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このページは、ジョン・ソールの本の感想のページです。

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「暗い森の少女」ハヤカワNV文庫(2002年8月読了)★★★★
ポートアーベローの町で、古くから領主的な存在だったコンジャー家。この家では100年前、当主が11歳の実の娘・ベスを強姦して殺し、その後自分も崖から身を投げて自殺するという事件が起きていました。それから85年後。当主であるジャックとその妻・ローズとの間には13歳のエリザベスと2歳年下のセーラという2人の娘がいました。しかし1年ほど前から、セーラは口も満足にきけない状態。実はセーラと一緒に森に入った父親のジャックが、いきなり茂みの中にいたセーラを引きずり出して殴りかかるという出来事があり、それによってセーラは精神的に大きな打撃を受けていたのです。しかし肝心のジャックは、自分がしたことををまるで覚えておらず…。内にこもってしまったセーラの世話を、エリザベスが甲斐甲斐しく焼いているのですが、ある時両親は、エリザベスが禁じられた森の中から出てくるのに気づきます。森やその先の堤防は、コンジャー家にとって避けるべき忌まわしい場所。エリザベスを森や堤防の方に行かないようにするために、ジャックは代々家に伝わる伝説を話すことに。(「SUFFER THE CHILDREN」山本俊子訳)

いわゆる憑依物とでも言うのでしょうか。100年前の出来事がきっかけとなり、現代にまで影響を及ぼしていくというホラー。100年前に非業の死を遂げたベスが、肖像画を介在にエリザベスに憑依。父親のジャックもまた100年前にベスを強姦した父親の影響を受けて、セーラに襲い掛かるのです。
しかしこれが純粋な憑依物かといえば、それはまた違うような気がします。エリザベスの行動は、有無を言わさずの憑依現象というよりも、その100年前の状態を呼び寄せ、実際に引き起こすだけの環境にあったのが原因のようにも思えます。普段のエリザベスは、両親をも恥じ入らせてしまうほどの良い娘。セーラの面倒の見方も到底13歳の少女とは思えないほど自分を抑えたもので、何をされてもイヤな顔ひとつしません。しかし、わずか13歳の少女が、本当にこんな風に自分を抑えていられるものでしょうか?医者の言う通り、両親が障害を持つ子供に気をとられるあまり、ノーマルな子供までもが両親の気を引くために問題を起こしてしまうというケースの方が、遥かに正常に感じられます。エリザベスのように自分を抑えることができるということは、それだけの鬱屈を、自分の中のどこかに溜め込んでしまっていると考えた方が自然。そしてそのはけ口が、あの洞窟での乱暴な言葉遣いや口汚い罵倒の言葉となって現れたのでしょう。
エリザベスは、父親がセーラに殴りかかる場面も目撃しています。だからこそ、その出来事が100年前のベスの魂を呼び寄せてシンクロさせてしまったような気がするのです。…しかし、ジャックがセーラを殴ったという事件が起きたのは、やはり100年前の出来事が引き金になってのこと。それがなければ、ジャックがそんな変な気分になったかどうか…。と考えると卵が先か鶏が先か、となってしまいますね。本当の所はどうなのでしょうか。
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