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このページは、セルジュ・ブリュソロの本の感想のページです。

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「ペギー・スー-i 魔法の瞳をもつ少女」角川文庫(2005年8月読了)★★

世界中でただ1人、<見えざる者>の姿が見えるペギー・スー・フェアウェイ。6歳になったばかりの頃、ママに連れられて行った眼鏡屋で、宇宙の果てから着たアゼナという名の赤い髪の女性に、<見えざる者>たちに立ち向かわなければならないことを告げられたのです。ペギー・スーには体を守る強い魔法がかけられていましたが、しかし<見えざる者>たちはぞっとするほど意地悪。ペギー・スーがやりたくないことを次々とやらせ、変人として周囲から孤立させていました。<見えざる者>たちは自分たちの悪事の唯一の目撃者であるペギー・スーを憎んでいたのです。そのため、ペギー・スーは今まで友達ができず、学校を退学となり、町から町へと転々としている状態。そんなある日、ペギー・スーと姉のジュリア、そしてママの乗ったキャンピングカーは、ポイント・ブラフという小さな町でパンクし、そこにしばらく滞在することになります。ペギー・スーも新しい中学校に通うことに。そしては生まれて初めて友達ができます。しかしある朝、空に青い太陽が現れたのです。そしてその光を浴びた親友のソニア・ルーインが、たちまちのうちに天才となるのですが…。(「PEGGY SUE ET LES FANToMES-LE JOUR DU CIEN BLEU」金子ゆき子訳)

セルジュ・ブリュソロはフランスのスティーブン・キングとも言われるほどの人気作家で、この作品はその初めての子供向けファンタジーなのだそう。このペギー・スーは、「ハリー・ポッターの妹」とも言われているのだとか。しかしさすがスティーブン・キングと称されるだけあって、児童書でありながらもかなりブラック。そしてホラー。<見えざる者>と呼ばれるお化けたちは悪意に満ちた存在で、ペギー・スーへの仕打ちは非常に残酷ですし、ポイント・ブラフでのやり口もあまりに悪意に溢れていて、そのあまりの凄まじさに逆に戸惑ってしまうほど。畳み掛けるような展開は面白いのですが、これほど簡単に人を殺してしまっていいのでしょうか。しかもこのような方法で。普通なら少し躊躇うところを、このブリュソロは軽々と超えてしまったようです。
<見えざる者>との対決だったはずの物語が、いつの間にか青い犬の率いる動物たちとの戦いに摩り替わってしまったようですし、ソファや靴の問題はどうなったのでしょう。<見えざる者>が、そこまでペギー・スーを目の仇にするのかという理由付けにも、もっと説得力が欲しかった気がします。
しかしこの作品では本質的な意味での味方がいないペギー・スーなのですが、物語の最後に今後強力な味方になってくれそうな存在が出現します。2巻目以降の方が、ブラックな中にも救いができて、楽しい展開となりそうですね。


「ペギー・スー-ii 蜃気楼の国へ飛ぶ」角川文庫(2005年11月読了)★★★★

ある晩のこと、ペギー・スーのパパが青ざめた顔で帰宅します。建設中の高層ビルのてっぺんで大工として仕事をしている時に、何者かに突き落とされそうになったというのです。それは<見えざる者>の仕業。パパはどうしても仕事に戻れなくなってしまい、結局失業してしまいます。そして次に見つけた仕事は、遠く離れた砂漠のはずれにある使われていない飛行場を警備する仕事。一家は早速出発します。しかし砂漠に着いた途端、青い犬は、そこら中に目に見えない子供たちがいて泣き声を立てていると言い、色褪せた大きなソンブレロをかぶったパコという名の老人は、ここの砂漠の蜃気楼は他所のものとは違ってとても危険なのだと説明します。ここの蜃気楼は人が近づいても消えず、それどころか徐々に本物になって様々な世界に通じるドアとなり、今までにも多くの人々がその蜃気楼に足を踏み入れたまま帰ってこなくなったというのです。(「PEGGY SUE ET LES FANToMES-LE SOMMEIL DU DEMON」金子ゆき子訳)

