Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ゲアハルト・ハウプトマンの本の感想のページです。

line
「沈鐘-独逸風の童話劇」岩波文庫(2009年8月読了)★★★★

山の中に住む魔女に育てられた妖精のラウテンデラインの前に現れたのは、30歳の鋳鐘師・ハインリッヒ。湖の中に転がり落ちた鐘と一緒にハインリッヒも谷底に転げ落ちたのです。瀕死のハインリッヒは、自分を世話してくれるラウテンデラインを一目見て心を奪われます。しかしそこにハインリッヒを探しに来た牧師や教師、理髪師が登ってきてハインリッヒを取り戻し、妻のマグダ夫人や子供たちのところに連れて帰ることに。(「DIE VERSUNKENE GLOCKE」阿部六郎訳)

5幕物の戯曲で、オットリーノ・レスピーギが歌劇に仕立てている作品。泉鏡花の「夜叉ヶ池」「海神別荘」「天守物語」、特に「夜叉ヶ池」にも大きく影響を与えていると言われ、野溝七生子はこの作品のヒロイン・ラウテンデラインに因んで「ラウ」と呼ばれていたのだそう。
一読して驚いたのは、まるでフーケーの「ウンディーネ」のようだということ。ラウテンデラインは、実際にはウンディーネのような水の精ではないはずなのですが、その造形はとてもよく似ています。ただその日その日を楽しく暮らしていたラウテンデラインは、ハインリッヒを知ることによって初めて泣くことを知るのですね。ここで「泣く」というのは、ウンディーネが愛によって魂を得たのと同じこと。ラウテンデラインの場合は、ウンディーネほどの極端な変わりぶりではないのですが、それでもやはり精霊だった時とは違います。そして作品全体の雰囲気もよく似ていますね。ハインリッヒに夢中になるラウテンデラインのことを周囲の精霊たちが面白く思わないのも同じなら、水が重要ポイントになるところも同じ。ラウテンデラインは本当は水の精ではないはずなのに、これではまさに水の精。そして3杯の酒による結末も。魂を失い、愛を忘れてしまうところも。ああ、ここにも「水の女」がいたのか、という印象です。しかし魂を持たないウンディーネが人間の男性に愛されて妻になると魂を得るという設定は、元々パラケルススによるもの。水辺や水上で夫に罵られると、水の世界に戻らなくてはならないことや、夫が他の女を娶れば命を奪わなければいけないというのも同様。ハウプトマンもパラケルススの本を読んでいたのか、それともフーケーの影響を受けたのか、それともその両方なのか。どうなのでしょう。
2人の子供と妻の涙の壷、そして響き渡る鐘の音。ラウテンデラインの腕の中にはハインリッヒ。ああ、なんと美しいのでしょう。水の魔物・ニッケルマンや牧神風の森の魔、そしてゲルマン神話の神々もまた、幻想的な雰囲気を盛り上げていました。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.