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このページは、ロデリック・タウンリーの本の感想のページです。

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「記憶の国の王女」徳間書店(2003年12月読了)★★★★★

シルヴィは、「とてもすてきな大きなこと」という物語のヒロイン、ワルサー王国の姫君です。しかし本は滅多に開かれることなく、埃だらけの本棚に何年も放ったらかし。シルヴィたち登場人物は、刺激も何もない退屈な日々にうんざりしていました。しかし久々に「来たぞぉぉぉぉ!読者だ!読者だ!」「ほぉぉぉんが開くよぅぅ!」という声と共に本が開かれた日。登場人物たちは慌てて自分の持ち場に走ります。本をのぞきこんだのは、ふくれっつらの男の子。男の子は本にいちごジャムをこぼすと、そのまま本を閉じてしまい、登場人物たちはがっかり。しかし続けてのぞいたのは、もう少し年下の女の子。彼女は初めから終わりまで読むと、また最初から読み始めます。最初から最後まで通して読んでくれる読者は、昔この本を毎日のように読んでくれていた藍色の目をした少女以来。その後、再び読もうとしながら眠ってしまった少女を見て、シルヴィは思わず彼女の夢の中に飛び込むことに。(「THE GREAT GOOD THING」布施由紀子訳)

児童書です。
シルヴィを始めとする登場人物たちは、本が開かれると同時に自分の持ち場に戻り、決められた台詞や行動で物語を演じ始めます。演じるのはいつも同じ物語。持ち場とはまるで違う遠い場所で寛いでいたりすると、文章の間の近道を汗だくになって戻ってきて、息をはずませながら台詞を言う羽目に陥ったりしています。こういう場面が、何とも楽しいですね。この物語を読んでいると、私も子供の頃に、似たようなことを空想していたことがあるのを思い出しました。しかし私の空想はいつも、本の中の登場人物はあくまでも本の中に生きていて、私たちのような読者が本の中に入り込んでしまうという状況ばかり。この物語のように、登場人物が本の外に飛び出してきてしまうというのはとても新鮮でした。物語世界の外側に読者の夢が広がっているというのも、素敵ですね。
しかし童話の世界にも、楽しいだけではなく暗い側面があります。この物語の中に登場するクレアの夢の中も同じ。時の無常さや人間の弱さも感じます。それでも前向きに困難を打開しようとするシルヴィたちの姿がとても暖かいですね。私にも、今でも大切にしている子供の頃の本がたくさんありますが、もう何年も開いていない本が多いのを思い出しました。またぜひ大切に読み返したいものです。

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