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このページは、パウル・ビーヘルの本の感想のページです。

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「夜物語」徳間書店(2008年9月読了)★★★

小人が住んでいたのは、古いかやぶき屋根のお屋敷の屋根裏に仕舞われているドール・ハウスの中。その屋敷には年をとったおばあさんが1人で暮らしており、小人はおばあさんのことが心配で、夜更けに火の後始末やガスの元栓が締まっているか見回りをするのが日課となっていました。そして小人とおばあさんの他にいたのは、地下室に住むドブネズミとヒキガエル。小人とドブネズミとヒキガエルは毎週土曜日になるとトランプ遊びをする習慣なのです。秋も深まったある晩、小人の家のドアを叩いていたのは、嵐に打たれてずぶ濡れになり羽もぼろぼろになった1人の妖精でした。小人は妖精の魔法が怖いながらも、一晩だけ妖精を家に泊めることになります。そして妖精の語る物語を聞いた小人は、その話にすっかり夢中になってしまうのですが…。(「NACHTVERHAAL」野坂悦子訳)

オランダの最も優れた子供の本に贈られるという「金の石筆賞」を受賞した作品。
永遠の命を持ち死ぬことのできない妖精。緑色のお城で毎日を楽しく暮らしていたはずの妖精が、マルハナバチの死に立ち会ったことで、妖精に足りない「死」や「子孫」の存在に気付き、「子孫」とその後に訪れるはずの「死」を求めて旅をする物語。そしてその物語を毎晩小人が聞くという「千夜一夜物語」のような枠物語です。
妖精の語る物語は、小鬼やエルフ、巨人の出てくる冒険物語。「生」と「死」の本質も分からない者同士の間で、能天気なほどあっけらかんと「結婚」「子孫」「死」という言葉が繰り返されます。もちろんその能天気さは演出だと思うのですが、その会話が私には少しつらく、しかも小人ほど妖精の語る冒険話に夢中になれなかったため、途中で少し中だるみしてしまいました。それに「物語が進むにつれ、『エルフや小鬼、水の精や巨人の活躍する不思議な妖精の世界』と『小人の住むお屋敷の話』が、しだいにまざりあい…」という紹介で興味を持った本なのですが、その点に関しても期待したほどではなかったような気がします。確かに小人は妖精の話を聞くうちに、徐々にその情景が自分の回りに広がっているように感じ始めますし、妖精の物語が現実の出来事に連なっていくのですが、もっとファンタジックな、あるいはSFテイストな展開を期待してしまっていたので…。それでも最後は、妖精が「生」と「死」のことをしみじみと理解するように、読者の中にもしみじみと沁み込んでくるようなラストで、読後感は良かったですね。人生経験を既にある程度積んでいる大人の読者には物足りなく感じられても、子供の読者にはとても楽しめる作品でしょう。
ナーンジャ、カーンジャ、フキゲン・ジャーという3人の魔法使いの名前や、アルサーとナイサーというエルフの王子たち名前の訳が洒落ていていいですね。オランダ語は全く知らないのですが、元の言葉は何だったのだろうと興味津々になってしまいます。

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