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このページは、ジュリアン・グラックの本の感想のページです。

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「シルトの岸辺」ちくま文庫(2007年4月読了)★★★★

オルセンナ共和国でも最も古い家系の1つに属しているアルドーは、オルセンナの都での退廃的な暮らしを楽しむ青年。しかしそんなある日、1人の女性が自分から去って行ったのをきっかけに、それまでの自分の行き方がどうしようもなく空疎に感じられるようになり、都を離れる決意を固めます。そしてシルト海に配置されている遊撃艦隊に監察将校として赴任することに。オルセンナは300年も前から海を隔てたファルゲスタンと戦争状態にあり、シルトはその前線。しかし今やオルセンナもファルゲスタンも衰微し、実際の戦闘活動が行われることもなく、シルトの前線も名目上の残骸と化していました。(「LE RIVAGE DES SYRTES」安藤元雄訳)

架空の国オルセンナを舞台にした作品。ジュリアン・グラックがゴンクール賞受賞を辞退したことで有名な作品なのだそうです。ぎらぎらと照りつける太陽、凄まじい風、乾燥した植物に乏しい土地、点在する農家の白い壁といったシルトの広がりが、色彩に溢れている退廃的な都とは対照的。そこに漂うのは荒涼感と陰鬱な喪失感。
もしアルドーがシルトに行かなければ、そのまま何十年という月日が過ぎ去ったのでしょうね。しかしアルドーはシルトに行き、ファルゲスタンとの危うい均衡を破ってしまいます。それは紛れもなく、アルドーの行動によるもの。しかしそれがアルドー自身の意志だったとは、どうしても思えないのです。そこには大いなる意志の介在を感じます。あたかも「歴史」そのものがアルドーをシルトへと行かせ、アルドブランディの姫君・ヴァネッサと再会させ、時間を再び動かし始めたような… アルドーもヴァネッサも、シルトにいるマリノ大佐やロベルト、ファブリツィオ、ジョヴァンニといった副官たちも皆、単なる歯車、もしくはチェスの駒のような印象。…結局、時間を動かし始めたのは「歴史」そのものではなかったのですが。
とても格調高い雰囲気が漂う作品。この世界に入り込むまでには時間がかかりましたし、一瞬たりとも気を抜くことを許さない文章で、読むのがとても大変でした。私には少し難しかったです。が、奇妙な魅力を持った作品でもありました。場面場面がくっきりと印象的に残っていますし、時間が経ってもこの印象が薄れることはなさそうです。おそらく、読み込むほどに、深く魅力を感じられる作品なのでしょうね。

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