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このページは、アレッサンドロ・バリッコの本の感想のページです。

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「絹」白水uブックス(2008年11月読了)★★★★

19世紀末。父親の意向で軍人になろうとしていたエルヴェ・ジョンクールは、20年をかけて南仏の町・ラヴィルデューを養蚕の町にしたバルダビューに誘われて、蚕の卵の売買の仕事を始めることになります。しかしやがてヨーロッパの養蚕農家は蚕の疫病に悩まされるようになり、やがてその疫病はアフリカへも及ぶのです。蚕の卵が疫病に冒されていないのは、世界中で日本だけ。32歳のジョンクールは、最近まで鎖国をしていたという日本へと向かうことに。(「SETA」鈴木昭裕訳)

絹を生み出す蚕、そしてそれを巡る人々の物語。
まず「日本の読者へ」という序文があり、ここに描かれている日本は西洋人の空想の中に存在する日本だと書かれていました。日本人に読まれることを想定しないで書いたため、日本人にとってこの国は日本ではあり得ないかもしれないし、登場する日本語の名前に抵抗を感じるかもしれない、と。確かにここに描かれているのは、まるで西洋の映画に登場するようなエキゾティックな日本の姿。それでもハリウッド映画の「フジヤマ・ゲイシャ」の日本ではなく、もっとしっとりと静かな雰囲気なのです。私としては、逆にイタリア人の思い描く「幻想の日本」として楽しめました。
ただ、登場人物の1人に「ハラ・ケイ」などという人物がいると、妙に反応してしまいますね。バリッコは「ハラ・ケイ」という言葉の響きがとても気に入って使ったのだそうです。そこからも分かるように、感覚的なものをとても大切にした作品。おそらくイタリア語で音読した時に最も美しい響きとなるのでしょう。バリッコは作家であり音楽学者でもある人物だそうなので、彼にとってこの作品は、小説というよりも芸術に近いのかもしれません。しかし翻訳を通しているとはいえ、日本語で読んでも十分詩的。訳者あとがきに、作者が「物語がひとりでに透けて見えてくるようにしたかった」と語っていたというエピソードが紹介されていましたが、確かにとても光を感じる物語。それも太陽の光をそのまま仰ぎ見るのではなくて、ごくごく薄い絹の布ごしに感じる光。そんな文章で描かれた場面場面はとても幻想的です。特にハラケイの家を訪れたジョンクールが美しい女性に出会う場面。神秘的な美しさで、まるで夢の中の一場面のようです。


白水uブックス(2008年11月読了)★★★★★

トランペット吹きのティム・トゥーニーが汽船ヴァージニアン号に乗り込んだのは、1927年1月のこと。まず一等の金持ち連中のために、次に二等船客のために、そして時々貧しい移民連中のためにと、1日に3〜4回演奏する日々が始まります。そしてティム・トゥーニーが一員となったアトランティック・ジャズ・バンドの中にいたのが、ピアニストのダニー・ブードマン・T・D・レモン・ノヴェチェント。ノヴェチェントは、ヴァージニアン号に生まれ、その中で育った男。船がニューヨークに到着した時、一等船客用のダンス室のグランドピアノの上に段ボール箱に入れられて置き去りにされていたのです。生まれたのが1900年だったことから「ノヴェチェント」と呼ばれることになった赤ん坊は、やがて世界一のピアニストになることに…。(「NOVECENTO UN MONOLOGO」草皆伸子)

映画「海の上のピアニスト」の原作。
中心となるのはトランペッターのモノローグであり、彼が船の上で出会い、親しくなり、その境遇を知ることになったノヴェチェントについて語っていきます。モノローグの合間にト書きが書かれているので、まるで芝居の脚本を読んでいるような作品。
船で生まれた赤ん坊はそのまま船に置き去りにされ、船の上で成長し、船で出会う人々の目を通して世界中を知ることになります。そして8歳の時、育ての親だったダニー・ブードマンを失い船から降ろされそうになった時、素晴らしいピアニストとして再び誕生するのです。それからは誰にも弾くことのできないような音楽を弾きつづけることになります。決して船を下りようとは考えないノヴェチェントが、ただ一度船を下りようと考えたのは32歳の時。しかし陸地から海が見たいと言ったノヴェチェントの足は、タラップの3段目で止まってしまいます。この時のノヴェチェントの思いが後で明らかにされるのですが、これがとても「分かる」のです。そしてこの場面を読んだ時、ノヴェチェントの出すピアノの音がどんな音だったのかもとても分かるような気がしました。
映画化された作品ですが、作品を本として読んだ限りのイメージでは、フルカラーの綺麗な映像の映画よりも、もっとシンプルな舞台で観たいと思うような作品でした。映画で美しいピアノの音色を聴くのももちろんいいのですが、もっとシンプルな方がノヴェチェントの生涯が際立ちそうな気がします。

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