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このページは、パトリシア・C・リーデの本の感想のページです。

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「囚われちゃったお姫さま-魔法の森1」創元ブックランド(2009年4月読了)★★★★★お気に入り

モーニング山脈の真東にある大きな王国・リンダーウォールの7番目の姫・シモリーンはお姫さまらしくないお姫さま。上の6人は金色の長い髪にやさしい性格で、下にいくほど美しいのに、シモリーンは髪の毛は真っ黒で、いつも三つ編みのおさげ。しかも背も高いのです。お姫様としてのたしなみのレッスンがつまらなくて仕方のないシモリーンは、レッスンを抜け出しては剣術を習ってみたり魔法を習ってみたり。その他にもシモリーンが興味を持つのはラテン語、料理、経済学。そんなシモリーンに困った王様とお妃さまは、シモリーンが16歳になった時、隣国・サデム・バイ・ザ・マウンテンズのハンサムな王子、金髪に青い目のセランディル王子と結婚させようとします。しかしこれがろくな話もできないような退屈な王子さま。シモリーンは庭のカエルのアドバイス通りに「城出」を決行することに。そして行き着いた先はドラゴンでいっぱいの洞窟でした。シモリーンは自ら囚われのお姫さまになることを志願します。(「DEALING WITH DRAGONS」田中亜希子訳)

魔法の森シリーズの1作目。
昔ながらのファンタジーの常識を逆手に取った作品というのは、最近の流行なのでしょうか。ここに登場するシモリーン姫は、あるべき「お姫さま」の姿にうんざりして、自分から城を出てしまったお姫さま。しかも自らドラゴンの囚われの姫に志願してしまうのです。これなら親も文句あるまいといった調子。なにせドラゴンに囚われるのはお姫さまのステイタスであり、良い結婚に繋がるのですから。そんな風におとぎ話としての定石を踏まえつつ少しずつずらしてしまうというのは、何と楽しいのでしょうね。おとぎ話特有の「そして2人はいつまでも幸せに暮らしました」だけを目指している何も考えていない王子さまやお姫さまに比べて、シモリーンはどれほど生き生きとして可愛いでしょうか。お姫さまとしての役回りにこそ上手く順応できないのですが、シモリーンは自分の足で立っていますし、誰に頼るのでもなく自分自身の力で幸せになることのできる賢い少女です。そんなシモリーンにとって自分らしく生きられる場所はなんとドラゴンの洞窟だった、というのが可笑しいですね。しかしあくまでも世間一般的には「ドラゴンに囚われたお姫さま」なので、シモリーンを救い出すために王子が何人もやって来てしまいます。もちろん結婚するはずだったセラ ンディル王子も。何と言っても、ドラゴンや巨人、人喰い鬼、恐ろしい妖精の呪いから救うのが、王子が姫に求婚する時の「正しいやり方」なのですから。
シモリーンと気の合うアリアノーラも、一見ごく普通のお姫さまに見せておいて実は案外しっかり者で可愛いですし、シモリーンを預かるドラゴンのカズールの洞窟がとても魅力的。家事をやっても構わないからカズールの洞窟の図書室や宝物部屋を探検してみたい、という気分になってしまいます。魔女のモーウェンもいい味を出していますね。それに何といっても昔ながらのおとぎ話や伝説の小ネタが沢山詰め込まれているところが楽しすぎます。眠り姫やシンデレラ、かえるの王子さま、アラジンの魔法のランプ、オズの魔法使い… しかも途中で登場する王子の英雄養成学校での同級生は、ジョージにアーサーにジャック。とは言っても、そのネタの全てが分かっているわけではないのですが。
ただ、ドラゴンたちの名前と姿が最後まで上手く一致しなかったのだけが残念。シモリーンが囚われることになるカズールはどんな緑色のドラゴンだったのでしょう。あと主要なドラゴンは7匹登場するのですが、色と名前が一致するのはロクシム(灰緑色)、ウォローグ(緑色-アリアノーラ)、モランツ(黄緑色)のみ。あとはケレドウェルのドラゴンはオスだと分かっているのですが、ハランナはどうなのでしょう。そちらもオスならば、緑茶色のドラゴンがゴーリムで、ザレス(ハランナ)、ゴーナル(ケレドウェル)が緑紫色と緑銀色のドラゴンとなると思うのですが… 正解は不明です。続編で明らかになるのでしょうか。しかしそもそも続編もシモリーンとカズールが活躍する物語になるのでしょうか。「魔法の森」という副題からも、この森を中心に起きる出来事が描かれていきそうな予感もします。そうなると次に中心となるのはモーウェン辺りでしょうか。いずれにせよ、とても楽しみです。


