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このページは、シラノ・ド・ベルジュラックの本の感想のページです。

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「日月両世界旅行記」岩波文庫(2006年4月読了)★★★

【月の諸国諸帝国】…身体のまわりに露を満たしたガラスびんを沢山くくりつけた「私」は、太陽の熱によって空高く上昇し、そのまま地上に降りていきます。しかし真っ直ぐ登って真っ直ぐ下りたはずなのに、「私」はいつの間にかカナダにいたのです。モンマニー総督の家に泊まることになった「私」は、空飛ぶ火の竜に見える機械を作り、それでもう一度月を目指します。
【太陽の諸国諸帝国】… トゥーロンの港に着き、「私」ことディルコナは友人のコリニャック氏の家へ。コリニャックの強い勧めで、「私」は月への旅行のことを本に書くことに。しかしその本のことが話題になると同時に、ディルコナは異端の魔法使い扱いされ、結局悪魔サタンとして逮捕されることに。しかし牢を脱走したディルコナはコリニャックらの助けで太陽へと行く機械を作ります。(「LES ETATES ET EMPIRES DE LA LUNE ET DU SOLEIL」)

エドモン・ロスタンの戯曲で有名なシラノ・ド・ベルジュラックの、17世紀に書かれたという著作。奇想天外なSF小説のはしりと言える作品で、月と太陽の世界へ旅する様子は、まるでガリヴァー旅行記のようでもあります。しかしどこか精神疾患的なものを感じさせるスウィフトと違い、こちらはおおらかで朗らかな雰囲気。主人公は、「ベルジュラック」のアナグラムである「ディルコナ」という人物です。
月には地上の楽園と4つ足で歩く人獣の国が、太陽には鳥の国と哲学の国があります。月にある地上の楽園とは、アダムとエバが追放されたエデンの園。2人が追放された今は、エノクやエリヤが住んでいるようです。知恵の木の木の実はディルコナ自身も味わうことになるのですが、皮を食べるとそれまでの知識を忘却してしまうので、本当の知識を得るためには果肉だけを食べなければならないという辺りが面白いですね。このディルコナは誤って皮ごと食べてしまうのですが、果肉も少したべたために、全くの無知になるのを免れています。そして4つ足で歩く人獣の国には魔神がいます。アグリッパやトリトハイム神父、ファウスト博士などが大魔術師扱いされるようになったのは、「ソクラテスの大魔神」が彼らに沢山の術法や自然の秘術を教えたからだとのこと。そして太陽に向かう時は、太陽の熱によって飢えや眠気に悩まされることがなかったこと、太陽の光によって体も移動のための小屋も透明になってしまったことなど、そちらでもなかなかの奇想天外ぶりを楽しませてくれます。当時のことにもっと詳しければ、古今東西の思想や最先端化学を引き合いに出した風刺的な文章をもっと楽しむことができたのでしょうね。特に教会の教えに対する風刺はかなりのものがありました。
エドモン・ロスタンが描くシラノは多芸多才でユーモアたっぷりですが、こちらのシラノも負けてはいません。むしろこちらのシラノの奔放な荒唐無稽ぶりの方が、見ている分には楽しめるかもしれません。

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