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このページは、アンデルセンの本の感想のページです。

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「アンデルセン童話集1」岩波少年文庫(2009年6月読了)★★★★

小さい赤ちゃんがひとり欲しいと思っていた女の人は、どこからもらってきたらいいのか分からず、魔法使いのおばあさんのところへ。魔法使いは女の人に大麦を一粒渡し、それを植木鉢に植えるように言います。たちまちのうちに美しい大きな花がはえてきて、チューリップそっくりの赤と黄の花が開くと、その中には緑色の腰掛があり、小さい女の子がちょこんと座っていました… という「おやゆび姫」他、全11編の童話集。(「EVENTYR OG HISTORIER」大畑末吉訳)

11編のうち、知っていた話は「おやゆび姫」「空とぶトランク」「皇帝の新しい着物(はだかの王さま)」「エンドウ豆の上のお姫さま」「みにくいアヒルの子」の5編。既に知っている物語でも絵本などで読んだものが多いので、きちんと読むのは今回が初めてです。
この中で特に気に入ったのは「パラダイスの園」。小さい頃におばあさまにパラダイスの園のお話を聞いて育った王子は、なぜイヴが知恵の木の実をもいだのか、なぜアダムは食べたのか、本当に不思議に思っているのですね。でも自分が実際にパラダイスの園に行くことになった時…。人間の愚かさと傲慢さをあらわにした物語です。人間の本質を描いているといえば、「モミの木」も同様。いつでも他者を羨み、自分もそうなりたいとそのことばかり考えているモミの木は、その時自分がどれほど恵まれた環境にあるのか、どれほど幸せなのかを知ることはありません。全てを失った時に初めて、そのことに気づくのです。その哀れさ切なさ。アンデルセン自身はほとんど無一物の状態で故郷を出て、しばしば幻滅や失望を味わいながらも粘り強く目標に向かって歩み続けたようですが、一般的な人間はこのモミの木に近いはず。ふと立ち止まって自分の持っているもの、恵まれている部分を考えてみようと語りかけられているようです。

収録:「おやゆび姫」「空とぶトランク」「皇帝の新しい着物」「パラダイスの園」「ソバ」「小クラウスと大クラウス」「エンドウ豆の上のお姫さま」「みにくいアヒルの子」「モミの木」「おとなりさん」「眠りの精のオーレさん」


「アンデルセン童話集2」岩波少年文庫(2009年6月読了)★★★★

ある小さな町の一番外れの家の屋根にコウノトリの巣がありました。巣の中では、コウノトリのお母さんが四羽のひなと一緒に座っており、お父さんは少し離れた屋根の棟にまっすぐかたくなって、張り番のように立っていました。下の通りで遊んでいた子供たちは、コウノトリを見つけるとみんなで一緒にコウノトリの古い歌を歌いだし、四羽のひなたちはその歌に怯えます… という「コウノトリ」他、全12編の童話集。(「EVENTYR OG HISTORIER」大畑末吉訳)

アンデルセン童話集第2巻。既読は「ブタ飼い王子」「パンをふんだ娘」「天使」「人魚姫」「ナイチンゲール」「野の白鳥」「マッチ売りの少女」の7編。
1巻でも「おやゆび姫」でも、太陽が明るく照り、綺麗な花が年中咲いている「あたたかな国」(エジプト)への憧れを感じましたが、こちらでも同様でした。「コウノトリ」でもコウノトリのひなたちが、あたたかなエジプトで暮らす日々のために飛ぶ練習をしていますし、「青銅のイノシシ」では「イタリアの月の光は、北欧の冬の曇り日ぐらいのあかるさがあります。いえ、もっとあかるいでしょう。なぜなら、ここでは空気までが光り、かるく上にのぼっていくからです。それにひきかえ、北欧ではつめたい灰色のナマリぶきの屋根がわたしたちを地面におさえつけます。いつかはわたしたちの棺をおさえつける、このつめたいしめっぽい土へおしつけるのです」という文章があります。やはり北欧の冬というのは、人々の心に重く垂れ込めるものなのでしょうか。そして1巻同様、こちらでも印象に残ったのは、天国の情景。アンデルセンは人一倍「死」を身近に感じていたのでしょうね。「パンをふんだ娘」も「青銅のイノシシ」も「天使」も「人魚姫」も、もちろん「マッチ売りの少女」も、その他にも死を強く意識させられる作品が多いことに驚かされました。貧しさと死。そしてあらゆる困難に負けない心の美しさ。そしてそれこそが、子供の頃の私にアンデルセンが苦手と思わせたものだったのでしょうね。今改めて読むと、とても暖かく美しい作品群だということに気づかされます。そして思いのほか、大人向けの物語だということも。
そしてこの本の訳者あとがきに、「大クラウスと小クラウス」「火打箱」といった作品はアンデルセンの創作ではなく、祖母から聞いた民話を元にしたものだという話が書かれていました。1巻を読んだ時に、あまりに雰囲気の違う「大クラウスと小クラウス」に違和感を感じたのですが、そういうことだったのですね。

