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このページは、シャンナ・スウェンドソンの本の感想のページです。

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「ニューヨークの魔法使い」創元推理文庫(2007年1月読了)★★★★★お気に入り

ケイティ・チャンドラーが地元テキサスの公立大学で経営学士号を取得し、数年間実家の飼料店を手伝った後、ニューヨークに出てきて1年。今はジェンマとマルシアという2人のルームメイトとアパートをシェアしながら、マーケティングディレクターのミミのアシスタントとして働く毎日。しかしニューヨークに1年暮らしても、ケイティは未だにニューヨークで出くわす不思議な人々やおかしな出来事に慣れてはいなかったのです。その朝見かけたのも、ハロウィンの季節でもないのに背中に妖精のような羽をつけた女の子。しかも妖精の羽をつけた女の子は、ケイティの隣に座った脂ぎった独善的な男や、典型的なウォール街のビジネスマン的なハンサムな男と知り合いらしく、ケイティは妙な3人組に付けねらわれているのではないかと心配になり始めます。幸い3人組は先に降りるものの、気になるケイティ。そしてその日ケイティのパソコンには、何通もの怪しいヘッドハンティングらしきメールが届いて…。(「ENCHANTED, INC.」今泉敦子訳)

ごくごく普通の女の子のはずのケイティが、その普通さゆえに魔法使いと関わりになってしまうというファンタジー。なぜそのようなことになってしまうかといえば、実はケイティは魔法界の人々の言う「免疫者(イミューン)」だから。ニューヨークの街に存在する魔法的な人々は、自分たちが普通の人間に見えるための魔法をかけており、普通の人間は魔法にかかったり目くらましのイリュージョンにだまされる程度の魔力は持ち合わせているため、彼らのことを見ても普通の人間だと思い込むのが普通なのに、ケイティには、そのほんのわずかの魔法の資質すら存在しないため、彼らの目眩ましの魔法が効かないというのです。妖精の羽を見ると、コスチュームデザインを専攻している大学生だと考え、地面から2インチほど浮かんだまま歩いていても、底が半透明のプラットフォームシューズだと思い込むケイティ。そして、そんなケイティが彼らにとって貴重な存在なのは、その魔法的な資質のなさ。その逆説的な部分がまず面白いです。さらに、ケイティが妖精やエルフを見てはハリー・ポッターや指輪物語といった作品を思い浮かべたり、魔法使いからの接触がEメールで、しかもケイティがよくあるスパムメールかと思って削除してしまうという現代的な部分もいいですし、ケイティが新しく勤めることになる株式会社MSI(マジック、スペル&イリュージョン)の場面がまた楽しいのです。一見ごく普通の会社組織のように見えながら、そこには魔法がいっぱい。面接会場となる広間は映画「キャメロット」のセットのようですし、妖精やノームといった魔法的存在が、普通のビジネススーツ姿の人々と一緒にテーブルを囲んでいます。会社が作るのは魔法使い向けの魔法の製品なのですが、魔法という部分を除けば普通の現代の製品と変わりません。何度も商品チェックを受け、きちんとした契約書のもとに公正な取引がされています。しかし現代的な会社のように見えても、魔法使いたちが動かしている会社だけに、彼らには、例えばマーケティングや知的所有権などについての知識に乏しいのです。ケイティのちょっとした提案は次々に受け入れられ、ケイティはとんとん拍子に出世。現代的な会社と魔法が上手くミックスされていて、わくわくするような空間となっています。
残りページ数が少なくなるに連れて、これで本当に何もかも解決するのかと心配になってしまいましたが、どうやらシリーズ物のようですね。オーウェンやロッドも魅力的ですし、ケイティと同じく魔法使いたちに関わることになったイーサンも同様。現代ニューヨークに蘇ったマーリンについてもまだまだ知りたいことが沢山。ケイティの恋の行方も合わせて、次作もとても楽しみです。何も異世界が舞台ではなくても、勇者がいなくても、実は自分のすぐ隣に魔法が存在するかもしれないと感じさせてくれる、キュートで夢のある物語ですね。