「消えちゃったドラゴン-魔法の森2」創元ブックランド(2009年9月読了)★★★★★

魔法の森の王・メンダンバーは、堅苦しい公式の式典に出席させようとしたり、執拗に結婚を勧めたりするエルフのウィリンや口うるさいガーゴイルの目を逃れて、1人城を出て魔法の森へ。魔法の森は、境界線はもちろんのことその地形さえ、前触れもなく頻繁に変わってしまう場所。しかし王であるメンダンバーは、特に何も考えなくても森を自由に出入りしたり行きたい場所に行くことができる特権を持っていました。それなのに、1時間たっても目的地の<緑の鏡ヶ淵>に辿りつかないのです。それどころか、本来入ることのできないはずの人間まで魔法の森に入り込んでいるのを発見。そしてさらに、魔法の森の中にあるはずのない荒地を発見します。魔法の森の一部が徹底的に破壊され、何も残っていない状態になっていました。そこにドラゴンのうろこが何 枚も落ちているのを見つけたメンダンバーは、偶然出会ったリスのアドバイスを受けて、魔女のモーウェンに会いに行くことに。(「SEARCHING FOR DRAGONS」田中亜希子訳)

魔法の森シリーズの2作目。
前回は、ありきたりなお姫さま教育と、世の中の頭の空っぽな王子さまたちにうんざりしているシモリーンが主役でしたが、今回中心となるのは魔法の森の王・メンダンバー。この王さまは、堅苦しいことは大の苦手で、「頭は空っぽなのに、自分を魅力的に見せることだけは得意」な世間一般の典型的なお姫さまたちに辟易していて... という、要するにシモリーンの男性版。まるで1作目と対になるような設定。そのメンダンバーがシモリーンと出会い、「消えちゃった」ドラゴンを探しに旅に出るという物語となっています。
今回も相変わらず可愛らしかったです。前作と比べると、ドラゴンの出番がかなり減ってしまっていて、それが寂しかったですし、メンダンバーもいい人なのですが、明るくて魅力的なシモリーンに比べると、どうしても見劣りしてしまいます。おとぎ話の王道を捻った設定に関しても、前回ほどのヒットではありませんでした。それでも前作の可愛らしく楽しい雰囲気は健在。やはりこのシリーズは大好きです。
今回特に面白いなと思ったのは、メンダンバー王の魔法。この人は元々魔法が使えるという人間ではないため、所謂魔法使いではないのです。王位を継いだ時に、一緒に魔法の力も受け継ぐのですね。即位した王に、森のすみずみまで網目のように広がっている魔法を感じ取り、使う能力を与えるのは魔法の森そのもの。なので使える魔法も一種独特。メンダンバーは、メンダンバーにしか見えないその魔法の糸に触れたり引っ張ったり捻ったりすることによって魔法を使います。(魔法の森の外にいる時は、目の前に糸がないので色々大変なのですが) しかも魔法の糸が彼にだけは見えるように、彼は魔法使いがかけた魔法も目に見えるようで…。これはテレメインでなくとも興味津々になってしまいますね。王道のおとぎ話を捻った部分としては、人間の村を襲わなければならないことにうんざりしている巨人や、3ヶ月ごとに必ずやって来る「イギリス人のジャック」が、きまって毎回安物の魔法のハープと金貨を少々持って行くという部分、そして困っている娘のために藁から金を紡ぎだすドワーフが、名前が当てられずに受け取らざるを得なかった子供たちの世話に追われているという部分が面白かったです。
次の巻は魔女のモーウェンが主役とのこと。おそらくテレメインも活躍するのでしょうね。楽しみです。

P.58〜59「あんたがひとりですべてをやろうとして自分をすりへらしてるのは、見ただけではっきりわかる」「本当だよ。そして、そんなふうに自分をすりへらすなんて、しなくていいことだ。あんたに本当に必要なのは」「気のきいた話し相手」

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