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このページは、レオノール・フィニの本の感想のページです。

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「夢先案内猫」工作舎(2009年6月読了)★★★★

夜中の11時にRに到着した「私」は、そのままホテルへ。翌朝、「私」はカスパール氏に連れられて行った集会場所で、褐色と黒色の斑模様の毛の長い大きな猫に出会います。膝の上に飛び乗った猫は、しばらくすると離れ、10メートルほど行ったところで立ち止まってこちらを振り返り、地面に3度でんぐり返しをしたのです。以前から不意をつかれる動作、特に動物の示す思いがけない動作には重要な意味があると考えていた「私」は、その日の7時の汽車に乗ることにしていたにも関わらず、ホテルに滞在し続けることに。(L'ONEIROPOMPE」北嶋廣敏訳)

ブエノスアイレスでイタリア人の母とアルゼンチン人の父との間に生まれたレオノール・フィニは、アルゼンチン人のシュールレアリスムの画家。映画や舞台の衣装も手がけているようですし、デザインしたスキャパレッリの香水瓶は大人気だったとか。小説も、この作品の他に、「ヴィブリサ物語」「ムール・ムール」「ロゴメレック」という3つの作品があるのだそう。「ヴィヴリサ物語」も「ムール・ムール」も猫の物語で、レオノール・フィニ自身、好んで猫の絵を描き、一時期は23匹の猫と一緒に住んでいたこともあるとのこと。相当の猫好きさんだったようですね。彼女にとって猫とは、「人格」を備えたもう1人の人間のような親密な存在だったのだそうです。
そしてこの物語も、猫の物語。「私」の前に現れた黒と褐色の大きな猫は、「私は夢先案内人(オネイロポンプ)だ」と名乗り、ホテルの中庭にある玄武岩でできた顔像を盗むようにと「私」に指示します。猫が現れる前から現実と幻想が入り混じり始めていた物語は、ここではっきりと幻想へと一歩踏み出すことに。これは夜見る夢の世界なのでしょうか。それとも白昼夢なのでしょうか。汽車の中で出会った不思議な年齢不詳の婦人、彼女に誘われて訪れたマルカデ街の「潜水夫」館、ヴェスペルティリアという名前との再会。猫と一緒に訪れた、パリでも老朽化した界隈にあるとある家…。スフィンクスと猫というのは彼女の絵において重要なモチーフだったようですが、この作品でもスフィンクスが登場します。
この中ではやはり美術館となっている家での場面が圧巻ですし、強く印象に残りますね。アントネロ・ダ・メッシナ、ロレンツォ・ロット(聖母と聖者たち)、ジュリオ・ロマーノ(聖家族)、ジャコポ・ダ・ポントルモ、フィリッポ・リッピ、ティントレット、ヴェロネーゼ、フラゴナール(音楽の練習)、18世紀の中堅画家たち、ゴヤ、マネ(猫の逢引)、シャルダン(魚+覃(えい)と猫と台所道具)、ジェリコー、ボルディニ、スタンラン、ゴットフリート・ミント、ルノアール、ルソー(伝ピエール・ロティ像)、グロ男爵、ギュスタヴ・ドレ、レプリ、サロモン・マイヤー(奇妙な中身)、レオノール・フィニ(幸福な雌猫)、ヴィルヘルム・ブッシュ(信心深いヘレーヌ)、ピカソ、ベアトリクス・ポター、ボナールといった画家たちの絵画の中の猫が、黒と褐色の猫の嗄れた叫び声と長々とした「にゃーお」によって、一斉に動き始めるのです。これは実に見てみたくて堪らなくなる場面。
不思議な幻想物語。きちんと理解したとは言いがたいですが、レオノーラ・フィニの描く猫の絵を眺めながらこのシュールな物語を読んでいると、頭の中で1つの世界が見る見るうちに構築されていくのが感じられるようで、それもとても素敵でした。

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