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このページは、ガイ・ゲイブリエル・ケイの本の感想のページです。

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「夏の樹-フィオナヴァール・タペストリー1」上下 ハヤカワ文庫FT(2007年3月読了)★★★★

第2回国際ケルト会議でロレンツォ・マルクス博士が講演と司会をするということで、開催場所であるトロント大学のドームつきホールは満員状態。デイヴ・マルティニュークもまた、兄のヴィンスがパネルに出るとあって、ホールのロビーにやって来ていました。そこでデイヴが出会ったのは、ケヴィン・レインとポール・シェーファー、ジェニファー・ローウェルとキム・フォードの4人。講演は大成功のうちに終了し、会場を出ようとしながら、マルクス博士と話してみたいと行っていた彼らに、マルクス博士の秘書だというマット・ゼーレンという男が近づきます。マルクス博士はその後のレセプションに出る気がないので、一緒に連れ出そうというのです。7人は無事にホールを抜け出して、博士の宿泊先だというパークプラザ・ホテルの部屋へ。しかしマルクス博士は、実はこの世界の人間ではなかったのです。時の渦巻きの中には数多くの世界があり、それらのほとんどは最も優れた創造物であるフィオナヴァールの不完全な反映。マルクス博士とマットは、そのフィオナヴァールから来た魔道士のローレン・シルヴァークロークと、かつてのドワーフの王だったのです。5人に自分たちの世界に来て、王の治世50年の祭りに出席して欲しいというのですが…。(「THE SUMMER TREE」井辻朱美訳)

フィオナヴァール・タペストリーシリーズ3部作の第1部。
物語の根底に感じられるのはケルト神話と「指輪物語」の影響。ケルトの大釜も登場しますし、名称にもそこここに影響が感じられます。ローレンはガンダルフ、マットはギムリ、ライオス・アルファーはエルフというように、役割分担も分かりやすいですね。これだけ見ると、訳者あとがきで井辻朱美さんが書いているような、「トールキンの衣鉢を継ぐ」という惹句に相応しい作品とはあまり思えません。
しかしてっきり「指輪物語」のように旅に出るかと思い、たとえ旅に出なかったとしても、5人が一丸となって闇と戦うのだろうと思っていたのですが、この物語では全くそうではなかったのがユニークです。物語冒頭では、必要なのはキムだけであとの4人はおまけ、という印象が強かっただけに意外でした。5人はそれぞれに冒険に巻き込まれることになります。デイヴはフィオナヴァールには来ているはずではあるけれど行方不明。ケヴィンとポールは、嗣子であるディアルマッド王子らと共に行動。キムは「夢見る者」である見者・イザンヌの元へ。1人宮殿に残されていたジェニファーは、友達となったリーシャと共に遠乗りに行き、そこで酷い運命に巻き込まれることに…。5人が元いた世界から持ち続けていたそれぞれの悩みや感情がフィオナヴァールの世界での展開に見事に昇華されているのがいいですね。特にポール・シェーファーが物語前面に登場していましたし、個人的にはデイヴ・マルティニュークの場面がとても面白かったです。
ただ、フィオナヴァールが最も優れた世界なら、その中だけで全てが解決しそうなものですし、実際に5人フィオナヴァールへ行っても、それほど優れた世界のようには見えなかったですね。王の治世50周年のお祭りに呼ばれたなどという理由も5人対してフェアとは言えないと思いますし、特にキムやジェニファーの身に起きたことを考えれば、きちんと危険を説明しておく義務はあったのではないかと思ってしまいます。キムがあまりにあっさりとフィオナヴァールの人間となってしまうのも違和感。それより何よりも、1部がこんな終わり方で、2部3部が未訳のまま放ったらかしにされているというのが解せないですね。

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