「赤い靴の誘惑」創元推理文庫(2007年3月読了)★★★★★お気に入り

ルームメイトのジェンマと一緒に、イーサンとのデートのための服を買いにブルーミングデールズ行ったケイティ。最高に素敵な靴を見つけてからコーディネートを組み立てるべきだと主張するジェンマに連れられて行った靴売り場にあったのは、リンゴ飴のように艶やかな真っ赤なピンヒール。売り場に居合わせた妖精のトリックスとアリにも勧められるのですが、200ドルという値段はケイティには高価すぎるものでした。その日のイーサンとのデートはワインディナー。しかしケイティは魔法の匂いをかぎつけます。そのワイナリーでは、魔法で客を酔わせ、法外な値段のワインを売りつけていたのです。そして出勤した月曜日。ケイティは、一緒に歩いていたオーウェン・パーマーの横を姿を消した骸骨が歩いており、駅の入り口にはストリートミュージシャンに化けたフェラン・イドリスがいるのに気づきます。しかも会社に着いてみると、鍵のかかったデスクの引き出しに入れておいた防御用魔術に関するメモを盗み見られたとオーウェンが血相を変えてマーリンのところへとやって来るのです。(「ONCE UPON STILETTOS」今泉敦子訳)

「ニューヨークの魔法使い」の続編。
新しい会社ではその能力をかなり買われているケイティ。そんなケイティが今回巻き込まれるのはスパイ騒動。会社の中にいるかもしれないスパイを最初は隠密に、やがてはおおっぴらに探し出さなければならなくなります。膨大な数の内部告発のメールに悩まされつつ、捜査を進めるケイティ。しかもすっかり気持ちがバラバラになってしまった職場を元通りにすることも考えなくてはならず、本来の仕事であるマーケティングのことも放ってはおけません。そんな時にケイティの両親がニューヨークに遊びに来ることになり、ケイティの母親がイミューンらしいことが発覚、妙なものを目にするたびに騒ぐ母親にケイティは神経をすり減らすことになります。しかも自分自身の最大の特徴だったイミューンとしての能力にも陰りが出てきて、ケイティは気が気ではない状態。仕事を失いたくない気持ちと、ボスに正直に言わなければと思う気持ちの板ばさみ。さらに今回のケイティは、なぜかイドリスのターゲットになってしまい、何度もちょっかいを出されることに。しかしこのイドリス、やることがどこか抜けていて、それもまた楽しいですね。
今回特に楽しかったのは、ケイティの恋を巡るお話。心の片隅にはオーウェンへの思いが残っているケイティですが、万人の妹状態になってしまうケイティのこと、どうあがいてもオーウェンとハッピーエンドになるわけがなく(と、ケイティは思い込んでいます)、イーサンとのデートを重ねようとしています。個人的にはオーウェルが一番好きなのですが、このイーサンもとても好感度の高い人物だけに、ケイティの気持ちが真っ直ぐ彼を向いていないことに、読んでいてもどこか気が咎めてしまいます。あまり自分の魅力に自信を持っていないケイティの気持ちも分かるだけに難しいところですね。それでもランチデートでのイーサンの行動には驚きました。これはイーサン自身のプライドもあるのでしょうけれど、ケイティに対する思いやりも含まれているのでしょうか。最後に少しイーサンとの会話の場面を作って3巻に繋げて欲しかったところ。実際にはオーウェンがすっかり場を攫ってくれて、それがあまりに圧倒的だっただけに、すっかり影が薄くなってしまったのですが。
シリーズ物だと、1作目が一番面白いというのもよくあることなのですが、今回は前回以上に楽しく読めました。今回はケイティの恋路全開だったわけですが、これに関しては一段落ついたわけですし、次回はまた1巻のように、この会社らしさを出した物語が読みたいですね。


「おせっかいなゴッドマザー」創元推理文庫(2008年3月読了)★★★★★お気に入り

ずっと憧れだったオーウェン・パーマーと初のデートの日。待ち合わせ場所のこぢんまりとしたコーヒーショップに入ったケイティを待ち構えていたのは、フェアリーゴッドマザーのエセリンダでした。見るからにトップクラスとは言いがたい彼女の外見を見て、見ず知らずのシンデレラに同情してしまったケイティでしたが、なんとシンデレラはケイティ自身だったのです。生まれて初めて手助けがいらない状態になっているケイティ。エセリンダにもはっきりそう言うのですが全く聞き入れられず、それ以来何かとエセリンダに付きまとわれることになってしまいます。そしてその日珍しく遅れて現れたオーウェンは、会社の警備部隊に身柄を拘束されていた妖精のアリが逃げたのだと説明。デートはお預けで、オーウェンは会社に戻らなければならなくなったのです。(「DAMSELL UNDER STRESS」今泉敦子訳)