ペギー・スーシリーズの2作目。
1巻を読了した時に予想した通り、2巻の方がずっと面白かったです。1巻で出会った青い犬はすっかりペギー・スーの家族の一員となっており、危険な状況を察知し、できるだけペギー・スーを守ってくれようとする頼もしい存在となっていますし、今回は蜃気楼の国から逃げてきたものの元の生活には戻れないでいるセバスチャンも仲間入り。
恐ろしい恐ろしいと散々脅かされた蜃気楼の国は、一見子供の楽園。まず蜃気楼へ行く飛行機の中は非常に広くて、歩いても歩いても通路の端に辿り着けないほど。希望の食べ物は優しいスチュワーデスがすぐに持ってきてくれますし、飛行機の中にはイルカのいるプールや、ポニーに乗れる草原があります。そして着いた蜃気楼では、雲の上でスキーができますし、通りに立ち並ぶケーキ屋ではケーキやキャンディが無料で配られ、ペギー・スーのいる<夢のベルト地帯>では魔法の丸薬を飲んだり生きた衣装を着てみるだけで、希望の姿になれるのです。しかしペギー・スーも早速鳥の姿になって空を飛ぶものの、突然衣装の羽毛が抜け、縫い目がはじけて、あやうく墜落しそうになるのですが…。その上、眠れる悪魔の庭園の怖いことといったら。恐ろしい庭師から逃れようと、野菜や果物の汁を身体に塗りつけていたら、その野菜や果物に魔法がかかっていて、自分も野菜や果物に変身してしまいそうになったり、果物が我慢できないぐらい美味しそうなお菓子の香りを漂わせて誘惑してきたり、さらにはお菓子に変身してしまった仲間を食べたくて仕方がなくなったり…!(これは結構凄いです)
しかし今回はペギー・スーに仲間が出来たのが嬉しいですね。悪魔の庭園であやうく仲間を食べてしまいそうになるところなど、相変わらずブラックな部分はあるのですが、それでも1巻と比べてブラック味がかなり緩和されており、ほっとしました。数々の誘惑に負けそうになりながら、仲間と一緒に頑張るペギー・スーの姿がとても良かったです。1巻とは段違いの畳み掛けるような展開に引き込まれて、一気に読み終えてしまいました。


「ペギー・スー-iii 幸福を運ぶ魔法の蝶」角川文庫(2006年1月読了)★★★

夏休み。ペギー・スーは<シャカ・カンダレク>に住むケイティーおばあちゃんの元へと行くことになります。ケイティーおばあちゃんはペギー・スーのママのママ。しかしママがおばあちゃんを怖がっているため、行き来は全くなく、ペギー・スーも今までおばあちゃんのことを全然知りませんでした。始めはケイティーおばあちゃんのところになど行きたくないと思うペギー・スーでしたが、ママもパパも姉のジュリアも、ペギー・スーが怪奇現象を引き起こしていることに気づき始めており、魔女みたいなケイティーおばあちゃんがペギー・スーの助けになってくれるかもしれないと説得されて、ついに折れることに。(「PEGGY SUE ET LES FANToMES-LE PAPILLON DES ABIMES」金子ゆき子訳)

ペギー・スーシリーズの3作目。
ケイティーおばあちゃんの住む<シャカ・カンダレク>では、雷が並外れて多いため避雷針代わりのリンゴの木が植えてあり、そのリンゴの実には雷が蓄積されています。雷を避けるため、金属製品は何1つありません。皆疲れを知らない体になる魔法のマントを羽織っており、ストレスを白い猫に吸い取ってもらう生活。そして村人たちは皆競って幸福を運んでくる蝶の影に入とうとするため、家には車輪が付けられており、車のように運転することができます。白い猫をひたすら撫で、大きな蝶の影に競って入ろうとする<シャカ・カンダレク>人々の姿は、まるで麻薬中毒患者のようで薄気味悪いです。
相変わらずの波乱万丈ぶりの冒険物語。今回はペギー・スーのおばあちゃんが住んでいる場所が、魔女の村のようなところということで、魔法が当然のように存在しています。これまでは、同じように魔法が使われる状況でも、それはあくまでも「非日常」だったはずなのに、今回は随分と違うのですね。そのせいか、これまでよりも随分と子供っぽいファンタジーのように感じられてしまったのが残念。雲の上の場面や地底に降りていく場面などは、それぞれとても魅力的だったのですが…。<シャカ・カンダレク>が、少し変わっているだけの普通の田舎町という設定なら、もっと楽しめたのではないでしょうか。
お化けとの決着もあるのですが、シーン・ドガーティーのこともありますし、セバスチャンとの決着も着いていません。ペギー・スーの冒険は、まだまだ続くのでしょうね。


