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このページは、ピエール・グリパリの本の感想のページです。

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「ピポ王子」ハヤカワ文庫FT(2006年3月読了)★★★★★

跡継ぎの息子がいなくて悲しんでいる王さまは、王妃さまにアドバイスされて、<眠りながらでしかいけない国>の“水のほとりの大魔女”に相談しに行くことに。夕食の後、<眠り>駅へと向かった王さまは、レールの上に乗っている巨大ベッドに潜り込んで、“水のほとりの大魔女”のところへ行き、魔女に連れられて<新生児デパート>へ。ここでは未来の両親が自分の赤ん坊を選ぶことができるのです。広間の中のあらゆる子供を見て回った王さまは、ある子供の前に長い行列が出来ているのを見つけます。それはピポ。王さまはこの子供が欲しくなり、15歳になったら赤い小馬をあげるという約束で、ピポを自分の子供にすることに。(「HISTOIRE DU PRINCE PIPO」榊原晃三訳)

本編が始まる前の「嘘つきのお話」は、どこかケストナーのような雰囲気。そして次に続く「あるお話のお話」も、まだまだ導入編。これは作家の「ピエールさん」が眠っている間にみたとてもとても美しいお話の夢が、ピエールさんにすっかり忘れられてしまったのが悲しくて、様々な人のところに行き書き留めてもらおうとするのですが、そのままのお話の姿に満足してくれる人が見つからず、最後にまたピエールさんのところに戻ってくる物語。そしてその夢を再びみたピエールさんが、もう忘れないようにと目が覚めた時にすぐ書き留めたのが「ピポ王子」の物語。
そのように夢物語から始まるせいか、ピポ王子の物語全体もまるで夢の中の出来事のようです。もちろん「ピエールさん」がみた夢を書き留めているのですから、夢そのものに違いないのですが、夢の中で、自分が夢を見ているのが分っているのにどうしても目を覚ますことができないような、もどかしさが付きまといます。怪物が迫ってくるのに身体が重くて思うように走れないような感覚。そして場面も唐突に転換するのですが、夢を見ている時と同じく、ごく自然に受け止めてしまいます。物語自体はいかにも子供向けの冒険ファンタジーで、例えばエルショーフの「せむしの小馬」の雰囲気。そのままでも十分魅力的な世界が繰り広げられているのですが、この「夢」という存在が絡むことによって、様々なことが重層的に複雑に絡み合うのですね。一読しただけでは十分に掴み取れなかったのですが、1つ1つのモチーフに深い意味が秘められていそうです。色々と気になり、妙に後を引く作品。そもそも「嘘つきのお話」は何だったのでしょう。そしてピポ王子が宿屋で語る2つの物語は何だったのでしょう。そしてこの物語がこういう結末を迎えたのは、そもそもは王さまが子供を欲しがって無理矢理事実(運命)を捻じ曲げたせいだったのでしょうか。そのために、罰として不思議な輪の中に取り込まれてしまったような気もするのですが…。

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