収録:「コウノトリ」「ブタ飼い王子」「パンをふんだ娘」「青銅のイノシシ」「天使」「人魚姫」「ヒナギク」「ナイチンゲール」「野の白鳥」「マッチ売りの少女」「銀貨」「ある母親の物語」


「アンデルセン童話集3」岩波少年文庫(2009年6月読了)★★★★

あるところに、とてもきれいで可愛らしいカーレンという女の子がいました。家がとても貧しかったので、夏はいつもはだしで歩き回り、冬は大きな木靴をはいていました。そのため、小さな足のこうが真っ赤になって痛々しそうでした。田舎町の真ん中の靴屋のおばあさんは、カーレンのために赤い古い小ぎれで小さな靴を縫ってあげることに… という「赤いくつ」他全10編の童話集。(「EVENTYR OG HISTORIER」大畑末吉訳)

アンデルセン童話集第3巻。既読は「赤いくつ」「さやからとび出た五つのエンドウ豆」「雪の女王」の3編。
この中で一番長いのは「雪の女王」。これは全体の3分の1ほどを占めています。子供の頃読んだイメージでは、カイがゲルダのことを忘れてしまったのは雪の女王のせいだというイメージが強かったのですが、この本を読むとカイの心に鏡の破片が入り込むことになったこと、そもそもその鏡とは何だったのかというのも改めてよく分かります。そしてカイを探すためのゲルダの旅の色鮮やかで美しいこと。そして終盤、雪の女王の宮殿にたどり着く辺りの雪の情景の美しいこと。雪というイメージがアンデルセンの中でこれほど美しく花開いている作品は他にないかもしれないですね。これはアンデルセンの後期の作品なのではないか、とふと思ったのですがどうでしょう。

収録:「赤いくつ」「びんの首」「古い家」「鐘」「年の話」「さやからとび出た五つのエンドウ豆」「あの女はろくでなし」「ロウソク」「とうさんのすることはいつもよし」「雪の女王」


「絵のない絵本」新潮文庫(2009年6月読了)★★★★★お気に入り

とても貧しい絵描きの卵の「わたし」が住んでいるのは、大変狭い小路の1つに面した建物の狭い一室。光がさしてこないということはなく、高いところにある部屋からは、周りの屋根越しにずっと遠くの方まで見渡すことができました。しかしある晩、まだ友達もおらず、あいさつの声をかえてくれるような顔なじみもおらず、とても悲しい気持ちで窓のそばに立っていた「わたし」は、そこに良く知っている丸い懐かしい顔を発見します。それは昔ながらの月でした。月はまっすぐ「わたし」の部屋に差込み、これから外に出かけるときは毎晩「わたし」のところを覗きこむ約束をしてくれたのです。そして、わずかな時間ではあるものの、来るたびに空から見た色々なことを話してくれるようになります。(「BILLEDBOG UDEN BILLEDER」矢崎源九郎訳)

全部で33の月の物語。夏目漱石の「夢十夜」か稲垣足穂の「一千一秒物語」か、はたまた「千一夜物語」かといった具合で、月が自分の見た情景を語っていきます。月は毎晩のように「わたし」の部屋に来られるわけではないですし、来られたとしても、そこにいられるのは、ほんのわずかな時間だけ。なので1つ1つのお話はどれも2〜3ページと短いのです。しかしこれがなんと美しいのでしょう。
恋人の安否を占うためにインドのガンジス川で明かりを流す美しいインド娘のこと、11羽のひなどりと一緒に寝ているめんどりの周りで跳ね回っている綺麗な女の子のこと、16年ぶりに見かけたかつて美しい少女だった女性のこと… 様々な時代の様々な場所での出来事が語られていきます。その眼差しは、全てを静かに見守る母のような暖かさ。そして1つ1つの物語は短くても、その映像喚起力は抜群です。挿絵がなくても、どれも読むほどに目の前に鮮やかに情景が浮かんできます。読み進めるほどにさらに鮮やかな情景が夢のように浮かんできて、それらが一幅の美しい絵となっているかのよう。「絵のない絵本」という題名は素晴らしいですね。これは読者自身の想像力が最後の仕上げをする絵本とも言えそうです。
おそらくこの画家の卵は、アンデルセン自身なのでしょうね。訳者解説によると、この作品にはアンデルセン自身が様々な都市に滞在した時の情景が描き出されているのだそう。北欧生まれのアンデルセンは明るい南の国イタリアに憧れてやまなかったとのこと。童話集を読んだ時のイタリアへの憧憬は、やはり本物だったのですね。そしてこの中で特に印象に残ったのは、第16夜の道化役者の恋の物語。切なくて、でも暖かくて… しかしそのほかの物語もどれもそれぞれに素敵です。大切に読み続けていきたい本ですね。

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