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このページは、ボフミル・フラバルの本の感想のページです。

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「あまりにも騒がしい孤独」松籟社(2009年4月読了)★★★★★お気に入り

水圧式のプレスで故紙や本を潰してキューブにしては再生工場に送る仕事をしているハニチャ。35年間で潰した本はおそらく3トン以上。しかしそんなハニチャにも楽しみはありました。それは送られてくる紙の山の中から美しい本を救い出すこと。そしてそんな本を読みふけること。そして文字にまみれ、心ならずも教養が身についてしまったハニチャにとって、どの思想が自分のもので、どの思想が本で読んで覚えたものなのか既に分からなくなっているのです。(「PRILIS HLUCNA SAMOTA」石川達夫訳)

ナチズムとスターリニズムに踏みにじられている時代のチェコが背景なので、当然チェコの人々の暮らしは大変な状態ですし、本来なら本好きの読者にとって、本が次々と処理されていくという現実は直視するのがツラいはず。しかしどこかあっけらかんとした明るさと、飄々としたユーモア感覚があるので、悲惨さを全く感じずに読めてしまう作品。焚書に対する怒りとか哀しみみたいなのはまるでなく... ここで潰されるのは主に本や紙で、時には複製画もあるのですが、きちんとしたものばかりではなく、時には肉屋から送られてきた血まみれの紙もあるのですね。そういったものがどさっと投げ込まれて作業にかかると、その血にたかっている蝿ごとプレスしてしまいますし、ハニチャまで血まみれになってしまうほど。しかし主人公が自分なりの儀式として、読み終わった美しい本を心臓部に入れ、時にはその側面を複製画で飾った紙塊に、グロテスク な美しさを感じてしまいます。
主人公は年金生活まであと5年。日々浴びるようにビールを飲んでいるようなので、外見的にはまさに生活にくたびれた中年男性のはずなのですが、その中身は孤独で繊細な少年。仕事をしながら思い出すのは、美しいマンチンカと恋をしていた時のことや、ナチスに連れ去られたジプシーの恋人のこと。ジプシーの恋人は結局強制収容所から戻ってくることはなく、このようにふとした拍子に当時のチェコの現実が見えてくるのですが...。そして彼は自分の仕事を誇りを持っています。この仕事につくには普通の学校での勉強だけでなく、神学校で教育を受けた方がいい、などと言っているぐらいですから。 
東欧の作家には、やはりそれぞれに独特な雰囲気がありますね。少なくとも今まで読んだ東欧の作家は、他の欧米圏の作家よりも持ってる色合いが濃いような気がします。

P.8「世界の焚書官たちが本を焼いたところで、無駄なことだ。そして、もしそれらの本が何か意味のあることを書き留めていたなら、焼かれる本たちの静かな笑い声が聞こえて来るだけだ。なぜなら、ちゃんとした本はいつも、本の外の世界を指し示しているからだ」

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