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このページは、トニ・モリスンの本の感想のページです。

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「青い眼がほしい」ハヤカワepi文庫(2006年3月読了)★★★
ピコーラはクローディアとフリーダという姉妹の家に引き取られた黒人の少女。父親のチョリー・ブリードラブが自分の家を焼いて妻を殴り、一家は行き場を失ったのです。母親のポーリーンは雇われ先の婦人の家に住み込み、ピコーラはクローディアとフリーダの家へ、そしてサミーはまた別の家族の家へ。そしてチョリーは刑務所へ。クローディアとフリーダと一緒にいる時に初めての「ミンス」が始まったピコーラは、そのことによって赤ん坊が産める身体になったこと、そしてそのためには誰かが自分を愛さなければならないことを知ります。もし自分が今のように醜くなく、綺麗な青い眼をしていたら家族にも学校の生徒たちにも愛されるようになると思っていたピコーラ。青い眼にしてくださいと、彼女は毎晩必ず神さまに祈っていました。(「THE BLUEST EYE」大社淑子訳)

アメリカの黒人作家にして初のノーベル賞受賞者というトニ・モリスンの作品。
同じように「黒人」と呼ばれる人々にも「ニガー」と「カラード」があり、その違いは声の大きさによって分かるという記述がありますが、黒人の中にも色々と違いがあるようです。その中でもピコーラが属しているのは、最低レベルの階級。ピコーラには友達が1人もおらず、同じ黒人の少年たちにすら軽蔑され、いじめられています。これが黒人対白人という構図なら分かりやすいですし、これまでにも書かれてきていると思うのですが、この作品はそうではないのですね。むしろ学校では、黒人蔑視という感情はほとんどなさそうです。ここに転校生として登場する黒人の少女・モーリーン・ピールは、人種的には黒人でありながら肌の色が薄く、「夢のようにすてきな黒人の女の子」と思われているのですから。裕福な白人と同じぐらい裕福な家に生まれ育った彼女のことを、黒人はもちろん白人の子供たちもモーリーンのことはからかおうとはせず、むしろ魅了されています。先生たちですら、モーリーンには態度が優しくなるのです。
黒人の中でも肌の黒さによって差別感情があるだろうというのは予想していましたが、肌が最も黒いピコーラがこれほどまでに手ひどく蔑視されているというのは衝撃的でした。むしろ、白人と結婚する黒人の方がどっちつかずの状態で敬遠されやすいのではないかと勝手に思い込んでいたのですが…。そして皆に愛されたいピコーラにとって、美しさの象徴は白人の持つ「青い眼」。青い綺麗な眼は、ピコーラにとっては幸せの象徴。黒人の中にも、ここまで白人本位な美意識が入り込んでいたとは驚きました。
もちろんこの作品の舞台となっている1940年のアメリカは、今とは多少状況が違うとは思います。それでも黒人による黒人差別はおそらくなくなってはいないのでしょうね。しかしピコーラをいじめる黒人の少年たちも、その肌は同じように黒いのです。自分たちが白人に差別され続けた鬱屈をピコーラで晴らしているのは分かりますが、表面上はピコーラを貶めながら、実は自分自身を貶めていることに彼らは気づいているのでしょうか。そして黒人には黒人としての美しさがあることに人々が気づき始めたのは、いつ頃のことなのでしょうか。
この作品において、作者は加害者側にも被害者側にも加担しようとはしません。少年たちの差別意識を攻撃することもなく、差別されるピコーラを庇うこともありません。ただ、ありのままの事実を淡々と述べているのみ。そしてピコーラや彼女の両親の人生を遡ることによって、その差別的な心情がどのようにして形成されていったのかが分かるようになっています。色々と考えさせられる作品でした。
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