(株)魔法製作所のシリーズ3作目。
憧れのオーウェンと両想いになって、今後ロマンス的などきどきは半減するのかもしれないと少し心配していましたが、全くの杞憂でした。組み合わせが組み合わせだけに、その進展はアメリカ人とは到底思えないほどゆっくりですし、しかも各方面から入る邪魔を振り払うので精一杯という状態。まだ両想いが判明してから間もないことですし、逆に少しはいい目をみさせてあげたくなってしまうほどです。しかし前作で判明した敵は新たな資金源を得てパワーアップして、ケイティもオーウェンも仕事に釘付け状態ですし、どう考えても時代遅れなフェアリーゴッドマザーの活躍ぶりも痛々しいです。どこからどこまでが誰の仕業なのか分からないところもポイント。そしてケイティのルームメイトのマルシアとジェンマは彼女たちの恋の行方も楽しいですし、ケイティがオーウェンの義父母と会うところも読みどころ。ジェイムズもグロリアも、話に聞くのとは大違いですし、そのことに気づけるケイティが素敵。さらにロッドの変化にも驚かされます。彼に何があったのでしょうか。
最後の展開はとてもケイティらしいですね。しかし彼女の立場からいえばこれも仕方ないのだろうなと思いつつも、こうなってしまうとやっぱり寂しいもの。自分の存在が強みでもあると言われながらも、その言葉を信じきれないところがケイティなんですが… 本来ならオーウェンの気持ちももっと考えてあげて欲しいところです。いずれ全てが上手くいくよう祈りたいものです。


「コブの怪しい魔法使い」創元推理文庫(2009年2月読了)★★★★★お気に入り

敵との対決には自分の存在がオーウェンの邪魔になると感じたケイティは、マーリンと話し合い、仕事を辞めてニューヨークから故郷であるテキサス州コブの町へと帰ることに。そして実家の肥料店を手伝い始めます。しかし魔法とはまるで縁のない町だったはずのコブで、奇妙なことが立て続けに起きるのです。イミューンである母が目撃した奇妙な光景、そして友達のリタの家が経営しているホテルで起きた、魔法でなら簡単に説明できる出来事。ケイティはニューヨークに電話し、マーリンに事情を説明して相談します。(「DON'T HEX WITH TEXAS」今泉敦子訳)

(株)魔法製作所のシリーズ4作目。翻訳が出るまで待ちきれなくて、以前「Don't Hex with Texas」を読んでいるので再読になりますが、やはり面白いですね。そして原書でもきちんと話を理解していたことを確認できて、ほっとしました。英文自体はあっさりしていてあまり難しくなかったのですが、やはり不安だったので...
今回はケイティの家族が総出演。祖母に両親に3人の兄、そのそれぞれの家族。そんな大所帯が楽しくて、特に自称魔女のケイティの祖母がいい味出していて楽しかったです。こういう家にケイティは生まれ育ったのですね。そしてオーウェンが相変わらず素敵ですし、イドリスは相変わらず肝心なところで抜けていて可笑しいです、ケイティのおばあちゃんとマーリンも、実はお似合いなのでは。
訳者あとがきを見ると、原書の出版社が5作目の出版を未だに保留しているようですね。オーウェンの生い立ちや敵の黒幕など、まだまだ明らかにされていないことが残っていますし、作者本人も出版に意欲的だというのに、そしてアメリカでは1作目の売り上げが未だに順調だというのに、アメリカの出版業界は厳しいですね。これが日本ならば矢のように催促され、催促されすぎて作品の質が落ちることも十分あり得ることだと思うのですが…。一定の質を維持するにはある程度厳しくあった方がいいと思いますが、この作品に関してはぜひいい方向に動いて欲しいものです。

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