Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、エリザベス・ロズナーの本の感想のページです。

line
「光の軌跡」ハヤカワepi文庫(2006年5月読了)★★★★★

カリフォルニア・バークレーにあるアパートの、テレビを11台も置いた自分の部屋で、「科学辞典」を改訂する仕事をしているジュリアン。大学にいた時は極紫外線宇宙物理学を研究していたジュリアンですが、研究に興味を持てなくなった時に、ジュリアンの才能を惜しんだ担当教授にこの仕事を紹介されたのです。部屋に引きこもり、極力人づきあいを避けているジュリアンの普段の世話をしているのは、アパートの真下の部屋に住んでいる妹のポーラ。しかしプロのオペラ歌手を目指しているポーラは、自分の声の可能性を試すために、ヨーロッパへと旅立つことに。そしてポーラの部屋を週1回掃除していたソーラ・ルス・オルドニオが、代わりにポーラのアパートに住み、ジュリアンの世話をすることになります。(「THE SPEED OF LIGHT」富永和子訳)

詩人であり短編作家だったというエリザベス・ロズナーの処女長編。
生まれた時から内向的で、4歳の時に妹が生まれるまで一言も話したことがなく、9歳になる頃には科学の天才として扱われていたジュリアン。そして生まれた時から外交的で、話すよりも早く歌い始めたポーラ。ジュリアンが現在のような対人恐怖症になってしまったのは、2人の父親の影響です。父自身は2人に何も語ろうとはしませんが、ナチス・ドイツ時代にアウシュビッツに収容されて生き延びた人間なのです。何も語ろうとしない父に大きな影響を受けたジュリアンと、事実を第三者から聞いた時に初めて、大きな衝撃を受けたポーラの姿が対照的ですね。おそらくポーラは、それまで家の中で重苦しいものを感じていたにしても、普段は決してジュリアンの感じていた父の呪縛を感じることなく育ったのでしょう。そしてブタペストでその話を聞いて初めて、これまでジュリアンが受け続けてきた重荷を自分の身体に実感として受け止めたのでしょうね。対照的な2人の性格は生まれつきのものであって、決して後天的な、生まれ育った環境によるものではありません。そして、それまでは妹のポーラが兄を守らなくてはならなかった力関係が、その出来事を境に180度転換するのもとても興味深かったです。その2人と比べると、ソーラの存在感はやや弱いのではないかと思うのですが、それでもソーラとジュリアンがお互いに惹かれあい、心を許しあうのが、単に傷を舐めあうのとはまた違っていたこと、そしてその展開はごくごくゆっくりとなのですが、それだけに違和感なく読めたのが良かったです。
物語はジュリアンとポーラ、そしてソーラの3人の視点で語られ、短いパートで移り変わっていきます。そのため、とてもテンポが良く読みやすかったです。3人の視点から現在のこと、過去のことが次々と語られていき、徐々に全体像が見えてくるという形式。重いものを含んではいますが、むしろ詩人ならではの美しい情景が印象に残りました。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.