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このページは、カーレド・ホッセイニの本の感想のページです。

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「君のためなら千回でも」上下 ハヤカワepi文庫(2008年3月読了)★★★★

2001年夏。サンフランシスコに暮らすアミールは、パキスタンにいる古い友人のラヒム・ハーンからの電話を受けます。それは「もう一度やり直す道がある」から会いに来て欲しいという電話。その電話を受けながら、アミールの心は26年前の1975年、12歳の冬にとんでいました。アミールが今の自分となったのは、その12歳の冬の日のこと。アミールは、事業家でカブールでも屈指の金持ちだった父親のババのことを考えます。そしてハザラ人の召使でありながらババの兄弟同然だったアリと、アリの息子で当時アミールの兄弟同然に過ごしていたハッサンのこと…。(「THE KITE RUNNER」佐藤耕士訳)

アフガニスタンが舞台という珍しい作品。政情の不安定なアフガニスタンを背景にして、アミールとハッサンの物語が展開していきます。
どの時代であっても、どこの国であっても、子供たちというのは残酷なもの。一般的なアフガニスタン人の子供たちにとって、ハッサンはただのハザラ人の召使。平気で切り捨てられるものであり、切り捨ててしまったとしても、何の痛みも伴いません。アミールがハッサンを切り捨てようが何しようが、一般的なアフガニスタン人なら、誰も咎める人はいないのです。しかしアミールにとってのハッサンは、召使でありながら一番近しい友達でもあるという存在。アミールが学校に行っている時以外は、2人は基本的にずっと一緒に過ごしています。それでもハッサンのアミールに対する真っ直ぐな思いとは裏腹に、アミールのハッサンに対する感情にも、複雑なものがあるのですが…。アミールの感情は差別意識でこそないものの、父・ババの期待になかなか応えられずに焦っており、その愛情を日々十分に感じられないでいることもあって、アミールはババがハッサンを大切にすることをあまり快く思ってはいません。特に何も考えていなかったにせよ、ババの友達の子供たちが家に遊びに来た時に、ハッサンを誘うこともないのです。それでも2人の世界を破壊しようとする周囲の子供の存在がなければ、そのまま2人とも大人になり、ババとアリのような関係になれたのでしょうね。子供の世界は大人の世界の縮図とも言えるのですが、良くも悪くも大人の世界以上にくっきりと鮮やかに人間を住み分けさせてしまいます。しかし一度はハッサンを見捨てておきながら、その行動を自分で許せず、その結果がその後ずっと心に重くのしかかっているアミールを見ていると、やはりババの教えはアミールの心に思っていた以上に浸透していたというのが分かります。
アフガニスタンのことをほとんど何も知らずに読み始めたのですが、単語の知識として知っていただけの「アフガニスタン」「タリバン」などの言葉がずっしりと読後にのしかかってきます。しかし軍事クーデターが起きる以前のアフガニスタンは、こんなにも素敵な場所だったのですね。子供時代のアミールの目を通してみる町の長閑な生活が哀しくも美しいです。

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