤミロールは母親に溺愛されて育ちます。自分の言葉が周囲に大きく影響を及ぼすことに気づいたヤミロールは、常に自分が特別だという意識を持つようになり…。(「LA VIE EST AILLEURS」西永良成訳)

短い章を畳み掛けるような構成で「詩人」ヤミロールの一生を描いた作品。第二次世界大戦後の混乱期に生まれ、じきにチェコスロバキアの改革活動「プラハの春」が起きるという、激動する時代に生きたヤミロール。これはクンデラ初期の作品で、クンデラらしさが一番表れている自伝的作品なのだそうです。クンデラ自身が詩を書き、小説というよりも、むしろ散文詩のような作品。文章自体は読みやすかったのですが、この作品は、私には少々分かりづらかったです。というよりもむしろ、作品に近づけなかったような気がします。
一見早熟に見えたヤミロールですが、決して大人ではなく、むしろ子供っぽい部分が目につきます。すさまじいほどの自信過剰ぶりですし、それでいて、他人の目が気になって仕方がない、常に他人の賞賛がないと耐えられない小心者なのですね。かつて他人にもらった賛辞の言葉に、いつまでもしがみつくヤミロール。結局自分を絶対的に認めてくれる人間は母親だけのため、なかなか母親から精神的に巣立つことができません。母親の目を通して自己確認していたのでしょうか。決して美人とは言えない赤毛の恋人についても同様。周囲には「ブス」と言われ、ヤミロール自身もブスだと思っていた彼女を通して自己確認していたように思えます。美しくない恋人を愛している自分に酔っているようにも思えました。そんなヤミロールが、果てしない自信過剰の人生とは裏腹の最期を迎えるのが哀れです。
チェコスロバキアでこの作品が発禁状態となったミラン・クンデラは、その後はフランスに亡命し、フランス語による作品を発表しています。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.