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このページは、フィリップ・グランベールの本の感想のページです。

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「ある秘密」新潮クレスト・ブックス(2009年2月読了)★★★★★

本当はひとりっ子なのに、長い間兄さんがいるつもりになっていた「ぼく」。1人で作り出した悲しみや恐怖を分かち合う相手が必要で、長い間ハンサムで力強い「兄さん」に助けてもらっていたのです。しかしそんなある日、「ぼく」はついに1人きりではなくなります。屋根裏部屋に積み重ねられた古いトランクの中にベークライトの目をしたほこりっぽい小犬のぬいぐるみが出てきたのです。そして「ぼく」は15歳の時に、その小犬にまつわる話を聞くことに。(「UN SECRET」野崎歓訳)

フィリップ・グランベールの自伝的作品。実際、彼が自分の家族にまつわる秘密を知ったのは、この本と同じく15歳の頃だったのだそうです。
ここに描かれているものはとても重いものですが、最初から最後まで終始淡々とした感情を抑えた文章で書かれています。簡潔な文章の積み重ねが淡々と積み重ねられていくうちに、最後には1つの作品という形になったという印象。しかし簡潔でありながら、その奥には様々な感情が詰まっていて、ふとした拍子に零れ落ちてきそうです。そう思いながら読んでいたら、フィリップ・グランベールはこの作品を2ヶ月ほどの間に夢中で書き上げるものの、実際には文章が感情に流されていて使い物にならなかったのだそう。疲れ果て体調を崩しながらも書き直し続けた時、最後に「残ったのは骨の部分だけでした。結局それだけが必要だったのです」… その言葉には本当に納得です。
特に印象に残ったのは、最初は自分で作り出した悲しみに浸っていた主人公が、ルイーズのおかげで両親の物語を再構成すると、今度は両親に対する愛情ゆえに口をつぐみ、両親を守る立場となったこと。そしてありのままの自分を受け入れられるようになるのですね。自分自身を知り、家族を知ることは、やはり基本だし大切なのだと実感。しかし他人の悩みを聞き、その悩みから解放する精神分析医という仕事をしながらも、自分の悩みから解放されるにはこのようにして「書く」という行為が必要だったのでしょうか。そう思うととても興味深いものがあります。
これはフランスの「高校生の選ぶゴンクール賞」を2004年に受賞した作品。こういう作品を読むと、ゴンクール賞を追いかけてみたくなりますね。こういった作品に高校生で出会い、そしてその価値を理解できるというのはとても素晴らしいですし、羨ましいことです。

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