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このページは、ラルフ・イーザウの本の感想のページです。

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「ヨナタンと伝説の杖」あすなろ書房(2003年5月読了)★★
野原で突然大きな穴の中に落ちてしまったヨナタンは、真っ暗な闇の中を手さぐりで進むうちに、何かが壁に刺さっているのに気付きます。それは1本の杖でした。しかしその穴はツチクイの穴。巨大なツチクイから逃げるヨナタンに、杖は不思議な力を発揮します。頭上の天井に叩きつけられた杖は青い閃光と共に天井を砕き、杖が突き刺さったツチクイは塵となって消え失せてしまうのです。ヨナタンはなんとか無事に、賢者・ナヴランの待つ家へと戻ることに。…そこでジョナサンは目を覚まします。ジョナサンはもうすぐ14歳の少年。8歳の頃からヨナタンの夢を見続けていました。6年前から歩けなくなった華奢で病弱なジョナサンとは対照的に、同じ年でありながらも、実年齢よりも逞しく大きく見えるヨナタン。そしてその後も、ジョナサンはヨナタンの夢を見続けます。ヨナタンの拾った杖はハシェベトと呼ばれる、全能の神・イェーヴォーの杖。これまで6人の裁き司しか手に取ることができなかったこの杖を、ヨナタンは英知の庭にいる第6代裁き司のゴエルに渡しに行くことに。…ジョナサンの中でヨナタンの夢の存在は徐々に大きくなります。そしてジョナサンはとうとう、夢を見ている間の、現実の生活の記憶の一部が抜け落ちているのに気付くことに。(「Die Tr¨aume des Jonathan Jabbok」酒寄進一訳)

ミヒャエル・エンデに次ぐドイツ・ファンタジーの旗手と言われるラルフ・イーザウの作品。
まるで旧約聖書を彷彿とさせる預言書の一節から物語は始まります。C.S.ルイスの「ナルニア」が新約聖書を模しているのに対し、こちらは旧約聖書の世界。
物語はジョナサンとヨナタンという2人の少年の視点から交互に描かれていきます。ネシャンという土地に住むヨナタンと、イギリスのスコットランドにある寄宿学校に住むジョナサンという少年。どちらも現在14歳で、お互いにお互いの存在を感じています。しかしその存在は鏡に映したかのように対照的。質実な暮らしと肉体労働で逞しくなっていくヨナタンと、6年前に歩く力をなくしてから、体はなおも蝕まれ続けている青白いジョナサン。お互いにお互いの存在を夢で見ているものの、どちらが本当の現実なのかは、まだ分からない状態。 
最初のうちはかなり読みにくかったのですが、4分の3ほど読んだ辺りからようやく面白くなってきました。ヨナタンとジョナサンという2人の聡明な少年はもちろん、ヨナタンと一緒に旅をすることになる船乗りの青年・ヨミや、ベーミッシュという不思議な森の住人・ディン=ミキト、そしてジョナサンの世界にいる祖父のジェイボック卿や執事アルフレッドら、登場人物もそれぞれに魅力的。果たしてヨナタンは第7の裁き司となるのでしょうか。そしてヨナタンの旅が終わった時、ヨナタンとジョナサンの関係はどうなるのでしょう。どちらかが相手に吸収されてしまうのでしょうか。先々への興味は尽きません。

「第七代裁き司の謎」あすなろ書房(2003年6月読了)★★
ペーミッシュのディン・ミキトと別れ、禁断の地を無事抜けたヨナタンとヨミは、海賊たちの地へと向かいます。セダノールに行くために、海賊たちの力を借りようと考えたのです。しかし偶然海賊の隠れ家に行き着いた2人は、早速海賊たちに見つかり、捕虜となってしまいます。2人の世話をすることになったのは、元商人のギムとその妻・ダガー。息子のギンバールを海賊の巣から救い出したいと考えていたギムは、2人のことを相談し始めた海賊たちに、2人の父親に身代金を要求する計画を持ちかけます。計画はまとまり、2人はギンバールとベニトに連れられてセダノールへ。しかしベニトの裏切りで、ヨナタンとヨミとギンバールは別の船に囚われの身となってしまうのです。(酒寄進一訳)

初めにジョナサンの日記によって1巻のあらすじが語られ、それから本格的なヨナタンの冒険へと話が移ります。ジョナサンとヨナタンの入れ替えが少なくなり、ネシャンでの物語りの比重が重くなっている分、確実に読みやすくなっています。しかしそれ自体はとても嬉しいのですが、元気なヨナタンばかり活躍して、ジョナサンはどうなってしまったのだろうというのが気になってしまいました。ヨナタンの周りには心強い助っ人がたくさんおり、万能な杖もあるのです。病弱なジョナサンはすっかり影の存在。ジョナサンの祖父や、新しく登場した家庭教師がとても魅力的なだけに少々残念。
今回新しく仲間となるのは、まず元海賊のギンバール、そしてフェリン王子。この2人、特にフェリン王子は魅力的です。しかしヨナタンの仲間としては、どうなのでしょう。1巻でヨナタンとヨミが2人で旅に出て、禁断の地でディン=ミキトが登場するのは良かったと思いますし、2巻に入ってからギンバールが加わるのもいいと思うのですが、ここでフェリン王子まで加わるとなると、あまりに強力すぎるような気がします。セダノールでの力強い味方として存在してくれれば、それで十分だったような。そうでなくても杖の存在が、少々都合が良すぎるのですから。
そしてラストのジョナサンは、あまりに迷いなく決断を下しすぎたような気がします。彼なら、後に残された人間の気持ちはよく分かっているはず。それでも敢えて決断したのでしょうけれど…。
しかしゼトアのように悪の側にありながらも、単に悪だと切って捨てることのできない存在もあります。ゼトアの造形がとてもいいですね。たまたまバール=ハッザト側の人間だったというだけで、彼も自分の主に忠実な1人の人間にすぎないというのが、この巻で良く分かります。やはりこの作品は、それぞれのキャラクターが魅力的です。
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