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このページは、ロビン・マッキンリイの本の感想のページです。

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「青い剣」ハヤカワ文庫FT(2006年12月読了)★★★★★
5年前に母親が、そして1年前に父親が亡くなり、3ヶ月前、兄のリチャードに呼ばれるがまま本国を船で発って、砂漠の町・イースタンに住むチャールズ卿とアメリア夫人の元へとやって来た少女・ハリー。徐々にイースタンでの生活にも慣れてきたハリーの目の前に、ある日現れたのは、ダマール王国の王・コールラスでした。北方族の侵略に対して、イースタンの人々と共同戦線を張りたいと申し入れに来たのです。しかしイースタンの人々はその申し出を断ります。数日後、イースタンに再び現れたコールラスは、部屋で眠っているハリーをひそかにダマール王国へと連れ出すことに。それはコールラス自身の意思ではなく、コールラスのケラーがさせた行動でした。(「THE BLUE SWORD」渡辺南都子訳)

アメリカでその年最高の児童文学作品に与えられるニューベリー賞の次点となったという作品。
ハリーの本国は、はっきりとは書かれていませんが、大英帝国華やかなりし頃のイギリスを思わせます。イースタンはその「本国」の植民地であり、ダマール王国はアラビア半島の国といったところでしょうか。砂漠の国の王に攫われた背高のっぽの少女・ハリーが、伝説のイーリン姫の力も借りて成長し、いつの間にか英雄になっていくという物語です。一方的に攫われてしまったハリーがやけに落ち着きすぎているように思いますし、攫ったコールラスに対してまるで敵意を持たないのが不思議なほど。泣き寝入りする程度で反抗する気配もなく、素直すぎるほど求められた通りに行動し続けているのが違和感なのですが、それにも理由がないわけではなかったのですね。普段は自信に満ち溢れた有能な王なのに、ハリーに対しては臆病なほど丁重になるコールラスの造形も良かったのでしょう。ハリーも感情のやり場を失ったといったところなのかもしれません。共通の敵との戦い、やがて生まれる愛情… と王道すぎるほどのストーリー展開にも関わらず、とても楽しめました。砂漠の民らしいダマール王国の人々の旅の情景もとても鮮やかですし、狩猟猫・ナルノンや馬のソルニン、ジャック・デダム大佐、ハリーの教師役のマシンといった脇役たちもとても魅力的。そしてダマール王国でも限られた人々の持つケラーという力も謎めいていて、興味をそそります。
指輪物語やナルニアを読んで育ったマッキンリイの中でハリーやイーリン姫が生まれたのは、「王の帰還」のペレノール野の合戦の章の冒頭、エオウィンが自ら女性であることを明かす場面からだったのだそう。ハリー自身は特に美人でもなく、女の子らしくもなく、甘えるのが下手な不器用な少女なので、美しく淑やかで強いエオウィンとは一見かなり違うのですが、一本芯の通った部分にはやはり似通ったものがあるかもしれませんね。

「英雄と王冠」ハヤカワ文庫FT(2006年12月読了)★★★★
王のただ1人の娘として生まれながら、王に呪いをかけて王から愛されるように仕向けたという母親の噂のせいで、イーリンは生まれてこの方、魔女の娘と蔑まれて育っていました。母はイーリンを産んですぐに亡くなり、イーリンには15歳になっても王族の血の持つ「賜物」のきざしがなかったため、特に従兄のペルリスや従姉のガラナに憎まれ、冷たい仕打ちを受け続けていたのです。そんなイーリンを暖かく見守るのは、年の近い従兄・トーや父のアルベス王、そしてごく少数の人々のみ。そんなある日、国の西部にいる男爵・ニアロルが悪霊の呪いのせいで、王に対する謀反を起こします。イーリンは自分も王の軍勢に入って行きたいと願うのですが…。(「THE HERO AND THE CROWN」渡辺南都子訳)

1985年度ニューベリー賞受賞作品。「青い剣」には歴史上の人物として登場するイーリン姫が主人公。
物語は2部構成になっており、第1部はイーリン姫が竜退治の女王と呼ばれるようになるまで。「青い剣」を読んだ時に、イーリンのことをもっと颯爽とした気の強いお姫様のように想像していたので、案外情けないイーリンの姿に少しがっかりしましたし、その第1部の最初の2章が現在の物語で、3章でいきなりイーリンの生い立ちへと話が移るので、最初はよく分からず戸惑ってしまいました。それでもトーとのやり取りがとても微笑ましくて和みますし、父王・アルベスの愛情もしっかりと感じられて暖かいです。そして第2部は、ダマール王国に降りかかる様々な災いとイーリンとの戦い。黒竜のマワーや亡き母の兄・アグスデェドに立ち向かうことになります。王冠に関して今ひとつ分かりにくく、「青い剣」にも登場していたルーサとのことも、どうも安直すぎるように思えてしまったのですが…。あまり現実感がないですね。マワーの臭気の効果を知って、少し安心してしまったほどです。結果的に、「青い剣」ほどすんなりと楽しめる作品ではありませんでした。それにしても、こちらの方がドラゴンも魔法も登場してファンタジーらしいお膳立てになっているのに、「青い剣」の方が余程ファンタジーらしく感じられるのが不思議ですね。
訳者あとがきによると、ダマール王国シリーズ第3作が予定されていたようなのですが、どうなっているのでしょうね。もし書かれているのなら、読んでみたいところですが…。
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