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このページは、マーク・トゥエインの本の感想のページです。

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「アーサー王宮廷のヤンキー」ハヤカワ文庫NV(2007年4月読了)★★★★★
「わたし」がその男に出会ったのは、ウォーリック城観光のこと。まるで親友や敵や、ごく親しい近所の人の話をしているかのようにベディヴィア卿やボース卿、湖水の騎士ランスロット卿、ギャラハッド卿の話をするその男に、「わたし」は興味を惹かれます。その日の晩、旅館ウォーリック・アームズの自分の部屋にいた「わたし」は、その男がコネティカット州ハートフォード生まれの生粋のヤンキーだと知り、男が何年もかけてつけていたという日記を読むことに。彼は自分の工場の荒くれ男に頭の横っぺらを殴られて気を失い、気がつくと6世紀の英国にいたというのです。(「A CONNECTICUT YANKEE IN KING ARTHUR'S COURT」小倉多加志訳)

19世紀のアメリカ人が突然アーサー王時代の英国にタイムスリップしてしまうという物語。そのままだと火刑にされてしまうところを、この時代の皆既日食を思い出したために、魔法使いボス卿として知られるようになり、マーリンを差し置いてアーサー王の大臣兼執務官となるという展開。そして19世紀にいる間に商売を覚え、小銃やピストル、大砲、ボイラー、エンジンなどの機械の作り方に精通していたため、自分の流儀で徐々に人材を育て、世の中を変えていこうとします。
違う国の違う時代にタイムスリップしてしまうというのはままある展開ですが(マーク・トゥエインの時代には斬新なアイディアだったのでしょうね)、そこで自分にとっての現代である19世紀の技術を広げてしまうというのがとてもユニーク。6世紀の英国、アーサー王治世下の世の中を現代人の視点で観察し、そこに存在する様々な問題点を改善するために彼がやり始めるのは、電話や電気などの19世紀の技術をこの時代に持ち込み、人材を育成し、新しい世の中を作るための準備をすること。最終的に目指すのは共和制の世の中なのです。
皆既月食の日時を正確に覚えているところはあまりに都合が良すぎると思いますし、19世紀の産業を6世紀にこんなに簡単に移行できるはずはないとも思うのですが、それでも奇想天外な物語が面白かったです。自分の置かれた状況をくよくよと思い悩んだりせず、19世紀の知識を利用してどんどん前向きに対処していくところはいかにもアメリカ人というイメージ。そして、確かにこの当時の「冒険」は、ほんの少しの出来事を針小棒大に吹聴することによって成立していたのかもしれませんし、アーサー王を始めとする騎士たちは皆野蛮人同然で、現代人にとっては常識と言えることが当時の人々には理解不能だったりするのかもしれません。その辺りは、徹底的にこき下ろされています。しかし肝心のイギリス人の気持ちをあまり考えようとせずに物事を推し進めていくのも、いかにもアメリカ人らしいところ。これがアメリカ人作家によるものでなければ、ここでも強烈な皮肉を感じていたところです。どうやらこれは額面どおりの騎士たちのパロディの物語というだけでなく、南北戦争後の南部の人間たちを騎士たちになぞらえて強烈に皮肉った作品のようですね。
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