「ペギー・スー-iv 魔法にかけられた動物園」角川文庫(2006年7月読了)★★★★★

ケイティーおばあちゃんと青い犬、そしてセバスチャンの砂と共に、アクアリアへ向かったペギー・スー。ケイティーおばあちゃんはアクアリアで店を借りて<落ち着き猫>を貸し、ペギー・スーはそこでクッキーやブラウニーを売るという計画。しかもアクアリアの湖の水は世界一綺麗と評判の水。セバスチャンが乾くたびに湖で一泳ぎできるという素晴らしい利点があったのです。しかし途中ホテルの部屋に出た小さな蛇に嫌な予感を覚え、ホテルの外の幽霊や居留地に集められた狼男たちに警告され…。ようやく到着したアクアリアの街は、ケイティーおばあちゃんが2年前に来た時とはまるで変わっていました。呼び物の動物園にいる宇宙クジラや宇宙蛇、そしてドラゴンが暴れまわっていたのです。(「PEGGY SUE ET LES FANToMES-LE ZOO ENSORCELE」金子ゆき子訳)

<見えざる者>との戦いも決着して、ペギー・スーの冒険もこれで終わりかと思いきや、本国フランスでセルジュ・ブリュソロの元に熱心なファンレターが山のように届き、結局ペギー・スーの冒険が続けられることになったようです。
1巻の頃とは魔法の扱いもかなり変わり、<シャカ・カンダレク>だけでなく他の街でも魔法が当然のように存在することになったのですね。冒頭でペギー・スーが泊まっていたホテルでも、宛名を書いて待つだけで、完璧に同じ筆跡で続きの文章が浮かび出てくるという「観光客を面白がらせるためだけの素朴な魔法」が登場していますし、狼男居留地などというものも近くにあります。設定が徐々に変わっているのは妙なところではあるのですが、逆に物語としてはこの方がずっと面白くなっていますね。<見えざる者>がいない分、これまで気になっていたブラックな部分も和らいでいるように感じられましたし、今回は地球外生物の登場もあり、なかなかのスケールの大きな作品となっています。ペギー・スーと青い犬、ケイティーおばあちゃん、セバスチャンの4人のチームワークも抜群です。宇宙クジラや宇宙蛇、宇宙ドラゴン、そしてドラゴンの炎や灰色人間、アクアリアの街に積み重なった石の存在などの設定もとても良く出来ていて、面白かったです。


「ペギー・スー-v 黒い城の恐ろしい謎」角川文庫(2006年7月読了)★★★

ペギー・スーと青い犬、ケイティーおばあちゃん、そしてセバスチャンはイザングランへ。ここにはケイティーおばあちゃんの知り合いの、目の治療を専門としていた魔女が住んでいて、ペギーの極度の近視を治療してくれることになったのです。しかしイザングランへ向かう列車の中で、ペギーは黒い城の悪夢を、そしてセバスチャンは自分の砂の呪いを解いてくれる魔法使いの連絡先を探すために、呪われた本屋に行く夢をみます。しかもケイティーおばあちゃんによると、呪われた本屋はイザングランに実在しているらしいのです。イザングランに到着したペギーは早速目を治してもらい、みんなでセバスチャンが夢に見た呪われた本屋へ。そこで4人は本の群れに襲われることに。しかもなんと本の中から活字がどんどん逃げ出して…。(「PEGGY SUE ET LES FANTOMES-LE CHATEAU NOIR」金子ゆき子訳)

ペギー・スーシリーズの5作目。
前巻にも負けず劣らずの奇想天外な展開。特に呪われた本屋の存在が面白いですね。本が人間の指を噛み切ろうとするところなどは、まるで「ハリー・ポッター」に登場する本のようで、どちらが先なのかは気になります。この本屋の場面も黒い城の場面も緊迫感たっぷりです。ピンクの肉が増殖し、人間の手に見える葉っぱが沢山ついている木なども、かなり不気味ですね。
ただ、どんな病気でも治してくれるという<骸骨ドクター>の正体には少々拍子抜けでしたし、本屋の本の活字と黒い城がどのような関係になるのか楽しみだったのですが、その辺りに関しても正直期待外れでした。しかも最後はこの決着で本当にいいのでしょか。どうも納得できないのですが…。これで本当にセバスチャンの呪いは解けたのでしょうか。これではあまりに安易すぎる、都合の良すぎる理由のように思えます。

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