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このページは、J.M.クッツェーの本の感想のページです。

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「恥辱」ハヤカワepi文庫(2008年3月読了)★★★

デヴィッド・ラウリーは、2度の離婚歴のある52歳の大学教授。性的欲望はかなり強いものの、これまではその欲望をかなり上手く処理してきたつもり。しかし週に1度<ウィンザー館>で会っていたソラヤと会えなくなり、それがきっかけで大学の教え子である20歳のメラニー・アイザックスに強烈に惹かれたことから、様々なことが変わり始めます。メラニーにはたちの悪いボーイフレンドがいたのです。デヴィッドはセクハラで告発され、追われるように大学を去ることに。そして娘のルーシーが経営する農園に身を寄せることになるのですが…。(「DISGRACE」鴻巣友季子訳)

ノーベル文学賞作家・クッツェーの、史上初となる2度目のブッカー賞受賞という作品。
性欲の強い52歳の教授がセクハラで訴えられ、結局は大学を追われて名誉も失い、しかし娘の経営する農園でも新たな問題に直面させあられるという物語。
大学での事件と農園での事件は一見全く別物のように見えるのですが、結局のところ、どちらも強者と弱者の関係ということなのでしょうね。大学では強者として存在していたラウリーも、娘の農園では弱者。そして舞台である南アフリカの中でも、白人である彼は実は弱者であり、大学がいかに限られた世界であったかを実感させられます。大学の査問会で下手な言い訳をせず、自分の行動に自信を持っているところまでは、彼らしい生き方をしていると言えます。しかしその「大学」という白人社会の砦の外は、アパルトヘイト撤廃後の南アフリカなのです。彼は大学教授といういわゆる高尚な仕事を辞めた結果、犬の安楽死というとても高尚とは言えない仕事を手伝うことになり、結局、自分が徐々に黒人社会に隷属させられている自分に気づき、彼の好みの「若くて美しい女」との関係とはまるで違う価値感の幸福を手に入れることになるのですから。
淡々と書いているようで、意外と濃厚な作品。南アフリカという土地だからこそ生まれてきた作品なのでしょうね。とても興味深いです。

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