Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ルイス・サッカーの本の感想のページです。

line
「穴」講談社(2005年9月読了)★★★★★お気に入り

ひいひいじいさんのエリャが片足のジプシーのマダム・ゼローニから豚を盗んだせいで、子々孫々にいたるまで呪いをかけられてしまい、いつでも運に恵まれず、まずい時にまずいところに居合わせてしまうイェルナッツ家の面々。例えば、スタンリーの父さんは発明家。頭が良く根気もあるのに、運だけが足りず、実験はいつも失敗に終わっています。しかしそれだけならまだまし。スタンリー本人は、なんと人気プロ野球プレイヤー・クライド・リヴィングストンのスニーカーを盗んだ容疑で逮捕されてしまうのです。本当はスニーカーが空から降ってきたところに偶然居合わせただけだったの、誰にも信じてもらえず、スタンリーは法を犯した少年たちが集められたグリーン・レイク・キャンプに送り込まれてしまいます。グリーン・レイクは、かつてはテキサス一の大きな湖があったという場所。しかしここ100年間はまるで雨が降らず、すっかり干からびていました。そしてスタンリーはキャンプにいる他の仲間と同様、毎日のように炎天下で穴掘りに励むことになります。起床は朝の4時半。それから皆それぞれに直径1.5メートル、深さ1.5メートルの筒状の穴を掘るまでは、建物の中には戻れないのです。(「HOLES」幸田敦子訳)

出版された途端、全米図書賞、ニューベリー賞、クリストファー賞、ホーンブック・ファンファーレなど、価値ある児童文学賞を軒並み攫ったという作品。
現在のグリーン・レイクを掘る現在の子供たちの情景に、スタンリーの「ひいひいじいさん」や、かつて湖があった頃のグリーン・レイクの切ない恋物語などのエピソードが織り込まれて進んでいきます。この過去のエピソードが、実は全て伏線となっており、何1つとして無駄がないというこの構成が素晴らしいですね。読み進めるうちに、それらの過去の出来事はそれぞれに現在の状況に何らかの関係があるらしいということが徐々に分かってきます。建前は「根性を養うため」「人格形成のため」の穴掘りも、実は女所長が何かを探しているらしいということも。そしてだんだん全体の形が見えてきてかと思うと、最後はあっと驚く結末。まるでパズルを組み立てているかのように、最後にはぴたりと全てはまってしまう様は、読んでいていて本当に気持ちが良いです。
冤罪で捕らえられてしまうという物語は、本来ならもっと苦しく痛いものになりそうなところですが、イェルナッツ一家特有のの希望を失わない性格、そしてスタンリー自身の諦観交じりののんびりした性格のせいか、全体的な雰囲気が明るくていいですね。「ゼロ」「脇の下」「ジグザグ」「X線」「イカ」といった奇妙なあだ名の、一癖も二癖もある仲間たち、意地の悪い女所長や看守も楽しいです。この物語は映画化もされていて、そちらもオススメ。特にガラガラ蛇の毒液をマニキュアとして使う女所長役はシガニー・ウィーバーで、イメージにぴったりの配役です。


「道」講談社(2005年10月読了)★★★

無実の罪でグリーン・レイク・キャンプに送り込まれてしまったスタンリー・イェルナッツが、そこで過ごした日々を描いた物語が「穴」。そしてこの「道」は、そのグリーン・レイク・キャンプを無事に出た後に、スタンリーがキャンプについて書いたエッセイです。キャンプの女所長、指導員のミスター・サーとミスター・ペンダンスキー、そしてDテントにいた「X線」、「イカ」、「脇の下」、「ジグザグ」、「磁石」、「ゼロ」、「原始人」、そして「原始人」が入る前にいた「ゲロ袋」、「ゼロ」の代わりに入った「ぴくぴく」といった面々について、そしてグリーン・レイク・キャンプでの生活について書かれています。(「ROAD」幸田敦子訳)

