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このページは、ジョン・スタインベックの本の感想のページです。

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「エデンの東」1〜4 ハヤカワepi文庫(2008年3月読了)★★★★★

アダム・トラスクは、1862年、コネチカット州の農家の1人息子として生まれた少年。しかしコネチカット連隊に召集されていた父・サイラスが帰宅すると、トラスク夫人は夫から戦争から持ち帰った感染症にうつされ、それを苦に自殺。サイラスはすぐに近所に住む農夫の17歳になる娘・アリスに目をとめて再婚し、アダムの1歳年下の弟となるチャールズが生まれることになります。軍隊を礼賛している父は2人の息子に軍隊式の訓練を強要。弟のチャールズは力でも技でもアダムに勝り、軍隊式の訓練も受け入れていましたが、暴力や争いの嫌いなアダムにとってそれは苦痛でしかない習慣でした。しかし父は2人が成長した時、いかにも軍隊に向いていそうなチャールズではなく、アダムを騎兵隊に送り込んだのです。(「THE WHITE HART」土屋政雄訳)

アダム・トラスクとその弟チャールズ、アダムの息子のキャルとアロン。2世代の4人の男たちと、アダムの妻となるキャシー、そして周囲の人々を描いた物語。スタインベック自身も、北カリフォルニアのサリーナス盆地に入植したアダムの隣人・サミュエル・ハミルトンの孫として登場します。
誰にでも愛されるアダムとひねくれ者のチャールズという構図は、アダムの双子の息子にも繰り返されます。ひねくれている息子が父親に愛されていないと感じるのも同様。これがそのまま聖書のカインとアベルの物語に重なっていくのですね。しかしそういった人々を見ていて感じるのは、純粋すぎるアダムやアロンの弱さと、チャールズやキャルの強さ。そしてこの世がエデンの園ではない以上、純粋すぎる人間は生き延びていくことができないということ。アダムもその息子アロンも悪に対抗する力が全くなく、悪そのもののキャシーという1人の女性に滅ぼされたようなものなのですから。それに比べて、キャルは自分の中の悪を強く認識し、そんな自分を持て余し苦しんでいながらも、この世界を生きぬいていく力は十分持っているのです。アロンによって美化されてしまうアブラも同様。アロンが勝手に思い込んでいる姿とはまた少し違う生々しい女性としての人格を持っているアブラは、きちんと生き抜いていく力を持った女性です。嘘の中に真実を少し混ぜるだけで、あるいはその逆に真実の中に嘘を少し混ぜるだけで聞き手はその真偽を判断しにくくなるように、やはり善と悪はどちらか片方だけでは弱いのでしょうね。だからこそ、アダムが最後につぶやいた言葉「ティムシェル」が重みを持ってくるということなのでしょう。
そしてそのほかの登場人物で深く印象に残ったのは、陽気な隣人となる農夫であり鍛冶屋でもあり、発明家でもあるサミュエル・ハミルトンと、アダムの家にコックとして雇われる中国人のリーの2人。特にリーの造形は素晴らしいですね。中国人の持つ長い歴史と深い知恵をアメリカ人が学ぶ、という構図は意外でしたが、これがとても効いていると思います。
読み始めは一体誰が主役なのかなかなか掴めなかったですし、もっと構成を整理できるのではないかとも思ったりしたのですが、丁度パール・バックの「大地」を読んだ時のような印象の残るスケールの大きな大河小説。予想以上に面白かったです。

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