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このページは、ダンテの本の感想のページです。

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「神曲」河出書房新社(2006年3月読了)★★★★

【地獄篇】…35歳のダンテは暗い森の中へと迷い込みます。森を出て丘を登ろうとして豹と獅子と牝狼に妨げられた時、ダンテを助けたのはウェルギリウス。彼はダンテを地獄に案内することに。天上にいるマリヤやベアトリーチェがダンテに同情し、ウェルギリウスにダンテを救って欲しいと言ったというのです。

地獄の門…「生前いずれの党派にも参加しなかった人々の亡霊」が蜂や虻に刺される
三途(アケロン)の川・地獄の渡し守カロン
第1の圏谷…「辺獄(リンボ)」善良だがキリスト教の洗礼を受けなかった者の場所
第2の圏谷の入り口…ミノスが罪に応じて魂をそれぞれの谷へ落としている
第2の圏谷…肉欲の罪を犯した者が地獄のひょう(風+炎)風におやみなく煽られて吹きまわされている
第3の圏谷…生前大食らいであった連中が、冷たい雨に打たれ、ケルベロスに喰いちぎられている
第4の圏谷…欲張りの群と浪費家の群が、円周上の道を重たい荷物を転がしながら罵り合っている
第5の圏谷…憤怒に敗れた者たちが泥まみれで殴り合い、蹴り合い、噛み付き合っている
ステュクスの沼・沼の船頭プレギュアス
ディースの市(まち)…ここからが地獄の下層界
第6の圏谷…異教異端の徒が、派ごとに埋められて焼かれている
第7の圏谷…暴力を用いた者たちが3つの円に分けられている
  第1の円…他人に暴力を加えた者が赤い血の川で熱湯責めにされている
  第2の円…自殺者がひね曲がった樹となり、財産を蕩尽した者は黒い牝犬に噛みつかれている
  第3の円…神と自然と技法に叛いた者が火の雪を浴びて罰せられている
第8の圏谷…10の悪の濠(マレポルジェ)に分かれている
  第1の濠…女衒…角を生やした鬼たちに大きな鞭で引っぱたかれる
  第2の濠…阿鼻追従…糞尿の中に漬けられている
  第3の濠…聖職売買…穴の中に頭から突っ込まれ、両脚が燃えている
  第4の濠…魔術魔法…胴の上に頭を後前につけられている
  第5の濠…汚職収賄…煮えたぎる瀝青(チャン)の中に漬けられている
  第6の濠…偽善…鉛の重たい外套を着せられている
  第7の濠…窃盗…素裸で毒蛇に咬まれ、燃え上がって灰となっては元の姿に戻る
  第8の濠…権謀術数…炎にくるまれて焼かれている
  第9の濠…分裂分派…一刀両断されている
  第10の濠…虚偽偽造…様々な病気に苦しんでいる
第9の圏谷…氷の国コキュトス 4つの円に分かれている
  第1の円…カインの国カイーナ…肉親を裏切った者たちが堕ちる
  第2の円…アンテノーラ…味方を裏切った者
  第3の円…トロメーア…客人を裏切って殺した者
  第4の円…ユダの国ジュデッカ…恩人を裏切った者
中心には悪魔大王が幽閉され、3つの口でイスカリオテのユダ、ブルトゥス、カシウスを噛み砕いている

【煉獄篇】…地獄から煉獄への島の澄み切った大気の中に出たダンテ。そこにいたのは煉獄の番人カトーでした。ここでは人々がカトーの監視下で罪を清めているのです。ダンテは、丁度そこに到着した魂たちと共に煉獄の山の斜面を登り始めます。煉獄の門に辿り着き、天使に向かって門を開けて欲しいと乞うダンテに対し、天使は7つの大罪を意味する7つの「P」の字をダンテの額に刻み込みます。煉獄の中は7層の環道となっており、1つの環道を通り過ぎるごとにダンテの額の「P」の字は1つずつ天使によって消し去られ、ダンテの身体は軽くなっていきます。

第1の台地…破門者・自堕落な者
煉獄の門
第1の環道…高慢の罪…重い岩を背負い、腰を曲げた人々
第2の環道…嫉妬羨望の罪…瞼を針金で縫い付けられた人々
第3の環道…怒りの罪…暗い煙の中を歩く人々
第4の環道…怠惰の罪…善き願いと正しき愛に鞭打たれて疾駆する人々
第5の環道…貪欲の罪…涙を流して罪を悔いる人々
第6の環道…大食の罪…決して食べてはならない果を前に骨と皮になった人々
第7の環道…好色の罪…猛火の中で浄められている人々
地上楽園・悪に染まった記憶を忘却させるレテ川・善を想起させるエウノエ川

【天国篇】…地上楽園に辿り着き、ベアトリーチェに再会したダンテは清新な姿になって天国へ。天国は10の天に分かれており、ダンテはベアトリーチェに導かれながら1つずつ天を昇っていきます。