「穴」がとても面白かったので、続編だというこの「道」も読んでみました。続編というよりも、実際は「穴」の補遺版という感じです。「穴」を読んでいる時は「原始人」+「ゼロ」+「その他Dテントの面々」という感覚だったので、X線やイカ、脇の下、ジグザグ、磁石といった面々についても詳しく、当時の面々について、そして出所した今の生活について書かれています。この中で特に印象に残ったのはX線。「穴」を読んでいる時は、いかにも強そうな脇の下ではなく、なぜX線がリーダー的存在なのか良く分からなかったのですが、これを読んで納得。そしてグリーン・レイク・キャンプで生きる術について、さらりとユーモアたっぷりに教えてくれます。これがまたグリーン・レイク・キャンプだけにしか通用しないことではなく、人生において大切なことと言えるような事柄ばかり。特に人と人との距離感については、今すぐにでも応用できそうです。しかもそれが決して説教じみていないのがいいのです。そして面白いのがサバイバル・テスト。色々と説明を読んでいるはずなのに、なかなか当たらないものですね。
しかしこれはあくまでも「穴」の補遺版。「穴」があってこその本ですので、「穴」を読んでいない読者にとっては意味のない本でしょう。「穴」の後に読まれることをおすすめします。


「歩く」講談社(2005年10月読了)★★★★

グリーン・レイク少年矯正キャンプを出所して1年弱。アームピット(脇の下)は、またシャベルを握っていました。しかしそれはグリーン・レイクの干上がった土地に穴を掘るためではなく、レインクリーク灌漑造園会社に時給7ドル65セントで雇われているため。グリーン・レイク・キャンプを出てサンアントニオの更生施設でカウンセリングを受け、アフリカ系アメリカ人の少年の再犯率の高さを知ったアームピットは、「高校を卒業する」「仕事をみつける」「貯金をする」「けんかの引き金になりそうなことはしない」「アームピットというあだ名とおさらばする」という5つの課題を自分に課して頑張っているのです。その日の仕事は、オースティン市の市長宅の庭に溝を掘ること。そこにやって来たのは、X・レイ。2週間以内に貯金を倍にする話を持ってきたというのです。カイラ・デレオンという、今度オースティンにやって来るアイドルスターのコンサートのチケットを転売して儲けようというのですが…。(「SMALL STEPS」金原瑞人・西田登訳)

今度こそ、「穴」の続編。とは言っても、「穴」の主人公だったスタンリーは登場しません。今度の主役は、アームピットとX・レイ。
まず冒頭の「アームピットはまたシャベルを握っている」からして可笑しいですし、X・レイの口車に乗ってはいけないと十分分かっていながら、断りきれずにどんどんX・レイのペースに乗せられてしまうアームピットの姿が楽しいです。そして、「脳みそにけがをしてる」隣家の脳性麻痺の少女・ジニーが、父親が家を出ていったのは自分のせいだと泣いた時に、アームピットが言う言葉は最高に暖かいです。障害児とどう付き合えばいいのか分からないと言うカイラの言葉に対しては、「ジニーが障害児だなんて、めったに思わないけどな」と思うアームピット。グリーン・レイクにいたということでも、身体の大きな黒人だということでも偏見を持たれがちで、実の親にもまるで信用されていないアームピットなのですが、腕っぷしの強さだけではない、本当の強さを持った素敵な青年ですね。カイラとのことはあまりにお手軽かつ出来すぎで少々興ざめですし、全体的に「穴」には遠く及ばないというのが正直なところですが、やはり面白いです。
ただ、「穴」や「道」で「脇の下」「X線」と呼ばれていた少年たちが、この本では「アームピット」や「X・レイ」になってしまったのは、なぜなのでしょう。シリーズ物の途中で訳者が変わることはよくあることですが、固有名詞は前作のものを継承して欲しいところです。まるで別人の話のように思えてしまいます。

P.9「あなたはあのキャンプに入る前から、人生は不公平だと思っていたでしょうけど」「あそこから出ると、その不公平さは倍になるのよ。世間はあなたを色眼鏡でみて、勝手に極悪人だと決めつけて、つまはじきにしようとするでしょうね」

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.