Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ゾエ・イェニーの本の感想のページです。

line
「花粉の部屋」新潮クレスト・ブックス(2007年8月読了)★★★

ヨーが幼稚園の頃、両親は離婚。母は通りを2、3本へだてた所に引越し、「わたし」は売れない作家の父と家に残ります。父はやがてエリアーネという赤味がかったブロンドの女と再婚するのですが、いつもキッチンにいてオレンジをむき、煙草を吸い、ナッツを盛大に食べ、癇癪を起こして家中のし歩いていたエリアーネは、いつの間にか家を出ていました。やがて母も、アロイスという男と再婚して遠い町へいくことに。そして12年後、ヨーは母のルーシーに再会します。(「DAS BLUTENSTAUBZIMMER」平野卿子訳)

発表されてすぐにドイツで最も名誉ある新人賞・インゲボルグ・バッハマン賞を受賞し、続いて2つの重要な文学賞、ユルゲン・ポント財団文学奨励賞とアスペクテ文学賞を受賞したという作品。
ゾエ・イェニーの両親も3歳の時に離婚しており、父親はバーゼルで出版社を経営。かなり自伝的な要素の強い作品のようです。しかしイェニー自身は、作中のヨーと同一視されることを当惑しているのだそう。彼女は吉本ばななを愛読しているようで、確かに「家族」とうテーマは共通しているようですが、その表現方法はまるで違いますね。この作品において、ヨーの感情はまるで描かれていないのです。訳者あとがきによると、それは、ヨーがつねに「ある感情のなかで」「感情のまっただなかに身を置いて」語るからだ、とのこと。確かに文章は簡潔すぎるほど簡潔。感情をまるで交えずに淡々と静かに事実を述べていくだけ。しかしそこにずっと漂い続けているのは、ヨーの孤独感。ヨーの中ではその孤独感があまりに強すぎて、他の感情がすっかり色褪せてしまったのかもしれません。父親と、あるいは母親と一緒にいながら、彼らの人生に自分が存在する場所がないことを常に感じさせられているヨー。一緒にいながら孤独であり、自分の居場所がないというのは、本当に1人ぼっちの寂しさよりもたちが悪いような気がします。ヨーがあまりに淡々と事実を描き出していくだけなので、吉本ばなな作品の女性たちのようには感情移入できなかったのですが、独特の雰囲気を持った作品でした。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.