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このページは、M. L. カシュニッツの本の感想のページです。

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「精霊たちの庭」ハヤカワ文庫FT(2006年9月読了)★★★★★
大きな町の真ん中にあるとても古い庭は、地主の屋敷が取り壊されて大きな貸家が建てられた後、鉄条網を張り巡らされて誰も入れない状態となっていました。そして数年後の冬、その貸家に9歳の少年と8歳の少女の一家が引っ越してきます。春になったらその庭に行くのを楽しみにする2人。近所の子供たちに、普通の人間の3倍ほどの大きさがある庭師が突然地面の中から現れたり、年をとった小人らしいものを見かけた子供がいると聞き、2人の好奇心は高まります。そして春になり、両親がちょっとした旅行に出た日曜日の朝、少年は妹を連れて古い庭の中へ。2人は1日中その庭の中を歩き回るのですが、少年の悪戯から庭は滅茶苦茶になり、かなりの動物や昆虫たちが傷つくことに。そして夕方。突然の嵐に家に向かって走り出した2人は、思うように前に進めないことに気付きます。気がつくと、2人は沢山の動物や精霊たちに取り囲まれていました。彼らは美しいブナの木の婦人を呼び出し、こんなひどいことをした兄妹は処罰されるべきだと言い始めます。死刑を求める声と少女の泣き声。婦人は2人に、太陽が昇るまでに<地の母>を見つけ、<海の父>のもとに行き着き、太陽の歌を聞き、<風の塔>でお客になることを言い渡すことに。(「DER ALTE GARTEN」前川道介訳)

少年の征服欲のために破壊された庭や罪のない動物たちに償うために、旅へと出ることになってしまった兄妹の物語。どこかメーテルリンクの「青い鳥」の雰囲気です。読み始めると、まず描写の美しさが目を惹きます。地上での描写はもちろんのこと、暗い地の底にも育っていこうとする命があり、球根のおばさんに見せてもらう情景や、妖精たちの春のお芝居がとても詩的で美しいのです。カシュニッツが詩人であることを知って納得。
しかし表向きはそんな風に美しく、子供にも楽しめるような童話なのですが、そこにはモグラ同士の争いを始めとして、飛ぶことのできないワシの話や、孤独に死んでいこうとする男の話、自然界に存在する様々な生と死の物語が挿入されていて、決して楽しいだけの物語ではありません。たった一晩の旅なのですが、2人は旅を通して春や夏の美しさだけではなく、厳しい冬をも体験することになりますし、生と死について真正面から考えさせられることになり、様々な生と死がそれぞれに連鎖していくことを実感として教えられることになります。なかなか厳しい物語なのですね。
ユニークだと思ったのが、兄妹を処罰して欲しいという動物や精霊たちに対して、ブナの木の婦人が弁護人を見つけようとすること。結局弁護人は見つからなかったのですが、ブナの木の婦人が裁判長で、動物や精霊たちは原告なのです。そしてブナの木の婦人が執行猶予として2人に旅をすることを命じる部分が、生と死をきっちりと体験させることと合わせて、作者のドイツ人らしさを表しているように思えました。それともう1つ面白いのが、物語の中にはハーデースと結婚することになったペルセポネや、太陽の馬車を御したがったアポロンの息子・パエトーンの物語など、ギリシャ神話のエピソードが引用されていること。ドイツとギリシャ神話というのは、なんだか不思議な組み合わせなのですが、カシュニッツ自身、ローマに長く住んでいたこともあるようですし、おそらくその影響なのでしょうね。
田尻三千夫訳の「古い庭園」という作品がありますが、これと同じもののようです。
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