第1の天…月光天…誓願の契りを欠いた者
第2の天…水星天…後世に名や誉れを遺そうとして生前進んで活躍し善行を働いた人々
第3の天…金星天…愛の擒となった人々
第4の天…太陽天…賢人たち
第5の天…火星天…信仰のために闘って死んだ者
第6の天…木星天…栄光に輝く賢王の魂
第7の天…土星天…観想の生活のうちに一生を送った人々
ヤコブの梯子
第8の天…恒星天…聖ピエトロ(信仰)、ヤコブ(希望)、伝道者ヨハネ(愛)、アダム
第9の天…原動天…九つの火輪
  第1の位階…熾天使、智天使、玉座の天使
  第2の位階…統治、権威、権力の天使
  第3の位階…主権、大天使、天使
第10の天…至高天…天使の群、祝福された人の群

【詩篇】…ダンテとその周辺の詩人たちの作品が、サン・フランチェスコやリナルド・アクイーノなどの宗教感情と関係する作品、プロヴァンスの詩人・アルナウト・ダニエルの作品、「清新体」の一連の詩人たちの作品(ダンテを含む)、「清新体」とは体を異にする同時代の詩人たち、「神曲」に触発された詩人としてヴィクトリア朝の詩人テニスンの作品、と5つの群に分けられて紹介されています。 (「LA DIVINA COMMEDIA」平川祐弘訳)

13世紀から14世紀にかけて生きたイタリアの詩人・ダンテによる叙事詩。「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の3部から構成されており、ダンテは地獄と煉獄ではウェルギリウスに先導され、天国ではベアトリーチェに案内されて昇っていきます。通して読んでみて一番面白かったのが「地獄篇」。そして「煉獄篇」。「天国篇」は、キリスト教の教義に関する問答が中心となることもあり、あまり魅力を感じませんでした。しかも地獄や煉獄を案内するウェルギリウスが終始ダンテに丁重だったのに比べ、天国を案内するベアトリーチェは終始偉そうで、あまり印象が良くなかったです。
まだ生きている人間に祈ってもらえれば罪が軽減され、煉獄では早く上に登ることができるというところから、死者の魂たちは我先にとダンテに生者への伝言を頼みますし、気軽にダンテに色々なことを話します。そのようにして、ダンテが様々な人々の物語を聞く機会を自然に作っているのが上手いですね。ダンテがフィレンツェの街に関する予言を、様々な人間に語らせているのも興味深いところ。ダンテは様々な人々を地獄に堕としていますが、当時フィレンツェでの政界でダンテと敵対していた人々が多く含まれているようです。
しかし驚いたのは、ホメロスやホラティウス、オウィディウス、ルカヌスといった古代ギリシャの詩人たち、へクトルやアエネアス、カエサルといった歴史上著名な人物たち、アリストテレス、ソクラテス、プラトンといったギリシャの哲学者たちが、洗礼を受けなかったからという理由だけで「辺獄(リンボ)」に堕とされ、しかもなかなか救われる見込みはないという部分。しかも彼らだけではなく、アダムやアベル、ノアやモーセ、ダビデ、ラケルといった旧約聖書における重要な面々ですら、かつてはこの「辺獄」にいたというのです。洗礼を受けなければ天国には行けないというのは前から聞いていましたが、それほどまでだったとは。洗礼という儀式は、バプテスマのヨハネが行ったのが最初だったのでしょうか。となると、旧約聖書に出てくる人々は誰1人洗礼を受けていないことになりますし、神その人が定めた儀式ではないことになるのですが… そしてこれらのイスラエルの人々はキリストが天国に連れて行ったようですが、古代ギリシャなどの偉人たちはそのまま。彼らはどうなるのでしょう。キリスト教者としての驕りを感じてしまいますね。しかしダンテ自身そのことについては疑問を持っていたようで、天国を巡っている時に木星天で鷲にたずねることになります。
全体の中で一番印象に残ったのは、夫の弟と恋におちて地獄の第二圏にいる、ラヴェンナのフランチェスカ。ランスロットの恋物語の書物を読んでるときに恋に落ちた2人。「その日私たちはその先を読みませんでした」というのが素敵でした。原書では「Amor condusse noi ad una morte.」となっており、「una morte」という言葉の中に「amor」が隠されているのだとか…。
地獄で番人の役割を果たしているのは、主にミノス、ケルベロス、プルートン、メドゥーサ、ケンタウロスなどのギリシャ神話に登場する怪物たち。西洋の文学にギリシャ神話が多く登場するのは他の文学作品でも同様なのですが、よくよく考えてみると、一神教のキリスト教にとって多神教のギリシャ神話は異教のはず。その辺り、当時の人々はどのように考えていたのでしょうね。信仰の対象ではなく、芸術作品などのモチーフに使う限り、教会としては構わなかったのでしょうか。そして悪魔大王と言われるルシファーは最下層で氷漬けになっています。キリスト教における「悪」は、とにかく悪魔の誘惑が第1と考えられていると思っていたのですが、誘惑するべき存在の筆頭である悪魔大王は氷漬けですし、となると他の悪魔もそれほど自由が利く存在ではなさそう。個人個人の罪はそれぞれの責任ということで、悪魔の誘惑ではなかったのとも考えられるのが興味深いところです。

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