Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、レナーテ・ドレスタインの本の感想のページです。

line
「石のハート」新潮クレスト・ブックス(2009年3月読了)★★★★

イダが生まれた時、エレンは既に4人きょうだいでした。長女のビリーことシビレ、長男のケスター、次女のエレン、そして赤ん坊の時にイギリスのチャールズ皇太子に似ていたせいでカルロスと呼ばれているミヒール・アドリアーン。母のマルヒェは、自分が1人っ子の家庭に育って嫌な思いをしていたので、笑いと喧騒にあふれた家を幸せな家庭としてイメージして子供を6人欲しがっていたのです。両親がアメリカに関する文献を専門に切り抜き資料として保存するファン・ベメル事務所をしていたために家中が天井まで届く資料棚と黄ばんだ紙の臭いで溢れかえり、家の中は賑やかさに包まれていました。しかし生まれたイダに吐き癖があり、1日中むずかって泣き叫び、母もイダにミルクを飲ませられないほど衰弱していたため、徐々に「幸せな家庭」の歯車が狂い始めます。(「EEN HART VAN STEEN」長山さき訳)

絵に描いたような幸せな家庭を襲う悲劇。物語が始まった時から、何とも言いようのない緊張感をはらんでおり、その予感通りに暗い方向へと突き進んでいきます。しかしその核心が何なのか正体をなかなか見せないままに、エレンが12歳だった頃の物語と約30年後の現在の物語が交互に進んでいくのです。30年後のエレンは解剖医。タイスという夫がいたにもかかわらず、そして妊娠中にもかかわらず、離婚しており、かつて自分が少女の頃に住んでいた家に戻ってきています。現在のエレンと過去のエレン、そして現れるビリーやケスター。過去に何が起きたのか徐々に分かり始めます。
家族の中で一番利発だったエレン。難しい言葉を使うのが大好きで、時には生意気としか思えない発言をする彼女ですが、それでも彼女は若干12歳の少女。それが切ないですね。12歳の少女がこれほどまでの衝撃を否応なく直視させられるとは。いくら利発な彼女ではあっても、これは大きすぎる衝撃。しかもその後の人生。ある意味ビリーやケスター以上に死んでいたとも言えるかも知れませんね。そしてエレンがこの出来事の真の原因を知った時。現代の読者が読めばマタニティ・ブルーという言葉が自然に浮かんできますが、彼女が初めてそのことを知った時の衝撃は想像して余りあります。今なら12歳の子供が家のことを他人に相談することもできますし、専門の場所もありますが、この頃は全然。おそらくこういった物語はそこかしこにあったのでしょう。
最後に彼女が自分のイデ=ソフィーの名前を託す場面がいいですね。ようやく救われた気がします。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.